株の新潮流「ESG投資」なら社会貢献とリターンの両方を実現できる?
最近よく耳にするようになった「ESG投資」。地球や社会に優しい企業に投資する……というだけの投資手法ではないようです。では一体、ESG投資とはどんな手法で、今後の株式投資にどんな影響を与えるのか。
株式市場の新たな潮流
今、株式市場では「ESG投資」が新たなうねりとなって広がっています。
2018年春、アメリカの大手SNSサイトを運営するフェイスブック<FB>の個人情報流失問題を受けて、ESG投資家が「組み入れにふさわしくない銘柄」と判断、同社株を外す動きが広がったことで、株価が2割近くも下落しました。
環境や社会貢献に積極的な企業に投資する一方で、そうではない企業からは投資マネーを引き上げる。株式市場に大きな影響力を持つようになったESG投資について解説します。
ESG投資とは?
ESGとは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を取った用語です。
これまで投資家は企業に投資する際、利益率やキャッシュフローなどの定量的な財務情報を判断材料にしてきましたが、それに加えて、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)に配慮して投資する手法が「ESG投資」です。
ESGそれぞれに関する要素の例として、世界最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、次のように掲げています。
ESG投資の始まりと拡大
2006年、国連が機関投資家に対して「責任ある投資」を呼びかけ、ESGのコンセプトが示されました。その後、リーマン・ショックの反省から多くの年金基金や運用会社など機関投資家が賛同し、ESGを投資に組み入れる「責任投資原則(PRI)」に署名しました。
現在では、世界の2000近い機関投資家がこのPRIに署名しており、その運用資産残高は82兆ドルを超えています。
GPIFによるESG投資の強化
日本でも、公的年金を運用するGPIFがESGへの取り組みを強化することを目的として、2015年9月にPRIに署名しました。
そして2017年7月、「FTSE Blssom JapanIndex」「MSCI ジャパンESGセレクトリーダーズ指数」「MSCI日本株女性活躍指数」という日本株の3つのESG指数を選定し、これに連動した運用を1兆円規模で開始。2018年9月には「グローバル環境株式指数」を選定し、4つを併せて約2.7兆円を運用しています。
ESGの運用手法
ESG投資の手法は様々あります。持続可能な投資を普及する国際組織GSIAでは、ESG要素を考慮する投資アプローチを「サステナブル投資」と定義し、7つの手法に分類しています。
【サステナブル投資の7つの手法】
- インパクト・コミュニティ投資
社会や環境の課題解決に貢献する技術やサービスを提供する企業に投資 - サステナビリティ・テーマ投資
社会、環境、エネルギーなどの特定テーマに関連する企業に投資 - ポジティブ・スクリーニング
財務とESGの2つのスクリーニングで選別されたセクターや企業に投資 - ネガティブ・スクリーニング
ギャンブル、たばこ、武器、化石燃料、原子力など、特定の業種・企業を除外する - 国際規範スクリーニング
ESG分野の国際基準をクリアしていない企業を投資先から除外する - エンゲージメント・議決権行使
投資先企業との対話や議決権行使により、株主として働きかけを行う - ESGインテグレーション
運用プロセスで体系的にESG要因を組み込む
2016年度のGSIAの集計では、最も運用額が多いのは、たばこや武器など社会に悪影響を与えるものを扱う企業を投資先から外す「ネガティブ・スクリーニング」。
次に急成長しているのが「ESGインテグレーション」。そして、組み合わせで行われることの多い「エンゲージメント・議決権行使型」が続きます。
なぜ今、ESGなのか?
ESG投資が注目される要因の一つは、2008年のリーマン・ショックです。
運用者が短期での過度の利益追求を求めるあまり、四半期決算など短期ベースでの目標を重視しすぎたことへの反省から、より大きな利益を得るには短期ではなく長期的な視野で、中長期的な企業価値の向上(株価上昇)に着目した投資が必要だ——こうした認識が広がりました。
長期投資の場合、足元の財務情報だけではなく、中長期的な視点から、企業の事業戦略やガバナンス体制、企業文化など非財務情報を考慮して判断することが重要になります。
加えて、今の世界は、自然災害や社会で起きている出来事が、企業の業績や持続的な成長性に大きな影響を与えるようになっています。その評価基準として、とくにリスク管理の点からESGの評価を投資判断に組み込むようになったのです。
投資の流れを変えたパリ協定
例えば、ESGの代表的要素である気候変動に関しては、2015年2月のパリ協定で、国際社会は地球の気温上昇を2度未満に抑えることに合意しました。
このことでCO2の排出規制が厳しくなり、再生可能エネルギーなどに取り組む企業はESG評価が高くなって優先的に投資され、一方で、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料関連企業のESG評価は低くなり、将来の企業価値が低下する可能性から投資マネーが引き上げています。
実際、世界最大の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金が化石燃料関連への投資から撤退、2016年には米財閥ロックフェラー家が管理するロックフェラーファンドが化学燃料関連への投資を中止しています。
ESGで運用リスクを減らす
SNSの急速な発展も理由の一つです。情報が拡散・共有されるスピードが早くなり、企業の人権侵害・環境破壊・不正行為などに対する社会の目は相当厳しくなっています。
世界にどう受け止められるかが重要な社会において、フェイスブックのように、いったん問題が起こると企業価値に多大な悪影響を与えます。
つまり、何が起きるかわからない不確実性の高い世界では、ESGを考慮することで運用リスクを減らすことができ、同時に、問題が表面化する前に読み解くことができます。
SRI投資にできなかったこと
また、ESG評価の高い企業は安定性があり、持続的な企業価値の向上(株価上昇)も期待できるとされています。長期投資家の最終的な目的は企業成長によるリターンを得ることですので、こうしたESG投資への動きが広がるのは自然な流れと言えるでしょう。
2000年代にも、環境や社会に配慮して投資するSRI投資(社会的責任投資)やSRIファンドがブームとなりましたが、倫理的成果を優先した結果、運用成績が振るわず、長続きしませんでした。
それに対してESG投資は、投資を通じて社会貢献するだけでなく、投資リターンも追求する点において「合理的な投資方法」だと言えます。
ESG投資は儲かるのか?
では、実際のところ、ESG投資の成績はどうなっているのでしょうか。
現時点では「ESGはベンチマークを上回る収益獲得に有効」とのコンセンサスには至っていませんが、世界的にはESG投資は従来のファンドとほぼ同じか、それを上回るパフォーマンスを出しています。
ただ日本の現状では、GPIFのESG指数として選ばれた3銘柄を見ても、TOPIXに負けている状況です。
(GPIF『平成29年度 ESG活動報告』より)
要因としては、世界的に見て日本のESG投資は出遅れていること、また需給の低さや、銘柄がインデックスに入るタイミングの問題、さらに企業の情報開示がまだ十分でないこと……などが考えられます。
また、そもそもESG投資は投資期間が長期になるほど発揮されるため、短期的なリターンで見るのではなく、長期的な視野が必要でしょう。
なでしこや健康経営もESG
最近は日本でも、積極的に情報開示を行なう企業が増えています。東証が経済産業省と共同で選定する「なでしこ銘柄」や、従業員の健康管理に戦略的に取り組んでいる「健康経営銘柄」など、いわば〝お墨付き〟の銘柄もあります。
各企業の取り組み内容は、財務情報とともに社会貢献など非財務情報まで幅広くまとめた「統合報告書」やホームページなどに掲載されていますので、興味を持った方はぜひチェックしてみてください。
「美人投票」を超えて
株式投資は、美人投票のようなものだ
そう表したのはイギリスの経済学者ケインズです。ESG投資は、人類が持続可能な社会を目指すために企業の質が問われる中、単なる「美人投票」ではない新たな投資手法と言えるのかもしれません。
もちろん、より高いリターンを得るには、単にESG評価が高いというだけで投資するのではなく、通常の企業分析に加えて、現状の株価の割安・割高なども見極めて、総合的に判断する必要があることは言うまでもありません。