知らないともったいない、金融政策を株式投資に生かす方法

石津大希
2020年10月14日 8時00分

《2020年は新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に伴い、各国でさまざまな金融政策がとられています。金融政策が行われると、株式相場にどのような影響があるのでしょうか。まずは、金融政策と金利、株価の関係性を理解する必要があります》

FRB発表で日米の株価が下落

アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の動向に注目が集まっている。

その内容は、「イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)などによる金利の上限設定にいつ踏み切るのか」というもの。2020年8月下旬には「しばらく視野にない」と判明したことでアメリカ株は下落し、株安の流れは日本株にも連鎖した。

簡単にいうと、FRBは当面の間、金利の上昇を抑制しない(したがって、金利は上昇しやすくなる)という意味で、株価にとってはマイナスに響く。

こう説明されても、いまいちピンとこない話かもしれない。この材料を株式投資に活かすには、金利、株価、金融政策のそれぞれの関係について知っておく必要がある。

長期金利が株価に与える影響

一般的に、金利が下落すると株価は上がりやすくなり、金利が上昇すると株価は下がりやすくなるといわれる。なぜなら、金利が下がると企業が資金を調達しやすくなって業績が上向き、金利が上がると事業を縮小する企業が増えるからだ。

そもそも「金利」とは、借りたお金に追加して支払う利子の割合のこと。預金やローンの利率、債券の利子率などさまざまな意味合いがあるが、株式投資で重要な金利のひとつが「10年物国債利回り」だ。

ノーリスクが意味するもの

10年物国債は、償還期間が10年の国債のことであり、10年物国債利回りは、国債が新しく発行された時点での年率リターンを指す。したがって、この場合の「金利」というのは、一般投資家が国に10年間お金を貸すことで受け取る利息の割合、という意味になる。

株式投資においてリスクとリターンは表裏一体だが、国債は金融商品のなかで最も安全性が高く、ノーリスクであると考えられている。ノーリスクとは、「確実に利回りどおりのリターンが得られる」という意味だ。

したがって、リターンの期待値が国債を超えていなければ、リスクを冒してまで国債以外の金融商品を選ぶ人はいないはずだ。それゆえ、10年物国債利回りは「長期金利」の代表的な指標とされている(以下、金利は「10年物国債利回り」を指す)。

金利変動と「株式価値」の関係

実は、「株式価値」と「株価」は厳密には意味合いが異なり、株式価値とはさまざまな要素を考慮して計算される理論価格のようなもので、株価とはそのとき市場でついている値段を指す。理論上、株式価値は「将来的な株主利益の現在価値合計」として計算される。

どういうことかといえば、来期、再来期、その次の期……と延々に続く(であろう)各期における株主リターンを、それぞれ一定の割引率を考慮した上で合計したもの、それが株式価値だ。平たくいえば「株主が将来得られる全ての利益をぎゅっと圧縮したもの」となる。そのため、将来への期待値が高いほど株式価値は高くなり、それが株価にも反映される。

そして、金利(長期金利)が株式価値、ひいては株価にも影響するのは、この「一定の割引率」というのが、金利をもとに計算されるからだ。具体的には、以下のようにして求められる。

  • 割引率 = 長期金利 + 各銘柄に応じたリスクプレミアム

「リスクプレミアム」とは、各銘柄の事業のリスクに応じて求められるプラスアルファのリターンである。例えば、成熟した小売業であれば業績のブレが少なく低リスクなのでプレミアムは少なめだが、バイオベンチャーなどは未成熟で非常にハイリスクなので大きくなる。

この計算式によって、金利が上昇すれば割引率が高くなり(→株式価値が下がる)、低下すれば割引が少なくなる(→株式価値が上がる)のである。それゆえ、金利の上昇局面では株価が下がりやすくなり、低下局面では株価が上がりやすくなるのだ。

  • 長期金利が上昇 → 圧縮力アップ(株式価値が低下)= 株価下落
  • 長期金利が低下 → 圧縮力ダウン(株式価値が上昇)= 株価上昇

株式市場で最も大きな影響力を持つ機関投資家も、金利を考慮したうえでファンダメンタルズ分析を行う。そして、導き出した株式価値をそのときの株価を見比べて、割高か割安かを判断している。

そもそも金融政策とは何なのか?

金融政策と金利の関係について考えてみよう。

金融政策とは、金利や通貨の供給量を調節することで、物価や経済の安定を図るための政策をいう。買いオペ・売りオペ、公定歩合や預金準備率の変更、公開市場操作などがあるが、大きく「金融緩和」と「金融引き締め」に分けられる。

金融緩和とは市場や経済に流通するお金の量を増やす施策であり、お金の量が増えると債券投資も活発となるため、債券価格が上昇することで金利は低下する。反対に、金融引き締めはお金の量を減らす施策だ。お金の量が減ると債券を売る流れが強まり、金利は上昇することになる。

  • 金融緩和…………お金の量を増やす → 債券が買われる(価格上昇)→ 長期金利は低下
  • 金融引き締め……お金の量を減らす → 債券が売られる(価格下落)→ 長期金利は上昇

金融政策の内容については各国で似通っているが、やはり経済大国であるアメリカの影響力は大きい。「アメリカの金融政策によってアメリカ株が上下すると、日本株も連動して上下する」という流れは、わかりやすいシナリオのひとつと言える。

金利動向から見つかるチャンス

株主がリターンを得る時期が遠い未来であればあるほど、金利変動が与える影響は大きくなる。つまり、5年後に10億円のリターンをあげる会社と、10年後に10億円のリターンをあげる会社とでは、金利が上下したときの株価の騰落率は後者のほうが大きいということだ。

これを踏まえると、今は投資段階にあり、将来的に大きなリターンを得ることが期待されている「成長株」は、すでに収益計上段階にある「成熟株」と比べて、金利の変動の影響を大きく受ける、ということになる。

そのため、例えば金利が低下した局面では成長株の保有割合を増やすと、キャピタルゲインを得やすくなる。反対に、金利が上昇した局面では成長株の保有割合を減らしたり空売りしたりすることで、パフォーマンスを上げることができるようにもなるだろう。

金融政策や金利の話題は大きなニュースとして取り上げられるものの、それが自分の投資活動にどう影響するのかはなかなかわかりにくい。また、株価というのは常にセオリーどおりに動くものでもない。それでも、金融市場を動かす金利に目を向けることで、新たな投資チャンスを見つけられるかもしれない。

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[執筆者]石津大希
石津大希
[いしづ・だいき]外資系投資顧問会社で株式アナリストとして勤務したのち独立。ファンダメンタルズ分析の経験を生かして、客観的データや事実に基づく内容を積極的に発信。市場で注目度の高いトピックを取り上げ、深く、そして、わかりやすく説明することを心がける。
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