株式分割が増加中! その背景と、個人投資家へのメリット

山下耕太郎
2024年4月22日 12時00分

「個別株を買ってみたいけれど、株価が高くて手が出しづらい……」。そんなふうに思っている人もいるかもしれません。実はいま、「株式分割」によって、より少額から株式を購入できるチャンスが増えています。

株式分割が増えている理由

近年、日本の上場企業において、株式分割の動きが活発化しています。2024年4月1日時点で、株式分割を計画している東証プライム上場企業は42社にのぼり、前年と比べて2倍以上の増加となっています。

この背景には、東京証券取引所が「投資単位の引き下げ」を呼びかけていることがあります。より多くの人に株式投資に参加してもらうため、また、新しい少額投資非課税制度(新NISA)とも関連して、個人投資家の市場参入を促進する目的があるのです。

株式分割とは?

株式分割とは、すでに発行済みの株式について、1株を複数の株に分割することを指します。例えば、1株を2株に分割、1株を10株に分割、といった具合です。

株式分割より、株式の総数は増加します。1株→2株の分割なら2倍、1株→10株の分割なら株式総数は10倍になります。しかし、株式の数は増えても、企業の価値自体に変化はありません。分割で株式数が10倍になったからといって、企業価値が10倍になるわけではないのは当然です。

その結果、分割の比率に応じて、株価が低下することになります。例えば、1株1000円の株式が10分割された場合、株主が保有する株数は10倍になりますが、1株あたりの株価は10分の1の100円に下がります。そのため、保有している金額は1000円のままです。

日本の上場企業の株式は、原則として100株単位で取引されます。そのため、株式分割によって1株あたりの株価が下がれば、株式を購入するために必要な最低投資金額(=100株購入に必要な額)が引き下げられることになるのです。

東京証券取引所は、最低投資金額について「50万円未満」という水準を提示し、株価がこれを上回っている企業に対して株式分割の検討を促しています。こうした取り組みの結果、個人投資家にとってより良い投資環境づくりを進められているのです。

株式分割は買いってホント?

株式分割は理論上、企業の時価総額に対して中立的な要因、とされています。

どういうことかというと、上で説明したように、株式分割によって株数は増えるものの、1株あたりの株価は分割の比率に応じて下がるため、分割前と分割後で時価総額(株価×発行済み株式総数)に変化はないからです。

しかし実際には、株式分割が「買い材料」と見なされることが多く、その理由は主に2つあります。

  1. 需給面の変化
  2. 経営陣の自信の表れ

まず、株式分割によって、新規の投資家が参入しやすくなり、株式の需給バランスが変化します。これが、株価にプラスの影響を与える可能性があります。平易な言い方をすると、購入単価が下がって買いたい投資家が増えることで、株価が上昇する可能性がある、ということです。

また、株式分割は、企業の経営陣が将来の業績に自信を持っている証し、と市場に受け取られることが多いです。株主数が増えて、経営への監視が厳しくなるリスクを受け入れるということは、経営陣の自信の表れだと解釈されるのです。

こうした理由から、株式分割を発表した企業の株式に買いが集まる、といったことが起こります。

株式分割で株価が下がることも

ただし、株式分割によって株価が必ず上昇するわけではありません。株式分割によって株価が下落する可能性のあるケースとしては、以下の3つが考えられます。

  1. 市場全体の下落局面
  2. 業績悪化の兆候
  3. 過度な期待からの反動

株式分割のタイミングが市場全体の調整局面と重なった場合、分割による買い需要の増加があっても、株価は下落することがあります。

また、株式分割が行われた後に企業の業績が悪化する兆しが見られた場合は、投資家のセンチメント(市場心理)が悪化し、売り需要が増加する可能性があります。

さらには、株式分割による株価上昇への期待が過度に膨らんで株価が大きく上昇したようなケースでは、実際の効果がそれほどでもなかった場合、失望した投資家による売りが増加し、株価が下落するケースがあります。

株式分割銘柄を買うときのポイント

株式分割は、株価を引き下げることで、投資家が株式を購入しやすい環境を作り出すことを目的とした施策です。

しかし、株式分割が行われたからといって、無条件に買うのは賢明ではありません。株式投資で成功を収めるには、その他の重要な要素も総合的に分析し、企業の本質的な価値を見極める必要があります。

まずは、企業の業績見通しを確認することが大切です。売上高や利益の成長性、経営陣の戦略、業績予想の修正状況などをチェックし、企業の「将来性」を評価します。

財務状況の「健全性」も、重要なポイントです。自己資本比率やキャッシュフローの安定性、投資効率などから、企業の安全性を確認しましょう。

次に、企業が属する業界の「動向」にも目を配ります。業界の成長性や競争環境、技術革新の可能性などを把握し、その企業のポジショニングを評価する必要があります。

加えて、株価の「割安性」を判断するためのバリュエーション分析も欠かせません。PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの指標を業界平均と比較し、適正な株価水準を見極めるのです。

さらに、株式市場全体の「センチメント」にも注意を払う必要があります。市場のトレンドや投資家心理の変化、政治・経済イベントの影響などを考慮して、最終的な投資のタイミングを決めるようにしましょう。

株式投資に欠かせないこと

株式分割は、個人投資家の市場参入を促進し、株式投資の裾野を広げる目的で行われます。購入金額が下がることで、それまで手が出せなかった銘柄を買えるようにもなるでしょう。

ただし、株式分割によって株価は上がる可能性はあるものの、原則として、企業価値自体に変化はありません。株式分割は一般的に買い材料と見なされることが多いですが、株価の動向は需給バランスによって決まります。

株式分割は投資判断の材料のひとつにはなりますが、それだけで無条件に買うことはリスクが伴います。株式分割を発表・実施した銘柄に投資する場合でも、企業の業績やブランド力など、実質的な価値を見極めることは必要です。

株式投資においては、企業の本質的な価値を理解したうえで、適切なタイミングで判断することが求められるのです。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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