配当の拡大で個人投資家に広がるチャンス 投資を成功させる鍵とは?

日本企業の配当政策が大きく変わりつつあります。2025年3月期は多くの上場企業が配当の増額を発表し、配当総額は4年連続で過去最高を更新する見通しです。この動きは投資家、特に新NISAを活用する個人投資家にとって大きなチャンスといえます。
日本企業の配当が拡大している理由
2025年3月期は期初から353社が配当予想を引き上げ、配当総額は約18兆円に達する見込みです。2024年に配当方針を見直した企業は前年比4割増の321社に達し、過去最多を記録しました。
例えば青山商事<8219>は、「連結配当性向70%」または「DOE(株主資本配当率)3%」のいずれか高いほうを採用する方針を打ち出し、年間配当を前期比62円増の127円としました。
こうした企業の積極的な姿勢には、東京証券取引所の市場改革による資本効率改善の要請が大きく影響しています。2025年3月期の自己資本利益率(ROE)は約9%と低迷する見通しで、企業は株主還元策を強化することで投資家の信頼を得ようとしています。
個人投資家の配当への関心も急速に高まっています。NISA口座の買い付けランキングでは、日本たばこ産業(JT)<2914>や日本電信電話(NTT)<9432>といった高配当株が上位に並び、投資家の注目度の高さを示しています。
上場企業の株式の約2割を個人投資家が保有するという現状において、今期の配当収入は税引き前で約3兆円と、コロナ前と比べて5割も増加する見通しです。これは国内総生産(GDP)の約0.5%に相当する規模です。
また、株主還元策としては、配当だけでなく自社株買いも活発化しています。3月期決算企業が2024年4〜12月に設定した自社株取得枠は前年比7割増の約15兆円となり、2020年3月期以来の高水準となっています。
配当株投資の基礎知識
配当とは企業が得た利益の一部を株主に分配する仕組みで、権利確定日に株主名簿に記載された株主に対して、保有株式数に応じて支払われます。日本企業では年に1〜2回の配当が一般的です。
配当水準を測る代表的な指標には「配当性向」があります。これは純利益のうち配当に充てた割合を示すもので、2025年3月期の上場企業の配当性向は36%と予想されています。
たとえば、SBIホールディングス<8473>は2025年3月期の連結配当性向を30%と見込んでいます。 また、みずほフィナンシャルグループ<8411>では配当性向40%を目安に配当を決定する方針を掲げています。
投資家にとって重要な「配当利回り」は、年間配当額を株価で割って算出され、投資額に対する配当の割合を示します。東証プライム市場の予想配当利回りは2.65%となっています(2月末)。
拡大傾向にある配当ですが、もちろん、業績悪化時には減配されるリスクがあることも忘れてはなりません。
賢い高配当株の選び方
高配当株は安定した収益源として魅力的ですが、配当利回りが異常に高い場合は注意が必要です。株価が不自然に低く、減配懸念など何らかの問題をすでに市場が織り込んでいる可能性もあるからです。
これは「配当の罠」と呼ばれることもあり、見かけ上の高配当に惑わされないよう注意すべきポイントです。
安定した配当収入を目指す人におすすめしたいのは、「連続増配」や「累進配当」の銘柄です。連続増配株は長年にわたり増配を続けている企業、累進配当株は減配せず継続的に配当を増やす方針を持つ企業のことです。
これらは高配当ランキングの上位には入らないことが多いものの、長期的に配当が増えれば「取得単価に対する利回り」(株主にとっての実質利回り)は上昇します。例えば、100円で購入した株が当初2円の配当(2%)だったとしても、10年後に8円の配当になれば、実質利回りは8%となります。
銘柄選定の際には、企業のIR資料などで配当方針を確認することが重要です。
配当の原資が十分でも経営陣の株主還元意識が低ければ増配は期待できないため、明確な配当方針の有無は大きな判断材料となります。「配当性向〇%を目指す」「DOE(株主資本配当率)〇%以上を維持する」など、具体的な数値目標を掲げている企業は株主還元への意識が高いと考えられます。
また、配当の持続可能性を判断する指標として、配当性向が30〜40%程度か、自己資本比率が30%以上あるか(金融業を除く)といった「配当余力」も確認しましょう。
配当性向が過度に高い(例えば7%以上)企業は、業績が悪化した際に減配リスクが高まります。同様に、自己資本比率が低い企業は財務基盤が脆弱で、経済環境の悪化時に配当維持が難しくなる可能性があります。
配当株投資の成功への鍵
長期に安定した増配を実現するには、企業の持続的な成長が不可欠です。安定的に増益が見込める企業のビジネスモデルを分析し、長期的な視点で投資することが、配当株投資における最も堅実な戦略といえるでしょう。
景気変動の影響を受けにくい生活必需品セクターや、独占的な市場地位を持つ企業、参入障壁の高い事業を展開している企業などは、安定した配当成長が期待できます。
さらに配当株投資では、単一銘柄に集中せず、セクターや地域を分散させたポートフォリオ構築も重要になります。例えば、国内株だけでなく、アメリカやヨーロッパの優良配当株に分散投資すれば、為替変動リスクはあるものの、日本市場特有のリスクを軽減できます。
特にアメリカには「配当貴族」と呼ばれる25年以上連続増配を続けている企業群があり、長期投資家から高い評価を受けています。
配当再投資の効果も見逃せません。受け取った配当金を再び同じ株式や他の配当株に投資することで、複利効果により長期的な資産形成が加速します。
特に若い投資家や資産形成期の投資家にとっては、現在の高配当よりも成長性と配当の安定的な増加を重視し、配当再投資戦略を採用することで、将来的により大きなインカム収入を得られる可能性が高まります。
配当株投資は単に目先の高い配当利回りを追いかけるのではなく、企業の財務健全性、成長持続性、経営陣の株主還元姿勢などを総合的に分析し、長期的な視点で取り組むことが成功への鍵となります。