暗号資産は信頼できるのか 株式とは異なる時価総額を考える
《まるで「不思議の国」──それが、長く株式の世界で生きてきた者が「暗号資産(仮想通貨)」の世界をのぞいたときの正直な感想だと筆者は言います。株式の視点から、この不思議の森を読み解きます》
暗号資産の森は格差が激しい
暗号資産の森に入っていくと、オレンジ色の丸の中に「$」を模した大きな「B」の文字が書かれている木を見つけた。とてもとても巨大な大木である。
この森の土地勘が無い株式専門の人間でも聞いたことのある「ビットコイン」という暗号資産のシンボルである。シンボルとは、会社や株式で言えばロゴマークや印章だ。ティッカー(銘柄コード)は<BTC>と表示されている。
その奥には、ビットコインの半分くらいの大きさの「イーサリアム」<ETH>、更に小さい「ポルカドット」<DOT>や「ソラナ」<SOL>などもシンボルも見える。周囲を見渡すと、そこには無数の小さな暗号資産の木がいたる所に散らばって生えている。
どうやらこの木々の大きさ自体が、その暗号資産の規模、株式で言えば「時価総額」を表すようだ。
しかしながら、ビットコインとその半分ほどの大きさのイーサリアムだけで、森の大部分を占めているのが驚きだ。他の多くの暗号資産は、虫眼鏡を使わないと見つけることが難しいほど小さな木々がほとんどである。これほどまでに規模の格差があるのは、株式の世界では見られない。
勿論、株式でも時価総額の上位と最下位の差は大きいが、ここでいう格差とは、数千銘柄もある世界で1位(ビットコイン:時価総額シェア40%)と2位(イーサリアム:同18%)だけで暗号資産全体の半分以上を占めるほどの偏り(集中度)のことである。
あの途轍もなく成長したGAFA(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル)の4社でさえ、合計でニューヨーク市場全体の14%程度であることからも、暗号資産の集中度の突出ぶりがわかる(暗号資産の始まりがビットコインだけだったということも主な要因ではあるが)。
暗号資産の時価総額とは何か?
そもそも暗号資産における「時価総額」とはなんだろうか?
株式の時価総額が「株価×発行済み株式数」であることは、株式の世界ではごく当たり前な計算式で、その会社の株価の総価値を示している。
暗号資産の森でも、世の中に発行されている(「流通している」とは言い難いが)各暗号資産の枚数を「循環供給(枚数)」と呼んでおり、発行済み株式数と同様に規模の概念で使用されている。
暗号資産によっては、この循環供給枚数が永遠に増加するもの、増加はするが上限のあるもの、既に上限まで発行されて徐々に減少しているものもある。これは、暗号資産ごとに生まれた(開発)経緯が異なることによるそうだ。
そして、この循環供給枚数に価格を掛けたものが、暗号資産の時価総額と呼ばれている。
- 暗号資産の時価総額=暗号資産価格×循環供給枚数
このような式になるが、株式と異なり、後者は時間とともに増加する(暗号資産の種類によっては不変または任意に減少することもある)。要は各暗号資産で統一されていない。
かの有名なビットコインは発行上限が2100万枚と決められており、現在のところ約1882万枚が発行済み。イーサリアムは発行上限がない。前者の時価総額は約100兆円(時価530万円×1882万枚)で、後者は約44兆円(同37万円×1億1750万枚)だ(いずれも2021年9月時点)。
(「誰が発行上限を決めたのか?」という話は、改めて別の回にしたい)
暗号資産の時価総額の規模は「信頼度合い」に近い
株式でいえば時価総額は会社の総価値を示すが、暗号資産のそれも価値なのかと言えば、少し趣が異なる。なぜなら、循環供給枚数の増加の仕組みが、株式でいう資金調達のための新株発行(増資)ではないからだ(勿論、株式分割でもない)。
暗号資産の循環供給枚数は、マイニング(新しいブロックを「発掘する」という手段で新規の暗号資産を作り出すことの総称)という仕組みに起因する。即ち、信頼度の高い暗号資産ほどマイニングを行う業者が数多く参加し、暗号資産を新規に獲得、それを換金する形で市場に供給しているのだ。
これは、暗号資産の価格が一定以上でないとマイニングをするインセンティブが働かないという、法定通貨ではあり得ない仕組みである(マイニングには電気代や膨大な演算能力をもつコンピュータを準備するなどコストがかかる)。
日本円で言えば、円の信頼度を高める仕事(演算作業)を行った分だけ新しい「お札」が発行され、その「お札」を対価としていただくビジネスがある、というわけだ。これがビットコインでは約10分ごとに行われている。
わかったような、わからないような、なんとも不思議な仕組みである。
暗号資産の信頼は上場が鍵
信頼度という側面は、取引所(暗号資産の森では「交換所」と呼ばれる)への上場の可否でもサポートされている。
株式では、上場していなくとも、その価格は会社の持つ根源的価値に基づいて決まるし、上場していれば取引価格が時価となる。上場していなくとも時価総額10億円の会社はいくらでも存在するだろうし、勿論、上場していれば信用に箔がつく。
一方、暗号資産の時価総額は、価格と循環供給の掛け算であり、取引がなくとも勝手に価格を決めることが可能だ。つまり、循環供給が10枚で、暗号資産価格を1億円と設定すれば、時価総額は10億円の計算となる。
果たして、上場していないものが大半である暗号資産の価値(時価総額)を、このように定めることができるのだろうか? 答えは「否」である。
やはり、一定以上の取引(売買)がないと、その価格に信頼はおけない。従って、暗号資産の時価総額とは「見かけ上の価値」とみなすべきで、いわゆるファンダメンタルズに基づいた価格というものはなく、上場(売買)価格から計算されているに過ぎない。
結局、上場していない暗号資産においては、株式でいう「価値」はないといえる。
「近く上場が見込まれていますよ」といった未上場株式にまつわる勧誘詐欺は後を絶たないが、それは暗号資産でも同様である。株式のほうが少なからず根源的価値がある分、まだマシかもしれない。
暗号資産は、上場かつ時価総額(信頼度)の大きい、しっかりとした木に限って観察すべきだ。日本国内外の取引所に上場している暗号資産は数百銘柄あるので、探しがいはある。暗号資産を投資対象のひとつに選定するにあたっては、最初にこの点をしっかりと認識しておこう。
(続く)