名証・札証・福証それぞれの特徴と、覚えておきたいメリット&デメリット
証券取引所は東京だけじゃない
日本の「証券取引所」といえば、一般には東京証券取引所のことを指しますが、実は東京以外にも証券取引所はあります。現在は、名古屋、札幌、福岡それぞれに証券所があり、そこにだけ上場している銘柄もあるのです。
名古屋証券取引所
愛知県名古屋市にあるのが「名古屋証券取引所」、通称「名証(めいしょう)」です。株式取扱い規模が東京証券取引所、札幌証券取引所に次いで3番目に大きい証券取引所です。
とはいえ、知名度や信頼度の高さを理由に、多くの企業が東京証券取引所への上場を目指しますので、名古屋証券取引所に「単独」で上場している企業は計67社にとどまっています(2020年7月17日現在)。
「単独」と表現したのは、名古屋証券取引所に上場しながら、東京証券取引所など他の市場にも上場している企業が存在するからです。例えば、世界に冠たる自動車メーカー、トヨタ自動車<7203>も名証と東証に重複上場しています。
・名証には3つの市場がある
名古屋証券取引所には、以下の3つの市場があります。
- 名証1部
- 名証2部
- セントレックス(新興企業向け)
名古屋証券取引所の本則市場である名証1部・2部には大手企業や地元の中小企業が上場しており、1999年からは新興企業向けの市場としてセントレックスが開設されています。
【名古屋証券取引所の主な上場銘柄】
- 中部鋼鈑<5461>
- 愛知電機<6623>
- 伊勢湾海運<9359>
- 中部日本放送<9402>
札幌証券取引所
北海道札幌市には「札幌証券取引所」、通称「札証(さっしょう)」があります。
東京・名古屋の証券取引所に加えて、かつて存在していた大阪証券取引所(現・大阪取引所)が「三大取引証券所」と呼ばれるのに対して、札幌証券取引所と、後述する福岡証券取引所は「地方証券取引所」と呼ばれています。
「地方」という呼称から市場規模が小さいように思われがちですが、何と言っても、札幌証券取引所に上場しているRIZAPグループ<2928>の成長もあって、現在では東京証券取引所に次ぐ2番目の市場規模を誇っています。
札幌証券取引所に上場している企業数は、単独上場の16社を含めて計58社となっています(2020年4月28日現在)。
・札証には2つの株式市場がある
札幌証券取引所では2つの株式市場が開設されています。
- 本則市場
- アンビシャス(新興企業向け)
本則市場には、地元北海道の企業がメインに上場。一方のアンビシャスは、本則市場への上場を視野に入れた企業向けの育成市場で、北海道の中小・中堅企業が上場しています。
【札幌証券取引所の主な上場銘柄】
- 北弘電社<1734>
- 北海電気工事<1832>
- 北海道中央バス<9285>
- RIZAPグループ<2928>(アンビシャス)
福岡証券取引所
福岡県福岡市には「福岡証券取引所」、通称「福証(ふくしょう)」があります。単独上場で25社、重複上場で110社、合計135社が上場しています(2020年7月1日現在)。
福証にも2つの株式市場がある
福岡証券取引所には、2つの株式市場が開設されています。
- 本則市場
- Q-Board(新興企業向け)
本則市場に上場しているのは、九州を拠点にしている企業が多いのが特徴です。また、新興企業向け市場のQ-Boardは、「九州周辺に本店を有する企業」または「九州周辺における事業実績・計画を有する企業」が対象となっています。
【福岡証券取引所の主な上場銘柄】
- ヒガシマル<2058>
- 筑邦銀行<8398>
- 福岡中央銀行<8540>
- RKB毎日ホールディングス<9407> など
株式取引が電子化されたことも影響し、近年では、企業が地方証券取引所に重複上場する意義がなくなってきていると言われています。実際、福岡証券取引所では東証などに上場している企業による上場廃止申請が増加しており、Q-Boardに上場する新規公開株の取引がメインとなっています。
大阪取引所(旧・大阪証券取引所)
かつては、その他の地域にも証券取引所が存在していました。ひとつの例が、旧・大阪証券取引所、通称「大証(だいしょう)」です。現在では、株式取引を東京証券取引所と統合し、名前を「大阪取引所」に変更。主に、デリバティブ商品に特化した取引を行っています。
デリバティブ商品とは、株価指数やオプションなどといった「株式に関連するものの、株式とは性質が異なっている金融商品」のこと。金融派生商品とも呼ばれており、大阪取引所は日本の市場におけるデリバティブ商品が最も活発に取引される取引所となっています。
東証以外での取引の注意点
名証、札証、福証に上場しているのはその地域に根付いた企業が多く、投資対象として検討してみようと思う人もいるかもしれません。ただし、東証とは異なる特徴や傾向を十分に理解しておく必要があります。
出来高・流動性がかなり低い
国内の株式取引のシェアは、東証の一極集中状態となっています。2019年10月度の株式取引の売買高において、東証・名証・札証・福証の株式の出来高の合計が約338.5億株であるのに対し、東証のみの合計出来高が約338.3億株、すなわち、99.9%のシェアを占めている状態でした。
逆に言えば、東証以外の取引所が束になっても1%のシェアにも満たないということであり、これは、東証以外の市場で扱われている銘柄は流動性がかなり低いことを意味しています。
流動性が低い銘柄は、材料によって株価が大きく乱高下する可能性が高くなります。大きく値上がりすることもある反面、売買のタイミングが難しく、想定している株価で売買できずに損失が発生するリスクもあり、残念ながら、そのリスクは値上がりのメリットよりも大きいと言えるでしょう。
重複上場銘柄はどちらを買えばいいのか
東証と名証など、複数の取引所に重複して上場している銘柄を購入するときは、どちらの銘柄を購入するべきか、疑問を抱く方もいるでしょう。結論から言うと、東証の銘柄を購入したほうが無難です。
その理由は、やはり流動性です。流動性が高いということは頻繁に取引されているということであり、より有利な価格で注文できる可能性が高くなります。実際、多くの証券会社では「重複上場している銘柄への注文が入った際、より流動性が高い取引所への注文を取り次ぐ」といった方針も取られています。
たまにのぞいてみるのも面白い
このように見てみると、あえて東証以外の証券取引所で取引をするメリットはあまりないようにも思われます。実際、何らかの縁などで買おうという場合でないかぎり、地方企業の株を対象とするのは、メリットよりもデメリットのほうが大きいかもしれません。
ただ、そうは言っても、何が起こる変わらないのが世の中の常であり、実態よりも思惑や期待が先行しがちなのが株式市場というもの。RIZAPの例を見るまでもなく、いつ・どんな地方企業に注目が集まるかはわかりません。そんな気持ちで、たまには東証以外をのぞいてみてもいいかもしれません。