インバウンド・外食・防衛関連が上場来高値 冷たい風が吹いたのは【12月の高値更新】

佐々木達也
2025年1月7日 12時00分

《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。それは〝伸びしろ〟の表れと言えるのかもしれません。最近ベストを更新して伸びしろを見せているのは、どんな銘柄か。直近で高値をつけた銘柄から相場の流れを読み解く【高値更新を追え!】》

12月相場を牽引した銘柄たち

2024年12月の日経平均株価は反発し、前月末に比べて1694円、4.41%の上昇となりました。決算発表やアメリカ大統領選挙などのイベントが一巡し、レンジ内での値動きとなるなか、注目が集まったのは日米の金融政策でした。

12月中旬に開催された米FOMC(連邦公開市場委員会)で示された2025年の利下げペースは想定よりも消極的でタカ派的な内容でした。経済が堅調なほか、トランプ次期大統領による財政政策などがインフレ圧力になるとの見方が強まっています。

これに対して日銀は、金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決めました。その後の植田和男総裁の発言が金融引き締めに消極的なハト派的な内容であるとの見方も出て、アメリカ金利の高止まりから円安ドル高の流れとなり、輸出株などが買われました。

クリスマス以降は例年通り市場関係者が休暇入りするので、売買も閑散となりました。一方で「閑散に売りなし」の言葉通り、日本株は底堅く推移し、日経平均株価は昨年7月以来、再び4万円台を回復しました。

株価が年末にかけて上昇する「掉尾の一振」の片鱗を見せた日本株市場は、来たる2025年の最高値更新に含みを持たせる値動きで年末の取引を終えました。

こうした中で高値を更新して相場の牽引役となったのは、どのような銘柄か。12月相場で新高値・新安値をつけた銘柄を振り返り、その共通点を探ります。

・高値更新とは?

相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。

【株価の高値更新】
  • 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
  • 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
  • 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象

盛り上がるインバウンド関連

12月の後半はインバウンド関連株の一角が盛り上がりを見せました。

18日に日本政府観光局(JNTO)が発表した11月の訪日外客数の推計値はおよそ320万人。前年同月比31%増、また、コロナ禍前の2019年11月と比べても31%増となり、11月として過去最高を記録しました。

さらに、11月までの累計は3338万人となり、これまでの過去最高であった2019年の年間累計を上回り、過去最多となりました。紅葉シーズンによる訪日需要の高まりにより、中国、韓国、台湾のほかアメリカからの来訪者も増えました。

・J.フロント リテイリング<3086>

こうした状況を受けて、J.フロント リテイリング<3086>は26日に年初来高値2174円まで値上がりしました。前日に発表した9~11月期決算は売上高が9%増、事業利益が18%増と、インバウンドの免税売上高や国内の高額消費などが好調で増収増益でした。

ディスカウントストア「ドン・キホーテ」のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス<7532>も27日に上場来高値4383円を更新するなど株価上昇が続いています。

・日本スキー場開発<6040>

インバウンドはかつての〝爆買い〟に象徴されるモノ消費からコト消費へのシフトが進み、レジャー関連が恩恵を受けています。長野県白馬村などでスキー場を運営する日本スキー場開発<6040>は、26日に年初来高値1225円まで上昇です。

秋の連休には紅葉シーズンでインバウンドを含む多くの来客があり、8~10月期のグループ全体の入場者数は37万人に上り、3年連続で過去最高を記録しました。今冬は日本海側を中心に平年より降雪量が増えており、スキー場にもさらに多くの来場が期待されています。

業績回復で外食関連が買われる

インバウンドに加えて国内では賃上げが進んだこともあり、外食関連の一角の業績が拡大しています。

2024年の春闘では、人手不足やインフレ進行を受け、定期昇給分とベースアップを合わせた賃上げ率は5%台と33年ぶりの高水準となりました。さらに外食チェーンなどは、人件費や原材料価格の高騰を受けて値上げを進めており、収益性が好転しています。

・ゼンショーホールディングス<7550>

「すき家」「はま寿司」を運営するゼンショーホールディングス<7550>は6日に上場来高値9749円まで値上がりしました。

11月に「すき家」の主力商品である牛丼について年内2度目となる値上げを発表。国内、海外とともに業績好調が続いており、4~9月期の既存店売上高は前年同期比9%増と、値上げで客単価の上昇が続いたことが増収につながっています。

・FOOD & LIFE COMPANIES<3563>

「スシロー」や「京樽」のFOOD & LIFE COMPANIES<3563>も同じく6日に年初来高値更新です。「ストリートファイター」「リカちゃん」など子供に人気のあるキャラクターとのコラボでファミリー客に人気です。

また、デジタルビジョンと回転レーンを融合した「デジタルスシロービジョン」の導入を進めるなど設備投資にも取り組んでいます。今期(2025年9月期)は、売上収益は前期比13%増、営業利益は11%増(260億円)という2期連続の最高益更新を見込んでいます。

・丸千代山岡家<3399>

濃厚豚骨ラーメンチェーンの丸千代山岡家<3399>は、19日に上場来高値5180円まで上昇しています。

インバウンド需要の取り込みや値上げ効果に加えて来店客数の増加が続いており、13日には2025年1月期の業績予想を上方修正したほか、期末の配当を積み増すと発表したことが材料視されて買われています。

防衛関連が賑わっている理由

防衛関連銘柄も息の長い上昇が続いています。

26日には、防衛力強化の財源に関して増税案が報じられたほか、27日に政府が閣議決定した2025年度の防衛予算案は過去最大の8.7兆円となりました。台湾海峡やウクライナ侵略で地政学的リスクが高まっていることから反撃能力強化、次期戦闘機開発などにも注力しています。

トランプ次期米大統領が自主防衛の重要性を訴えていることもあり、自衛隊の能力増強の必要性がさらに高まっているのです。

三菱重工業<7011>

三菱重工業<7011>は5日に上場来高値2485円まで値上がりしました。直近では航空・防衛・宇宙部門の受注が高止まりしているほか、トランプ氏が提唱する化石燃料への回帰で火力発電用ガスタービンなども好調です。

・川崎重工業<7012>

川崎重工業<7012>も27日に年初来高値を更新。ブルーインパルスとしても活躍するT-4中等練習機、P-3C哨戒機、輸送ヘリコプターCH-47J/JAなどを自衛隊に納入しています。防衛産業の同業他社に比べて株価に割安感があるとして、直近で見直し買いが入っている模様です。

再生エネルギー関連にトランプ逆風

アメリカのトランプ次期大統領が推進する化石燃料や原子力発電に見直し機運が高まる一方、太陽光や風力などの再生エネルギー関連銘柄には逆風が続いています。

・ウエストホールディングス<1407>

太陽光発電装置やメガソーラーの保守・開発を手がけるウエストホールディングス<1407>は17日に年初来安値1605円まで値下がりしました。

エネルギー価格高騰の一服や蓄電池、余剰売電など見込んでいた再生可能エネルギーの需要が下振れしています。太陽光発電の単価は固定価格買い取り制度(FIT)のため、コスト上昇の影響を売価に転嫁するのが難しいことも影響しています。

バイオマス発電や電力販売事業を手がけるイーレックス<9517>は20日年初来安値562円まで下落です。電力小売り部門、糸魚川発電所でのコスト増などが足元で利益を圧迫しています。

2025年相場の焦点は?

2025年相場は、国内では賃上げやインバウンドなど消費動向、金融政策では日銀の利上げの有無や米FRBの金融政策の行方が、引き続き焦点となりそうです。

こうした中で、今後はどんな銘柄が活躍するのか? 引き続き、高値更新・安値更新の銘柄を中心にウォッチしながら、相場の潮目を探っていきたいと思います。

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[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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