グロース株の優位からバリュー株の反撃へ? 相場の変化を捉えるには
《コロナショックで一段と加速したグロース株優位の株式相場が、ここに来て失速し、いよいよバリュー株の巻き戻しが始まるのでは……と囁かれています。グロース株からバリュー株へとマーケットの潮流が変わるとき、社会では何が起きているのでしょうか? また、その兆候を捉えるにはどうすればいいのでしょうか?》
グロース株 vs. バリュー株
株式相場では、「類似の特徴を持つ銘柄は類似したパフォーマンスを持つ」という認識のもとに、投資のスタイルや対象銘柄を分類する考え方があります。その代表例のひとつが「グロース投資」と「バリュー投資」です。
グロース株(成長株)は高い利益成長を続ける銘柄、バリュー株(割安株)は企業価値の持つ本来の価値や利益水準に比べて、現在の株価が割安に放置されている銘柄のことをいい、それぞれを狙って投資するスタイルがあります。
・バリュー投資
一般に、企業価値を判断する指標としてPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が用いられます。現在株価を1株あたりの利益で割ったものがPER、1株あたりの会社の資産(純資産)で割ったものがPBRです。どちらも、数字が低いほど企業価値に対して株価が割安な株と判断されます。
そして、バリュー投資では、PERやPBRをもとに企業価値の評価が低いものに投資して、正当な株価に上昇することを狙うのが基本。一般的に、銀行、自動車、商社、素材などがバリュー株とされます。
・グロース投資
一方のグロース投資は、企業の成長性が平均より高いと判断される銘柄に投資する手法です。
評価のポイントは「高い成長性」なので、PERやPBRによって割高だと示されても、将来の成長性が高いと判断されれば許容されます。例えば、東証1部上場の平均PERは20倍ですが、グロース株では100倍を超える銘柄もざらにあります。
グロース投資では、すでに高値であっても、増収増益が続き、さらに株価が上昇しそうな株に投資することで、高いリターンの獲得を目指します。一般的にITやハイテク株、医薬品などがグロース株とされます。
あなたはバリュー派? それともグロース派?
個人投資家からすれば、「地味だけれどいいところもあり、評価が変われば株価が大きく上昇する可能性がある」のがバリュー株、「将来有望でみんなにモテモテ、大化けの期待と大損するリスクが表裏一体」なのがグロース株、といったところでしょうか。
- バリュー株……地味だけれどいいところもある。評価が変われば大化けするかも?
- グロース株……将来有望でみんなにモテモテ。大化けの期待もできるけど、大損するリスクも
現在の株式相場は「グロース株優位」だといわれています。しかしながら、高い成長性が評価されることは、その成長性が鈍化してしまうと株価が下落するリスクがある、ということでもあります。
グロース失速、バリュー復活の舞台裏
景気回復の初期や後退局面ではバリュー投資が優位に、景気拡大局面ではグロース投資が優位になる傾向がある、というのが一般的なセオリーです。実際、リーマンショック以降の株式相場は、日米ともに、グロース株がバリュー株のパフォーマンスを上回る状態が続いていました。
(東証1部上場銘柄をグロースとバリューに分けた株価指数である「TOPIXグロース」「TOPIXバリュー」の推移)
さらに2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、グロース株優位がさらに加速します。コロナ禍の中でも利益成長を続けられると期待されるグロース株に投資家の資金が向かったのです。
その理由のひとつに挙げられるのは、企業が出す業績予想が不確実になったことです。企業価値を評価するPER、PBRが使えず、グロース株の持つ成長ストーリーに投資家の期待が集まったことで、グロース株優位が進んだと考えられます。
そうしてグロース株優位の相場が続いた結果、マーケットでは「バリュー株は死んだ」などと言われるようにもなりました。
ところが、2020年8月に入ると〝死んだ〟はずのバリュー株が息を吹き返します。ハイテク株など一極集中で買われていた高グロース株が売られ、バリュー株が物色される現象が起きたのです。
金利上昇がグロース株に不利になる理由
なぜ、ここに来てグロース株優位の相場が突然変調したのでしょうか? その理由のひとつに、金利水準との密接な関係が挙げられます。
株価を動かす要因は様々ですが、そのひとつに「理論上の株価(株式の現在価値)」があります。その算出方法は少々複雑なのでここでは割愛しますが、このときに用いられる数値のひとつが長期金利で、長期金利が下がれば理論上の株価が上がり、長期金利が上がれば理論上の株価が下がるようになっています。
機関投資家は、この理論上の株価と実際の株価とを照合しながら、買いや売りの判断材料のひとつにしています。そのため、理論上の株価の上下が、実際の株価の変動の後押しとなるのです。
グロース株はその成長ストーリーが何よりの魅力ですが、足元では必ずしも多くの利益を出せていないことも多く、PERで見ると株価は割高であることが多いです。ただ、そうであっても、長期金利が低下している間は理論上の株価も上昇しますので、現在の割高な株価や高いPERも正当化することができ、買いにつながるのです。
しかしながら金利が上昇してしまうと、それによって理論上の株価は下がる一方で、実際の株価は割高なまま、という状況に陥ります。つまり、割高のグロース株をわざわざ買う理由を説明できなくなってしまい、買い控えられる一因となってしまうのです。
これまでの株式相場には、中央銀行による金融緩和(金利低下)に支えられた過剰流動性(現金がジャブジャブに余っている状態)により、グロース株に資金が流入していました。
ところが、8月に入ると新型コロナウイルスの収束期待などから、米国債の金利低下が0.507%を底に下げ止まったことで、グロース株を売却して、バリュー株が買われる動きが見られました。
さらに同27日には、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が「物価上昇率が目標の2%を超えることも許容する」との新指針を発表。「低金利環境の長期化によってアメリカ景気の回復につながる」との期待感から、米国債の長期金利が再び上昇しました。これにより、バリュー株が物色される流れとなったのです。
相場の潮流変化に対応するには
2020年9月前半には、世界のグロース株の象徴とも言える米・テスラ<TSLA>がS&P500に採用されず急落したこともあり、超割高水準となっていたグロース株が失速する事態となりました。日本市場でも、エムスリー<2413>や東京エレクトロン<8035>など代表的なグロース株が大きく売られました。
ただし、世界的な低成長の中、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が強いことには変わりありません。ハイテク株の調整期間が過ぎれば、再びグロース株に投資家の資金は向かうはず……といった声も多く挙がっています。
実際、9月半ばには、これまで調整していたグロース株に復活の兆しも見え始めました。
今後の相場はどうなる?
そうは言っても、新型コロナウイルスの鎮静化やワクチン開発の成功、本格的な景気回復などにより、構造的に長期金利が継続して上昇する状況となった場合には、グロース株相場は終焉を迎え、バリュー株への本格シフトが起こると考えられています。
それまでは、現在のような極端な2極化は、ある程度は収まるかもしれません。しかし、景気やコロナの動向次第で、バリュー株優位となったり、グロース株優位となったり、行ったり来たりの展開が続くのではないでしょうか。
いずれにしても、目先の動きにとらわれて、どちらか一方に隔たり過ぎるのは要注意です。金利だけでなくさまざまな指標を参考にして相場の雰囲気をつかみながら、自分の意思でしっかりと投資判断を行えるようになることが、結局のところはいちばんなのです。