あなたと金融機関は「利益相反」の関係 相談すると損をするかも?

高橋忠寛
2016年11月21日 9時00分

実は、金融機関にお金の相談をしていけない

みなさんは資産運用のことを誰に相談しますか? 「お金の運用について相談するのだから、銀行や証券会社の窓口の人に聞くのが間違いないでしょう」と多くの人は言います。実際に、銀行や証券会社の窓口には多くの相談者がやって来ます。

でも、本当にそれでいいのでしょうか?

あなたのコストは、金融機関の利益

多くの人が「お金の身近な相談相手」だと思っている金融機関の窓口の担当者にも、営業目標があります。投資信託や保険商品などの金融商品を販売することによって、実績をあげていく必要があります。

そして、銀行にしても証券会社にしても営利企業ですから、顧客から支払われる手数料によって経営が成り立っています。

金融機関の営業担当者と顧客は「利益相反の関係」にあります。これは、一方が利益を上げようとすると、他方は利益が損なわれる関係です。

個人が効率よくお金を増やしたいと考えるのであれば、なるべく手数料は払わないほうが得なはずですが、金融機関にとっては、手数料を多く払う顧客ほど「ありがたいお客さま」です。つまり、「個人にとってのコストは、金融機関にとっての利益」ということになり、ここに「利益相反の関係」が生じます。

窓口担当者は「資産運用のプロ」ではない

たとえば、ゴルフの腕前を磨いて良いスコアを出そうと思ったら、自己流で取り組むよりも、レッスンプロに習って正しいフォームを身につけたほうが近道ですよね。それと同じように、資産運用を始めたいと思ったら、専門家に相談してアドバイスをもらうのが効率的です。

でも、多くの人が「資産運用の相談相手」だと考えている金融機関の担当者は、「資産運用の専門家」なのでしょうか? 答えはNOです。

彼らは「資産運用のプロ」ではありませんし、「資産運用アドバイスのプロ」でもありません。金融機関の担当者は「金融商品の販売のプロ」です。そういった立場にある相手に相談することは、床屋に行って「髪を切ったほうがいいですか?」と聞くようなものです。

金融機関の窓口の営業担当者は、単なる「金融商品の売り手(営業員)」であるということを、まずは理解しておく必要があります。

もちろん、なかには「自分は会社の利益よりお客さまの利益を優先している」という人もいるかもしれません。でも、金融機関も営利企業です。売上や利益を伸ばす努力をするのは当然のこと。「少しでも多くの利益を上げるため」という発想は営利企業である以上、非難すべきことではありません。

顧客側の意識にも問題あり?

その一方で、私たち顧客側に問題はないのでしょうか?

たとえば日常の生活用品などは、少しでも安くて質の良いものを探して買うのは当たり前ですが、金融商品に限っては、自分の購入している金融商品にどれくらいのコストがかかっているのか、質は問題ないのか、といったことに無関心であるケースも決して少なくありません。

私たちがコストに無頓着であればあるほど、金融機関からするとありがたく、コストの高い金融商品を売りやすい相手となります。

時間軸の違いから生まれる悲劇

金融機関と顧客とでは、資産運用の時間の意識に決定的な違いがあることも大きな問題です。

ネット証券で株式の売買をしている人であれば、短期のトレードで儲けたいと考えている人が多いでしょう。しかし、金融機関の窓口に相談に行こうとするような人であれば、そんなに短期間で大きな利益を狙いたいとは思っていないでしょう。どちらかといえば、長期にわたってじっくりと少しずつでも資産形成をしていきたいと考えているはずです。

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そうであれば、急いでお金を投じる必要性はないはず。投資をするタイミングは「いますぐ」でなく、「いつでもよい」となるはずです。しかし、金融機関はそのようには考えません。なぜなら、「ノルマ」といわれる目標数字があるからです。

目標数字は、営業担当者ひとりひとりについて一定期間ごとに管理されています。会社によって、取引金額で管理していたり手数料収入で管理していたり、金額にも違いがあると思いますが、この「ノルマ」をこなせないと、自分自身の営業成績、そして昇進にも関わってきますから大変です。

そうやって営業成績を管理されていると、次のようになってしまうのです。

顧   客「いつ買うの?」
営業担当者「いまでしょう!」
顧   客「いつ売るの?」
営業担当者「いまでしょう!!」

本当ならば売り買いせずに、長期で保有したほうが顧客のためだとわかっていても、ノルマを達成するために、短期で売り買いするようなプランを提案してしまうのです。

金融機関の営業担当者からすれば、顧客が売ったり買ったりしてお金を動かしてくれたほうが、自分の営業成績につながります。したがって、どうしても短期のうちに運用収益を稼げる投資信託に誘導しがちになります。顧客は短期的な結果を求めていないにもかかわらず、です。

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当然、短期間で値上がりする可能性の高い金融商品は、それだけ値動きが激しいものです。新興国の株式市場や特定のテーマに沿った運用を行う投資信託などは、その代表例といってよいでしょう。こうした投資信託を買った後、運よく大きく値上がりしたら、きっと営業担当者はこう言ってくるはずです。

「お客さま、利益が出て良かったですね。いまのうちに利益を確保しておきませんか? いまお持ちの投資信託はリスクも高いですし、これを解約して、こちらの投資信託に買い換えて、運用の見直しをされてはいかがでしょうか?」

こうして次々に乗り換えを勧められ、そのたびに購入手数料を取られていきます。投資の時間軸に対する意識の差も、顧客と金融機関との「利益相反」を生む土壌になっているのです。これは構造上の問題と言えるでしょう。

相談相手選びは慎重に

お金のことを相談する相手は慎重に選びましょう。金融商品の売り手に相談すると、相手にとって望ましい商品を勧められるかもしれません。大事な資産を運用していくわけですから、自分自身でも情報収集に取り組み、主体的に考えていく必要があります。

そして、資産運用はそれほど難しくありません。まずは失敗しても困らない少額から取り組んでいくことをお勧めします。

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[執筆者]高橋忠寛
高橋忠寛
[たかはし・ただひろ]株式会社リンクマネーコンサルティング代表取締役。上智大学経済学部経済学科卒業。東京三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)、シティバンク銀行での10年超の銀行勤務を経て、2014年9月に独立。投資助言代理業者[関東財務局(金商)2855号]として、金融商品の販売には関わらない完全に独立した立場で、資産運用を中心に資産管理についての総合的なアドバイスを提供している。著書に『銀行員が顧客には勧めないけど家族に勧める資産運用術』(日本実業出版社)がある。 ファイナンシャル・プランナー(CFP) 、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)
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