ビットコインを買った税理士の末路 繰り返されるサインとは?

川島寛貴
2017年9月26日 8時00分

ビットコインの繰り返されるサインとは?

真面目で仕事に実直な税理士から相談を受けました。「ビットコインに投資しました! どうしたらいいですか?」。2017年9月8日(金)のことだったと思います。この「どうしたらいい?」という問いに対する答えは、ひとつ——「どうしたいのか?」です。

念のため、投資経験はあるのかを確認したところ、答えは「NO」でした。株式投資や為替(FX)、投資信託や外貨預金に至るまで「お金を消費以外に使ったことがまったくない」という状況でした。

つまり、彼にとって「人生で最初の投資」というわけです。記念すべき第一歩が、泣く子も黙るビットコイン。急上昇と急下降を繰り返し、まさに盛り上がりの真っ最中にあるビットコイン。

この真面目な税理士が、何をきっかけに投資をしようと思い、なぜその対象がビットコインになったのか。聞きたいことは山ほどありましたが、それよりも直感的に「繰り返される金融業界のサイン」が点灯したのではないか、という思いが私の頭をよぎりました。

と、その前に、簡単にビットコインの説明をしておきましょう。

ビットコインとは

ビットコインは、インターネット上でのみ流通する「仮想通貨」です。ブロックチェーン技術を用いて取引内容を台帳に記録していくため、これまでの通貨(ドルや円)と異なり、中央銀行が存在しない世界共通の通貨(になる可能性があるもの)がビットコインです。

その可能性と期待を大いに織り込みつつ、ビットコイン(仮想通貨)は空前のブームとなり、2017年に入ってから約5倍になるまで上昇を続けています。

2017年の初めには、1ビットコインは日本円に対して約10万円の価値(価格)でした。そこからご覧のとおりの急上昇をした結果(よく見ると所々に急下降も交えながら)、8月には45万円超え(取引所によっては50万円近く)まで上昇しました。

そして、私が税理士から相談されたのが、チャートの右端のタイミング(9月8日)でした。

「繰り返される金融業界のサイン」について述べる前に、もう少しだけ脱線させてください。実はこのサインには、よく知られる伝説があるのです。

ケネディと靴磨きの少年の話

アメリカの金融の中心地・ウォール街の片隅で、この「サイン」は現れました。

第35代アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディの父、ジョセフ・ケネディは政治家であり、証券取引委員会の初代委員長を務めた経験をもつ有名な投資家でもありました。

1929年10月、アメリカはバブルの真っ只中。ケネディがニューヨークの街頭で靴磨きの少年に靴を磨かせていると、「いまこの株が上がりますよ!」「相場はまだまだ上昇し続けるから、買わないと損をしますよ」などと、まったくの素人であるはずの少年が雄弁に語ります。その姿を見て、ケネディは保有するすべての株式を売却しました。

その後ほどなくして相場は大暴落し、バブルは崩壊することとなりました。それが歴史に残る「暗黒の木曜日」であり、ウォール街大暴落、さらには世界大恐慌への幕開けでした。ダウ工業株平均は1か月にわたって下げ続けた後、上げ下げを繰り返しながら、1932年7月8日に最高値から89%下落の41.22ドルを付けるまで下げ続けました(最高値はの1929年9月3日の381.17ドル)。

大半の投資家が大きな損失を出すなか、ケネディは「なんの知識もない靴磨きの少年の言動」によって無傷でいることができた——いまもウォール街のみならず投資の世界で語り継がれる伝説です(実際には「株式市場はそろそろ危ない」というパトロンの忠告に従ったとも言われていますが)。

この話にはいろいろな教訓が含まれていますが、相場の歴史(バブル崩壊の歴史)は何度も繰り返し、このような顛末を私たちに見せてくれます。

税理士が買ったビットコインはいま……

では、私に相談してきた税理士はどうなったでしょうか? 少しチャートを進めてみましょう。

中国がビットコインについての規制強化を行ったことや、米JPモルガン・チェースの最高経営責任者(CEO)が「ビットコインは詐欺だ」といった発言をしたことなどもあり、一時30%も急落することとなりました。

その後、急激に戻しているため「崩壊」とは言えませんが、やはりこれは約90年前の「靴磨きの少年」と同じだと言えるのではないでしょうか。驚くべきことに、素人(=税理士)が重い重い腰を上げ、満を持して市場に参加したところが見事に天井(高値)になっています。まさに、歴史に繰り返す。

理由のひとつは「この事実を知るプロがマーケットには存在し、狙っている」からです。つまり、相場が急上昇した最終局面に「素人のカモ」が参入してくるや、その買い玉(買いのポジション)に売り玉(売りのポジション)を当てて高値で売り抜けるのです。それをきっかけに急落が急落を呼び(いわゆる「投げ売り」)、大暴落につながるのです。

ビットコインは投資対象となり得るのか?

2週間ほどで30%強も下落する金融商品を「正しい投資対象」と見られるのか、という話は別の機会にしたいと思います。しかしビットコインは、「素人」が無防備に参加して勝てるような初心者向けのマーケットとは真逆のマーケットであり、あまり言及されることのないリスクも当然潜んでいます。

わかりやすいリスクをひとつ挙げるなら「信託保全」です。法整備が進むにつれて解決されていくとは思いますが、2017年9月25日時点では、ビットコインの取引業者で「信託保全」がされている会社はないと思います。

たとえばFX会社は「証拠金の全額信託保全」が義務化されており、みなさんが投資用に預けた資金は、その会社が倒産しても戻ってきます。しかしビットコインの場合、たとえ取引する会社に数十億の資本金があったとしても、なんらかの理由によって倒産してしまった場合、預けているお金はゼロになるということです。

ビットコインの取引は、このリスクを理解した上での資金管理が必要な、極めて上級者向けのマーケットなのではないかと思います。リスク&リワードという表現がありますが、リスクに見合った最低限の利益を確保しなくてはなりません。

トレードの技術は普遍

真面目な税理士がビットコインを買ったことから、バブル崩壊の歴史を繙き、ビットコインのリスクについてお伝えしました。しかしながら、この混沌としたマーケットにも唯一普遍の事実がある、ということも覚えておいてください。

「変動」があるところにトレーダーは集まります。株が動かなければ為替へ。為替が動かなければコモディティ(金)へ。そしていま激しく変動し、税制も整備されていないビットコイン(仮想通貨)へ。

その「変動」は、人の「上がる(だろう)」「下がる(はず)」といった「思い」によって形成されています。最近ではアルゴリズム・トレード(プログラムされたシステムトレード)も影響力を持ちつつありますが、設計しているのは人です(いまのところ)。そして、そうした人の「思い」を可視化したものが「チャート」です。

だから、チャートを読み解くためにトレーダーはトレンドラインを引き、チャート形状を分析し、ローソク足の位置を把握し、日柄を数えます。つまり、ローソク足が誕生した江戸時代から現代に至るまでトレードの技術は普遍であり、チャートはいつだって活用できる「マーケットの地図」なのです。

真面目な税理士に共感したあなたへ

これから株式投資や為替(FX)、そしてビットコインなどの仮想通貨をはじめようとしている方には、ぜひとも金融や投資・トレードといった基礎を勉強したあとに「リング」に上がってほしいと思います。

マーケットは戦場、戦う相手はプロです。そう、ただクリックするだけで参加できますが、あなたが立っているところは紛れもなく「戦う場所=リング」なのです。

「それじゃ間に合わない!」「いますぐ買わなきゃ!」と焦っているあなたへ。マーケットは逃げも隠れもしません

価格は永久には上がり続けません。しっかりと学んでから参加しても十分間に合います。無駄な損失を出す必要なんてありません。遅すぎるなんてことは決してないのです。いまから一から勉強し、万全の状態でリングに上がりましょう。

[執筆者]川島寛貴
川島寛貴
[かわしま・ひろたか]「みんなの株式(みんかぶ)」創業メンバーとして、多くの億トレーダーやアナリストから豊富な知識とテクニックを吸収。投資アドバイザーとしてセミナー講師などもこなす、通称「為替王子」。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」、「よるべん」(TBS)、日経CNBCほかメディア出演多数。
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