3万円突破も日本株は出遅れ? それでも上場来高値を更新する意外な銘柄
《2020年は2〜3月にコロナショックが起きたものの、その後は目覚ましい株価回復をとげ、さらに現在は指数や株価が高値更新を続けています。次なるチャンスをものにするために、コロナ禍における各指数の値動きと、コロナの〝恩恵〟を受けた銘柄を改めて確認しておきましょう》
コロナ禍で好調な株式市場と、出遅れ指数
2021年に入り、新型コロナウイルスの感染再拡大による首都圏を中心とした二度目の緊急事態宣言のもと、日経平均株価は2月15日、ついに30,000円を突破。終値でも30,084円15銭をつけ、1990年8月2日以来、実に30年半ぶりの高値を付けました。
アメリカでも、1月上旬にジョージア州で行われた上院の決選投票で、残り2議席を民主党が獲得。これにより上院での実質的な過半数は民主党となり、上下院と大統領をいずれも民主党が抑える形となったことから、大型の景気対策への期待が高まっています。
その結果、新型コロナウイルスの感染が広がっているなかでも、ダウ平均株価、S&P500指数、ナスダック総合指数のいわゆる「主要3指数」は、いずれも2021年に入って史上最高値を更新しています。
このようななか、日本株に対しては「出遅れ」との指摘も出ています。事実、日経平均株価は30年来の高値圏とはいえ、最高値をつけた平成バブルの1989年12月29日の終値である38,915円にはまだまだ及びません。
TOPIX(東証株価指数)を見ると、さらに出遅れが顕著です。直近の高値は2月16日の1,974.99ポイントですが、バブル期の1989年高値の2884ポイントを未だ3割以上も下回っており、アメリカの株式指数などに比べても見劣りしてしまいます。
コロナ禍で一躍脚光を浴びた「日経500」とは
しかし、視点を少し変えてみると違った景色が見えてきます。
日経平均株価(日経225)は日本経済新聞社が選定する225の銘柄から算出される指数ですが、同社によって算出される指数はこのほかにも日経株価指数300(日経300)、日経500種平均株価(日経500)、日経中国関連株50などがあります。
2020年のマーケットで話題になったのは、日経500種平均株価でした。日経新聞社が選定する500銘柄によって算出される日経500は、2020年9月28日に2,430ポイントを付け、バブル期の1989年12月末に付けた2,406ポイントを上回り、その時点での史上最高値を更新しました。
2021年に入っても上昇を続け、2月16日には2,874.07ポイントを付けました。
同じ日本市場の株式指数であるにもかかわらず、なぜ、このような違いが出たのでしょうか。その背景は、日経500には日経平均株価(日経225)に比べて、時流に乗っている銘柄が採用されているからだともいわれています。
日経平均株価は、採用銘柄の臨時の上場廃止などのケースを除き、毎年秋に年1回、1〜2銘柄の入れ替えが行われています。
これに対して日経500は、毎年4月に過去3年間の売買代金や売買高、時価総額などのランキングで採用銘柄を決め直すため、入れ替えが行われやすい性質があります。つまり、業績の芳しくない企業は採用から外れやすいということになります。
また、指数が変動しやすくなるために日経平均株価には採用されにくい値がさ株(株価の大きい株)も、日経500には採用されています。キーエンス<6182>や任天堂<7974>、村田製作所<6981>などの好業績で歴史があるけれども日経平均株価に採用されていない銘柄がこれにあたります。
こうした値がさ株が日経500の好調を牽引した一方で、これらが採用されていない日経平均株価がいまひとつ伸び悩んでいる、と見ることもできます。
〈参考記事〉秋の恒例イベント・日経平均の銘柄入れ替え で、株価への影響は?
コロナ禍で上場来高値を更新した銘柄たち
個別銘柄の場合も指数と同様で、銘柄によって見える景色が変わってきます。低迷を余儀なくされる銘柄がある一方で、コロナ禍の恩恵を受けて株価を順調に伸ばし、2021年に入って上場来高値を更新する銘柄が続出しています。
株価の高値更新には「上場来」「昨年来」「年初来」の3つがありますが、なかでも「上場来高値」はその銘柄が株式市場に上場して以来の高値ということで、買い方の強い物色が株価に現れているといえます。
〈参考記事〉コロナで高値更新の意外な銘柄 それは買うべきか、買わざるべきか?
強さを見せるハイテク株
足元で強さを見せているのは、半導体関連や電気自動車(EV)関連などのハイテク株です。
半導体製造装置メーカーの東京エレクトロン<8035>は、2021年1月26日に上場来高値45,170円をつけました。次世代高速通信5Gやテレワークの拡大、自動車の電動化でサーバーや車載などさまざまな分野での使われる半導体の需要が増加の追い風を受けています。
他に印象的だったのは、1月25日に上場来高値の19,710円を付けた、総合化学の信越化学工業<4063>。住宅やインフラで使われる塩化ビニール樹脂や半導体の材料となるシリコンウエハーで世界トップシェアの優良企業です。
同社は財務体質も健全で、堅実な経営によりリーマンショック後の2009年3月期も営業黒字を確保したことで知られていますが、今般、半導体の活況や米バイデン新政権によるインフラ投資の期待で買われています。
株価を値動きを月足チャートを見ると、下げ局面でも下値を切り上げながら、足元では上放れ気味に買われており、国際優良株である同社がこのような強い値動きになる現在の相場の強さを体現したチャートだといえるのではないでしょうか。
テレワークの普及で伸びた住宅関連株
コロナ禍によって大きく変わったことのひとつが、テレワークの広がりです。そこで、テレワークを直接的に支援する商品・サービスを展開する企業に注目が集まっているわけですが、それ以外にも影響は及んでいます。
たとえば、在宅時間の増加によって住環境を見直す人が増えたことで、戸建て住宅の人気が加速しており、住宅市場も活況となっています。注文住宅のタマホーム<1419>は2月16日に2,033円を付けて、2019年11月の上場来高値2,043円の更新を視野に入れる動きとなっています。
また、在宅時間の増加でこれまでよりも広い家や良い設備を求める動きが広がっており、注文住宅の平均単価が上がっています。首都圏中心に戸建てを得意とするオープンハウス<3288>も2月12日に4,530円をつけ、上場来高値を更新しました。
ちなみに、アメリカではこのような動きはさらに顕著で、2020年12月の中古住宅販売件数は676万戸と、前年同月比で2割も増加しました。低金利による住宅ローンの利用のしやすさも背景のひとつとなっています。そして、その恩恵をひそかに受けているのが、住友林業<1911>です。
国内市場の伸び悩みを受けて海外に成長の柱を求めた同社は、アメリカの住宅分譲企業の買収を進めてきました。それが現在、アメリカの住宅市場の活況を背景に買われており、2月16日に2,363円を付けて、1990年に付けた上場来高値2454円に30年ぶりに接近しています。
コロナ禍による非接触、衛生意識の高まりも関連企業の追い風になっています。在宅時間の増加でリフォーム需要が伸び、中国など海外でウォシュレットの設備や衛生陶器の販売台数が増加。衛生用品大手のTOTO<5332>は、2月8日7,380円をつけ、上場来高値を更新しました。
コロナ禍で伸びた意外な銘柄
コロナ禍で新たな需要が発生した意外な銘柄も高値を更新しています。
自転車大手のシマノ<7309>は、2月12日に上場来高値を更新して26,895円をつけました。コロナ禍で電車やバスが手控えられるなか、非接触のニーズを満たす乗り物として国内外で自転車の人気が高まっています。当然ながら排ガスも出さないことから、脱炭素の流れにもマッチしています。
「エバラ焼き肉のたれ」で知られている調味料メーカーのエバラ食品工業<2819>も、2月8日に上場来高値2,810円を付けました。背景として、コロナ禍による巣ごもり需要で鍋しゃぶ用の調味料やポーション調味料などの販売が伸びたことが挙げられます。
また、業務用に比べて利益率の高い家庭用の調味料の販売が伸びたことも、利益率の改善につながりました。営業活動などが制限されたことで、結果的に、多くの経費を使わずに済んだこともプラスに働いているでしょう。
食品メーカーやホームセンター、ディスカウントストアは、コロナによる在宅時間の増加や、少し値段が高くてもよりよい品質の製品を消費者が求めるようになったことが、株価上昇に寄与するという流れが続いています。
コロナ禍で学んだ、新たな観点で銘柄を見る大切さ
新型コロナウイルスによって、私たちの生活のあらゆる場面で、これまでの常識が一変しました。それは株式市場も同様で、高値だった銘柄がさらに買われるという場面も多く見られました。経験豊富な投資家ほど過去の経験則が当てはまらず、試練を強いられた年だったのではないでしょうか。
もちろん、チャート分析やファンダメンタルズ分析における基本に則った視点も必要ですが、プラスアルファで新たな観点を持って指数や銘柄を見てみることの大切さを考えさせられた年でもありました。
日本株のさらなる上昇が期待される2021年の株式相場でうまくチャンスをモノにするためにも、この教訓をぜひ生かしたいですね。