ガンホー、アイフル、ソニー… 個別銘柄で振り返るアベノミクス相場
海外からの買いを呼んだアベノミクス相場
2020年8月28日、安倍首相は記者会見を開いて辞任を表明し、2012年12月に発足した第2次安倍内閣は幕を閉じることとなりました。
この間に行われた金融緩和、財政政策、成長戦略の「アベノミクス」の3本の矢の効果もあり、内閣発足時に10,000円弱だった日経平均株価は、辞任発表日の22,882円までおよそ2倍以上となりました。
なかでも2013年4月の日銀の異次元の金融緩和、いわゆる「黒田バズーカ」の効果は大きく、日本株の上昇や円安ドル高に大きく寄与しました。
デフレや先進国の他の通貨の金融緩和効果により、ドル円は2012年に1ドル76円台を付けていましたが、円安ドル高が一気に進み、2015年には一時1ドル125円を付ける場面もありました。円安によりインバウンド需要が伸び、輸出企業の採算が大きく改善。
それまでの日本株は、人口減少や潜在成長率の低迷もあり上値が重く、売買高も薄商いが続いていましたが、海外投資家からの買いが続き、日本株のムードは一変しました。
このアベノミクス相場の最中には、様々な銘柄が大相場を演じたことを思い出します。そこで、筆者自身にとって思い出の深い銘柄を紹介しながら、アベノミクス相場を振り返ってみたいと思います。
思い出の銘柄① 大相場を演じたガンホー
・ガンホー・オンライン・エンターテイメント<3765>
アベノミクス相場の初期では、新興ゲーム株の大相場が印象深いです。その中でよく覚えているのが、「パズル&ドラゴンズ」のガンホー・オンライン・エンターテイメント<3765>。創業者の孫泰蔵氏は、ソフトバンクの孫正義会長兼社長の弟です。
1998年にインターネットオークションの会社として設立されましたが、2002年にゲーム事業に舵を切りました。2005年に当時の大証ヘラクレス市場に上場し、公募価格120万円に対して初値は420万円と高騰したあとも投資家の人気が顕著で、その後、1株2310万円(分割修正前)を付けるなど話題の銘柄でした。
アベノミクス開始の2012年はちょうど「iPhone5」が9月に発売され、スマホブームの待っただ中でした。2012年2月にリリースされた「パズドラ」はすぐに人気となり、株価も上昇が続きました。2012年2月の株価がおよそ19万円だったのに対して、2013年5月には163万円を付け、およそ1年弱で株価は10倍超まで買われました。
このころは、業界紙やネットでダウンロード数の速報が伝わると、すぐに買い材料視されるといった人気ぶりだったのをよく覚えています。
このほか、ゲーム関連ではエイチーム<3662>やコロプラ<3668>なども盛り上がりました。これらの株を月足チャートで見ていただくと、2013年〜2014年頃に高値を付けており、長い上ヒゲを形成していることがわかります。当時の投資家の心理がよく現れた印象的なチャートといえるでしょう。
思い出の銘柄② 息を吹き返したアイフル
・アイフル<8515>
次に思い出す銘柄はアイフル<8515>です。アベノミクスの金融緩和により、資金調達コストが低下するとの思惑や、デフレ脱却でクレジットカードや無担保ローンの利用が増加するとの思惑で、ノンバンク株が賑わいを見せました。
ノンバンク株は、過払い金請求問題の影響で業績は苦境が続いており、アイフルも2011年3月期に320億円の最終赤字を計上しています。2012年3月期はなんとか最終黒字を確保しましたが、売上高に相当する営業収益は前期比2割減と収益の低下が続いていました。
株価も、2012年10月末の株価は219円(分割修正前)と低迷が続いていました。
しかし、アベノミクス開始で金融・証券株に資金が流入すると、ノンバンク株も賑わいを見せ、売買高を伴って上昇が続きました。値動きのある株を好む個人投資家の買いや信用取引の空売りを踏み上げる相場展開が続き、2013年5月には1658円(分割修正前)の高値を付けて大相場を演じました。
同様にノンバンクのオリエントコーポレーション<8585>、アプラスフィナンシャル<8589>も急上昇し、どちらも2013年5月に高値を付けています。
アベノミクスに水を差したバーナンキ・ショック
ちなみに、ガンホーやアイフルなどの高値が2013年5月になっているのは、このときに起こった「バーナンキ・ショック」によります。
2013年5月22日、米FRB(連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長(当時)が議会証言で、それまで続けていた金融緩和策について抑制の可能性を述べたことから、量的緩和の縮小への思惑により、株式市場の不安が高まりました。
翌日の日経平均株価は1,100円超の下落となり、日経平均先物では取引を一時停止するサーキットブレーカーが発動するなど市場は急変動しました。
アベノミクスの開始した2013年初頭は、日本だけでなく、アメリカやヨーロッパなど各国の中央銀行が金融緩和により大規模な資金供給を行っていたため、成長株や金融株など幅広い銘柄に資金の流入が続いていたことの反動が出た格好となりました。
思い出の銘柄③ 電池株の日本マイクロニクス
・日本マイクロニクス<6871>
アベノミクス初期では、充電して繰り返し使える二次電池関連株も期待感から物色されました。日本マイクロニクス<6871>は、半導体の製造工程で使われる計測器具の「プローブカード」やパネルディスプレイの検査装置などを作っているメーカーです。
同社は2013年11月に、ベンチャー企業と共同で「バテナイス」と名付けた量子電池の量産化技術の開発に成功したと発表しました。量子電池は一般のリチウムイオン電池よりも充電可能回数が多く、電力密度が高いなどの利点を持っているとして期待が高まり、投資家の資金流入が続きました。
2013年10月末の株価は655円(分割修正前)でしたが、バテナイスの発表後は短期間に上昇が続き、2014年2月には13,870円(分割修正前)を付けるなど、4か月で約20倍になるほどの大相場となりました。
電池関連の銘柄は、この他にも古河電池<6937>、FDK<6955>などが賑わいを見せました。
思い出の銘柄④ 困ったときはソニー!
・ソニー<6758>
最後に取り上げるのは、アベノミクスの開始移行ずっと上昇基調が続いた銘柄の代表格、ソニー<6758>です。年足では、2012年末から7年連続で上昇が続きました。2020年も現在のところ2019年末の株価を上回って推移しています。
トヨタ自動車<7203>やキーエンス<6861>、エムスリー<2413>なども年足ベースでの上昇が続きましたが、7年連続という条件にはあてはまりません。
この上昇の背景には、ソニーの変革が継続したことがあります。同社は構造改革により事業のポートフォリオを大きく変えました。2012年4月、前社長兼CEOの平井一夫氏が「聖域なき構造改革」としてテレビ事業などの不採算事業の再構築を進めました。
その間に「プレイステーション4」などのゲーム事業や金融事業で収益を伸ばしながら、半導体イメージセンサーなどの新たなビジネスへの投資を続けました。また、映画や音楽などのコンテンツビジネスにも力を入れ、ものづくり企業からの脱却が進みました。
株式市場もこれを評価し、株価は中長期での上昇が続き、2012年末に958円だった株価は、2019年末に7,401円と7倍強になりました。
投資家からの評価としても、大手電機メーカーの中では「稼ぐ力」を評価されているのがソニーです。筆者個人としても、アベノミクス相場の間、「銘柄に困ったときはソニー」という時期が今まで続いていたことを思い出します。
アベノミクス銘柄を次なるヒントに
4つの銘柄でアベノミクス相場を振り返りましたが、これら以外にも物色された特徴的な銘柄はたくさんあります。
首相は交代しますが、コロナ対策もあり、日銀や米FRBの金融政策は緩和的な状況が当面は続きそうです。トレードの合間にでもアベノミクス銘柄を振り返ると、ひょっとすると次のヒントが見つかるかもしれませんね。