上場来高値をつける建設・電機・銀行 グロース株には逆風も【2月の高値更新】

佐々木達也
2025年3月3日 18時00分

《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。それは〝伸びしろ〟の表れと言えるのかもしれません。最近ベストを更新して伸びしろを見せているのは、どんな銘柄か。直近で高値をつけた銘柄から相場の流れを読み解く【高値更新を追え!】》

2月相場を牽引した銘柄たち

2月の日経平均株価は続落し、前月末に比べて2417円、6.11%の値下がりとなりました。昨年の秋以降、日経平均株価は4万円程度を上値とするボックス圏での相場展開が続いていましたが、それを下へ抜けた形です。

2月は決算発表も一巡し、円安や半導体、非製造業などの企業を中心に堅調な内容でした。また、上旬には石破首相が訪米し、トランプ大統領との日米首脳会談に臨みました。一部で懸念されていた追加関税や防衛増額などへの言及はなく、イベント通過として安心感につながりました。

しかしながら、アメリカによる各国への追加関税発動への懸念が響いたことに加え、日米の金利上昇も円高進行も相まって、月後半にかけては下値を試す弱い動きとなりました。

こうした中で高値を更新して相場の牽引役となったのは、どのような銘柄か。2月相場で新高値・新安値をつけた銘柄を振り返り、その共通点を探ります。

・高値更新とは?

相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。

【株価の高値更新】
  • 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
  • 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
  • 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象

追い風受けて活況の建設業界

2月の日本株相場では、米トランプ大統領による追加関税への不透明感や、円高ドル安が進行したことを受け、輸出関連株から内需株などへと資金をシフトさせる動きが見られました。そのひとつが建設株です。

近年、建設業界は人手不足や材料価格上昇などのコスト増で利益率が低下し、業績への重荷となっていました。しかし最近は、大手ゼネコンなどの受注残高が増える中で顧客への値上げ要請が通りやすくなり、利益率が改善しています。

また、埼玉県八潮市での陥没事故や所沢市での水道管破裂などのニュースにより、国内のインフラ老朽化が問題視されていることも、建設株への〝思惑買い〟につながっています。

さらには、経済安全保障を推進する流れで、データセンターや製造業の工場などの新規建設案件が伸びていることも追い風となっています。

・清水建設<1803>

大手ゼネコンの一角である清水建設<1803>は、19日に昨年来高値1491円まで値上がりしました。1月31日に発表した2024年4~12月期決算は、売上高は前年同期比8%減と減収ながらも、営業利益が前年同期の赤字から黒字に改善したことも株式市場で評価されています。

マンション建設のファーストコーポレーション<1430>も同じく19日に昨年来高値を上回っています。

・関電工<1942>

電気設備工事関連にも物色が広がっています。東京電力系で電気工事の関電工<1942>は5日に上場来高値2720円まで上昇しました。

民間部門の旺盛な建設投資を受けて、1月31日に2025年3月期の業績予想を上方修正しました。また、期末の配当予想についても引き上げたことに加えて、予想PER(株価収益率)は10倍台前半と割安感があることも、市場で好感されています。

ダムやトンネルなどに強みを持つ安藤・間<1719>は27日に上場来高値1363円まで値上がりです。こちらも公共や民間部門の旺盛な建設投資で、13日に今期業績予想の上方修正、増配を発表。建設業界は活況となっています。

総合電機はそれぞれの道で新高値

総合電機各社の株価や業績が好調で、軒並み新高値となっています。かつての重電や家電などのメーカーから、強みを生かせるBtoB企業へと事業ポートフォリオ改革が進んだ結果、各社とも事業領域がだいぶ異なっています。

・日立製作所<6501>

日立製作所<6501>は18日に上場来高値4448円を付けています。AI基盤「ルマーダ」のほか、再生可能エネルギーや送電網設備といったグリーントランスフォーメーション(GX)、ITなど複数の収益の柱が好調に推移し、業績拡大につながっています。

世界的なデータセンターなどの建設ラッシュによる電力不足もあり、AI・電力関連銘柄として海外投資家からも人気の銘柄となっています。

・ソニーグループ<6758>

ソニーグループ<6758>も18日に上場来高値3904円まで買われました。

直近では「プレイステーション(PS)5」の世界販売が好調で、有料ネットワークサービス会員数も着実に増えています。ゲーム、音楽、映画などのエンターテインメント事業の売上高は、グループ全体の6割を占めるまでに成長しています。

また、「スポティファイ」など音楽ストリーミング配信も伸びており、保有しているIP(知的財産)の価値を最大化できる事業ポートフォリオの収益力の底上げが業績につながっています。

・パナソニック ホールディングス<6752>

パナソニック ホールディングス<6752>も18日に昨年来高値1919円まで値上がりしました。

4日にグループの経営改革について発表し、業績が低迷していたパナソニック(家電を手がける子会社)を今年度中に解散し、複数の事業会社に分割するとしました。テレビ事業については売却も視野に入れているとしたこともあり、株式市場では好感されました。

そのほか、生成AIサーバー向けの電子デバイス・材料やデータセンター向け蓄電システムなどの販売も伸びています。

金利上昇で金融株の値上がり続く

2月に続き、金融株も値上がりが続いています。インフレの進行や日銀の追加利上げ観測で長期金利の上昇基調が鮮明となり、金融株の物色につながっています。

総務省が21日に発表した1月の全国消費者物価指数は、前年同月比で4.0%上昇となり、前月から伸びが加速しました。電気代や都市ガス代、キャベツなどの野菜を含む生鮮食品の値上がりが顕著になっています。

審議委員のひとりが講演で追加利上げを示唆する発言をするなど、市場では追加利上げの予想が高まっています。

そんな中、みずほフィナンシャルグループ<8411>と三井住友フィナンシャルグループ<8316>はともに19日に昨年来高値を更新しました。同じく19日に三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>は上場来高値2039円を付けています。

岩手銀行<8345>、百五銀行<8368>などの地銀も同日に昨年来高値となり、銀行株が軒並み新高値となりました。

グロース株の一角に逆風吹く

金利上昇で金融株などに物色が向かった一方、グロース株成長株)の一角には逆風の展開となりました。

「ディズニーランド」などを運営するオリエンタルランド<4661>は21日に昨年来安値3021円まで下落しました。値上げによる入園者数への影響や敷地拡張に限界があることから、成長が鈍化するのではないかなどの思惑もあり、足元では下落基調が続いています。

ディスカウントストアの「業務スーパー」を運営する神戸物産<3038>は20日に昨年来安値3170円まで下落しました。前期(2024年10月期)は主力事業が大きく伸長し、売上高や営業利益は過去最高となりましたが、株価は2024年9月の4715円をピークに調整局面が続いています。

家具・インテリア大手のニトリホールディングス<9843>は28日に昨年来安値まで下落です。販売競争の激化や人件費の高騰、原価上昇の影響で利益率が足元で低下気味となっています。

賃上げや消費動向に加え、日銀の追加利上げや米FRBの利下げなど金融政策の行方が焦点となる2025年の日本株相場ではどんな銘柄が活躍するのか? 高値更新・安値更新の銘柄にも注意を払いながら、相場の潮目を探っていきましょう。

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[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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