株式投資の王道、ファンダメンタルズ分析の基本の“き”

岡田禎子
2018年6月28日 8時00分

「調査なしの株式投資は、カードを見ずにポーカーをするようなものだ」——これは、アメリカの著名な投資家であるピーター・リンチの言葉です。株というゲームのテーブルにつくには、カード(銘柄)を調査する仕方を知っておく必要があります。

銘柄分析の王道のひとつ、ファンダメンタルズ分析の基本を解説します。

ファンダメンタルズ分析って?

株式投資における銘柄分析の方法には、主に短期トレードにおいて用いられる「テクニカル分析」と、長期投資をする際に必要となる「ファンダメンタルズ分析」の2つがあります。

テクニカル分析は過去のチャートパターンや指標などから今後の値動きを予想しますが、ファンダメンタルズ分析では、企業の業績や外部環境など株価を動かす「材料」から業績予想を行い、現在の株価が割安か割高かを判断します

ちなみに、「ファンダメンタル(fundamental)」とは「基本的な」といった意味で、そこから「ファンダメンタルズ」は、売上高や利益、純資産価値など、企業価値を評価するための基礎的な財務データを指します。

「株価は企業の成長に連動する」が基本

下は、資生堂<4911>の株価の動向と、売上高・営業利益の推移です。

これによると、株価が業績に素直に連動していることがわかります。株価は(最終的には需給で決まるものの)中長期的に見ると企業の利益成長(業績)に連動する、というのがファンダメンタルズ分析のベースとなる考え方です

業績を引っ張る「成長ドライバー」とは

ファンダメンタルズ分析によって銘柄を調査することで、何がその企業の「成長ドライバー」となっているのか、なぜ収益性が高いのか、成長を持続することは可能なのか、さらに同社を取り巻く環境などを把握することができます。そこから、業績予想を行うことができるようになるのです。

「成長ドライバー」とは、好調な業績を引っ張っていく源となっている要因、つまり成長の「原動力」となっているものです。たとえば、他社が容易には真似できない大ヒット商品や、画期的なビジネスモデルなどが成長ドライバーとされます。

初心者のための5つのポイント

ただ、ひと口にファンダメンタルズ分析といっても、その情報量は膨大で、調査も煩雑になりがちです。初心者の方にまず押さえておいてほしいのは、以下の5つのポイントです。

  • 営業利益
  • 売上高
  • 利益率
  • 成長要因
  • 他社比較

・営業利益:成長は加速しているか?

最初に「営業利益」を確認します。ここでは、利益の伸びが加速しているかどうか、前期よりも利益が大きく伸びているかどうかに注目します。株式市場で評価されるのは、利益成長が加速している銘柄だからです。

・売上高:強い成長となっているか?

次に「売上高」で業績の伸びを確認します。なぜなら株価が大きく上昇するには、売上高の好調による強い利益成長こそが要因となるからです。

・利益率:売上に利益が伴っているか?

さらに、売上高に占める営業利益の割合を示す「利益率」の動向も重要になってきます。売上の成長に利益率の上昇が伴うと、利益は飛躍的に大きく伸びるからです。

・成長要因:何が成長ドライバーなのか?

続いて、何が企業の成長ドライバーになっているのかを確認します。セグメント別やセクター別の決算概況などから、どの事業が成長しているのか、どこで利益を伸ばしているのかを読み取ります。

・他社比較:銘柄独自の強み・弱みは?

調査している銘柄の売上動向を、同業他社および業界統計と比較してみることも重要です。業界統計の数値と比べて違和感がないかを確認し、同業他社と比較することで銘柄独自の強み・弱みを把握しましょう。

「決算短信」で業績動向を確認する

これら5つのポイントをチェックすることで、企業の業績動向を知ることができます。ここ最近の業績が具体的にどうなっているかを知ることは、今後の業績を予想する大きな手がかりとなります。

なお、これらの数字は「決算短信」から確認することができます。証券取引所の適時開示ルールにのっとって企業が公表する決算書類で、業績や財務状態など豊富な情報をタイムリーに得ることができ、投資家にとって非常に役立ちます。

実際の決算短信を使った業績動向の読み解き方は【実践編】でご紹介します。

会社計画から業績を予想する

ファンダメンタルズ分析の最終目標は、自分なりに企業の業績予想をすることです。

それには、会社が発表した経営計画から「前提」を把握し、そのストーリーや中身を検証していく必要があります。売上高、営業利益、利益率の他にも、原材料価格の動向や設備投資の計画内容などもチェックし、会社計画の達成には何が課題なのか、株価にはどう影響しそうなのか検証します。

アナリストがカバーしているような大型株であれば、市場コンセンサス(=アナリスト予想)の数字も確認しましょう。決算内容が市場コンセンサスとズレていた場合、それによって株価が大きく上下することもあるからです。

では、具体的にはどこに注目すればいいのか。これも資生堂を例に【実践編】で詳しく解説します。

自分なりの予想があれば慌てずに済む

ただし、最も重要なことは、会社計画の数字が保守的なのかチャレンジングなのか、計画通りに着地しそうなのかどうか、自分なりの業績予想を持つことです。そうすれば、突発的なニュースによる急落にも右往左往することがなくなるでしょう

また、自分がイメージした業績予想に対して実際の決算内容はどうだったか、予想通りだったのか違っていたのか、常にチェックを繰り返すことが大切です。

じっくり分析する楽しさを

「基本的な」という元の意味とは裏腹に、ファンダメンタルズ分析に用いられるデータや情報は膨大でキリがありませんが、「売上高」「営業利益」「利益率」に注目するだけでも、対象企業のビジネスを把握し、業績を予想することが可能です。

まずは1枚のカードをじっくりと分析し、そこから同業他社や興味のある企業に広げていくのもいいでしょう。得意な銘柄が増えることで投資に対する自信もつき、それがいずれ大きな利益へとつながっていくはずです。

テクニカル分析で値動きを予想するか、ファンダメンタルズ分析で業績を予想するか。人によって手法の違いや、あるいは向き不向きがあるのは当然ですが、もしも長期保有を狙っているなら、じっくりと分析する楽しさを、ぜひ味わってみてください。

[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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