「成長テーマ株」の落とし穴 買われすぎを回避して恩恵を享受するには
人気ある「成長テーマ株」の注意点
株式市場で個人投資家を中心に人気の「成長テーマ株」。今後高い成長が期待される業界や市場に関連している銘柄だ。昨今では、以下のような領域が成長テーマとされ、ニュースや報道が流れると関連銘柄が賑わいを見せる。
- 第5世代移動通信システム(5G)
- 量子コンピューター
- 人工知能(AI)
- バイオテクノロジー
- 自動運転
- 電子決済
- ブロックチェーン
株における「成長」とは何か
ここで、「成長」とは具体的にどういうことかを少し鮮明にしておきたい。一言でいえば、「市場規模が拡大していくこと」だ。市場規模とは、その製品・サービスの各社の年間売上高の総合計である。
たとえば、日本でタピオカドリンクを提供する会社がA社とB社の2社しかなく、2社の今年の売上高がそれぞれ1億円、3億円だった場合、タピオカドリンクの今年の市場規模は4億円だったことになる。
この市場が拡大していくとは、売上高の総合計が年々増加することを意味する。裏を返せば、その製品やサービスの需要が年を追うごとに膨らんでいくことを意味している。
テーマ株なら何でもいいわけではない
各社の売上高の総合計が増えていくといっても、それが各社の売上高が増えるというわけではない。基本的に成長市場は多くの会社にとって大きなビジネスチャンスであり、参入する企業が多い。そして、参入する企業はベンチャー企業から大企業、外資系企業と多種多様だ。
ベンチャー企業は少ない資本を集中投資して高い技術力を活かし、大企業は巨額の資本を用いて大規模な広告を打ち出し、外資系企業は国際的に受け入れやすいようなプラットフォームを開発するなどして、それぞれが凌ぎを削って市場シェアを取り合う。
その結果、勝者と敗者が徐々に決まってくる。
勝者の反対側には敗者がいる
ここで、いま成長テーマとされる「QRコード決済」の例を挙げる。
QRコード決済は利便性の高さや導入のしやすさから、今後の大きな普及が期待されている。2019年11月現在、関連銘柄にはソフトバンクグループ<9984>や楽天<4755>、NTTドコモ<9437>、メルカリ<4385>、メタップス<6172>などがある。
そうした中、消費者動向の調査を手掛けるMMD研究所が2019年10月、「QRコード決済の支払い方法に関する調査」の結果を発表。QRコード決済を利用している約8,000人について、メインで利用しているサービスは以下のような割合となった。
- PayPay(提供:ソフトバンクとヤフーの合弁会社)・・・44.2%
- 楽天ペイ(提供:楽天)・・・・・・・・・・・・・・・17.1%
- LINE Pay(提供:LINE)・・・・・・・・・・・・・・13.6%
- d払い(提供:NTTドコモ)・・・・・・・・・・・・・13.6%
- メルペイ(提供:メルカリ)・・・・・・・・・・・・・ 4.4%
- au PAY(提供:KDDI)・・・・・・・・・・・・・・・ 3.5%
- FamiPay(提供:ファミリーマート) ・・・・・・・・・ 1.5%
- Origami Pay(提供:Origami)・・・・・・・・・・・・ 0.7%
各社の戦略やサービスの細かい差異の説明は割愛するが、「PayPay」が2位の「楽天ペイ」に大差をつけて圧倒的首位となっている。
いつまでも敗者が買われ続ける理由
消費増税の対策としてキャッシュレス決済の普及促進の目的も兼ねてキャッシュレスポイント還元制度が導入されたが、このような市場全体の拡大に寄与する材料が出た際には、シェアの大きい(競争に勝っている)サービスほど市場拡大から受ける恩恵も大きくなる。
逆に、シェアの小さい(競争に負けている)サービスでは、市場が拡大してもそもそも利用者に対する訴求力が低いので、恩恵を全く受けられない可能性もある。
しかし株式市場では、そうした競争の状況に反して〝敗者〟までもが買われ続けることで、いつまでも高い株価がつき、いずれ遅れて株価が下落していく……というケースがしばしば見受けられる。これは、「成長テーマ株である」という期待ばかりが先行してしまうからだ。
もちろん、多くの企業は様々な事業を展開しているため、ひとつの競争状況だけで株価が形成されているわけではない。だが、「QRコード決済」というテーマだけを意識して銘柄を見ていては、長期にわたって成長する銘柄かどうかの見極めを誤ってしまいかねない。
買われすぎた成長テーマ株
2008年にマザーズ市場に上場した会社で、ネット活用マーケティング支援を手掛けるネットイヤーグループ<3622>という銘柄がある。2019年11月現在の株価は約600円。
同社は2014年、訪日客対応のマーケティング支援やビッグデータ販売を手掛けるホットリンク<3680>と、ソーシャル・ビッグデータ活用での市場啓発とソリューション開発を共同で取り組んでいくと発表した。また、産学官連携のIoT推進コンソーシアムに会員企業として参画。
これ以降、ネットイヤーはビッグデータやIoTといった成長テーマに関連した銘柄として見られることとなった。
株価は、2013年中盤には400円前後で推移していたものの、成長期待が高まることで、同年終盤には3,000円を超えるまでに上昇。その後、買いの勢いは落ち着いたものの、ビッグデータやIoTに関連する銘柄群が物色される局面では、ネットイヤーも同様に大きく買われる動きがしばしば見られた。
しかし、その期待に反して、同社の売上高は近年大きく減少している。2015年には70億円だったのが、2019年には55億円にまで減った。
成長テーマ株にとって、売上高の減少は株式市場での評価崩落の決定打となる。市場が拡大する一方で、その波に乗れなかったネットイヤーの株価は大きく下落。大きく買われる以前の水準まで戻り、その後は横ばいが続いている。
(Chart by TradingView)
うまく勝者を見抜くには
こうした株価下落を回避し、成長テーマの恩恵を享受するには、「競争状況を把握して勝者と敗者を区別しようとする姿勢」が重要となる。
- 売上高の伸びを比較する
- サービス利用者数や契約数の推移を比較する
- 民間のシンクタンク等が公表する業界調査を見る
これらをうまく活用することで、成長する市場の恩恵を大きく受けることのできる銘柄を選別することが、成長テーマ株を買うときの注意点となる。