注目が集まっている「スマートベータ」は、アクティブ運用よりも勝てるパッシブ運用?

山下耕太郎
2019年12月4日 8時00分

関心高まる「スマートベータ」を知る

欧米の機関投資家中心に「スマートベータ」への関心が高まっています。国内でも2014年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、スマートベータ型アクティブ運用を始めたことで注目が集まり、スマートベータ型のETF(上場投資信託)の数も増えています。

スマートベータとは?

スマートベータ(smart β)は「賢い指数」と訳されます。

運用において用いられる指数の多く(TOPIXやS&P500など)は「時価総額加重型」で構成されています。この時価総額加重型とは、対象となる銘柄を時価総額に応じてウェイト付けした指数です。

たとえば、銘柄Aの時価総額が銘柄Bの時価総額の5倍だとすると、銘柄Aが指数に与える動きは、銘柄Bの動きに比べて5倍の影響力があることになります。

一方、スマートベータは、従来の時価総額加重型のように市場の平均や値動きを示す指数ではなく、ROE(自己資本利益率)や株価変動率など、時価総額加重型とは異なる一定の基準で選定された銘柄で構成される指数のことをいいます。

たとえば、ROEに着目したスマートベータに「JPX日経400」があります。組み入れる銘柄が時価総額加重型と違うため、市場の代表的な指数であるTOPIXとは異なるリスク・リターンの特性を有します。

機関投資家に広がるスマートベータ

スマートベータを用いた運用は、TOPIXなどの指数に連動することを目指す「パッシブ運用」と、ファンドマネージャーが銘柄を撰んでベンチマーク(目標となる指数)を上回る投資成果を目指す「アクティブ運用」の、中間に位置するものといえます。

アメリカでは、2016年にETF(上場投資信託)の約2割をスマートベータ型ETFが占め、ヨーロッパでも市場規模が拡大しています。2019年の調査によると、機関投資家の58%がスマートベータを採用しているという結果が出ており、2018年から10%増えて過去最高となりました。

日本では、2014年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、国内株式運用で初めてスマートベータ型アクティブ運用を採用したことで認知度が大きく上がり、2018年1月末時点で1.6兆円まで純資産額が拡大しています。

ETFでスマートベータを買う

スマートベータにはさまざまな種類がありますが、それらに連動することを目指すスマートベータ型ETFが東京証券取引所に上場しているので、個人でもリアルタイムで取引できます。

ここでは、代表的な「高配当」「最小分散」「クオリティ」の3つについて紹介したいと思います。いずれも株価の動きがみせる「クセ」に着目し、市場平均よりも高いリターンを狙おうとする手法です。

高配当

配当利回りの高い銘柄を選定するのが「高配当」です。市場全体よりも2%ほど配当利回り(配当÷株価)が高いのが一般的で、市場全体の利回りが2%の場合、高配当指数の利回りは4%程度になります。

・NEXT FUNDS 野村日本株高配当70連動型上場投信<1577>

国内取引所に上場するすべての普通株式のうち、今期予想配当利回りの高い原則70銘柄で構成する指数「野村日本株高配当70(配当除く)」への連動を目指すETFです。分配金利回りが3.5%と、東証1部の予想平均配当利回り1.9%を大きく上回っています。

(Chart by TradingView

最小分散

銘柄間の連動性を分析し、変動しにくいのが最小分散です。有名なものとして、MSCIが提供する「最小分散指数」があります。最小分散指数は、通常の時価総額加重型に比べると約3~4割リスク水準を下げるという実績があることから、リーマンショックで大きな損失を出した機関投資家に注目されました。

・iシェアーズMSCI日本株最小分散ETF<1477>

株式ポートフォリオ(資産の組み合わせ)のリスクを最小化するように、銘柄選定および銘柄のウェイト設定を行う最小分散戦略を用いた指数「MSCI日本株最小分散インデックス」との連動を目指すETFです。この指数は、国内取引所に上場している銘柄を対象とした「MSCIジャパン指数」からJ-REIT(不動産投資信託)を除いた銘柄が対象です。

(Chart by TradingView

クオリティ

クオリティは、ROEなどを使ったスコアや企業価値の推計値で銘柄を選びます。これの代表的な指数が「JPX日経400」です。同指数は、「投資家を意識した経営視点」や「資本の効率的活用」など、投資家にとって魅力の高い400社を選定して指数化したものです。

2014年に、GPIFがこのJPX日経400を運用指数に採用し、日銀もJPX日経400に連動するETFを買い入れ対象にしました。また、海外投資家が重視するROEや、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の観点から企業を選定していることから、機関投資家からの注目も集めています。

そういった理由から、JPX日経400連動ETFはスマートベータ型ETFでも最大の純資産規模を誇ります。

・NEXT FUNDS JPX日経インデックス400連動型上場投信<1591>

JPX日経400(JPX日経インデックス400)との連動を目指すETF。純資産総額は8,000億円を超え、スマートベータ型ETFの中でも圧倒的な規模を誇ります。

(Chart by TradingView

気になるアクティブ運用の未来

スマートベータで着目される「高配当」や「高いROE」の銘柄を選ぶということは、決して目新しい手法ではなく、これまでもアクティブ運用で行われていました。しかし、分析能力や情報技術が発達し、これらの指標を「指数化」できるようになったことからスマートベータ運用は普及しました。

先ほど述べたように、スマートベータによる運用は、アクティブ運用とパッシブ運用の両方の特徴を有しています。「市場に勝つパッシブ運用」といってもいいかもしれません。そうとなれば、このスマートベータの広がりによって、今後アクティブ運用の存在意義が問われる時代が来ることも考えられます。

投資信託を選ぶ際には、こうした流れが起きていることも念頭に置いておくといいでしょう。

[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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