変わり続けるインバウンド関連銘柄と、正しいテーマ株の探し方
インバウンド銘柄に学ぶ「テーマ株」
今話題となっている旬の材料に関連する銘柄のことを「テーマ株」といいます。ある材料で一つの銘柄が急騰すると、それに関連する他の銘柄群も活発に取引されて全面的に株価が上昇します。そのとき、必ずしも同じ業種ではなく「同じテーマ」というところに特徴があります。
インバウンド関連銘柄の連想ゲーム
「株は連想ゲーム」と言われるように、あるニュースを耳にしたとき、投資家たちの頭の中にはそれに関連する様々なワードが浮かんできます。
たとえば、「訪日外国人数が過去最高となった」というニュースから連想されるのは、少し前までなら「爆買い」「百貨店」「家電量販店」、現在では「コト消費」「化粧品」「ドラッグストア」「電鉄」などがあります。
これらのワードに結びつく銘柄、それが「インバウンド関連銘柄」です。
「インバウンド(inbound)」とは本来「外から中に入る」といった意味で、そこから外国人旅行者のことをいいます。彼らが落とすお金を「インバウンド消費」といい、この消費による恩恵を受ける銘柄が「インバウンド関連銘柄」と呼ばれます。
やっぱり国策に売りはなかった
2013年に訪日外国人数が1000万人を突破したことから、この「インバウンド」という言葉がニュースなどで多く取り上げられるようになりました。2014年には、政府が「東京オリンピックまでに訪日外国人旅行者数2000万人、消費8兆円を目指す」という目標を掲げ、いわば国策のテーマとなります。
「国策に売りなし」という相場格言があるように、国の後押しするテーマは、その分野を成長させるため大型予算が組まれます。またマスメディアなどにも露出が増えるため、期待感から株価が上昇しやすくなります。インバウンド関連銘柄は、まさにこの格言を実現化していきます。
変化するインバウンド銘柄
爆買いから始まったインバウンドバブル
中国人観光客の〝爆買い〟による、いわゆる「インバウンドバブル」が発生したのは2015年のことでした。高級時計や高級炊飯器を一人で何十個も購入する姿が、街で、空港で、ニュースで多く見られるようになります。
株式市場でも、2014年から2015年にかけてインバウンド関連銘柄が大きく変われ、ビックカメラ<3048>、ラオックス<8202>などの家電量販店や、松屋<8237>などの百貨店、共和メンテナンス<9616>などのホテルも株価が大きく上昇しました。
ところが、2015年をピークに株価は下落基調となります。中国政府が爆買い封じのために、海外で買った商品を中国に持ち込む際にかかる関税を大幅に引き上げたのです。これによって爆買いは鳴りを潜め、インバウンドバブルはあっけなく崩壊した……かに見えました。
第2ラウンドは「コト消費」「自分消費」
しかしその後も、中国人旅行者を中心とする訪日外国人の数は全く衰えを見せずに増加し続けます。それと同時に、彼らの消費行動にも変化が表れました。
買い物が中心だった「モノ消費」から、日本での観光やイベントなどの体験にお金をかける「コト消費」が増えていったことに加えて、買い物も高額商品の爆買いから、自分たちで使うための化粧品や食品・医薬品などへと変わっていったのです。
この変化を受けて、株式市場でも投資対象が変化していきます。
コト消費の代表格として、JR東海<9022>、JR東日本<9020>、JR西日本<9021>、JR九州<9142>などの電鉄各社やオリエンタルランド<4661>などのテーマパーク、買い物部門では、資生堂<4911>など化粧品、「ドン・キホーテ」のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス<7532>やマツモトキヨシホールディングス<3088>などの株価が大きく上昇しました。
帰国後に待ち受ける「越境EC」の拡大
インバウンド消費は、日本を離れてからも続きます。訪日旅行者が帰国した後、日本で買った化粧品などをインターネットで再購入する、ということが増えています。こうした海外からのネットショッピングを「越境EC」と呼び、日本製品のリピート買いが拡大しているのです。
なかでも、資生堂<4911>が2015〜2017年で株価3倍になるなど、特に化粧品関連銘柄が力強い上昇をみせました。2019年には中国でEC規制が入ったことから一時的に落ち込んだものの、その後も買い需要は強く、越境ECでのインバウンド消費は着実に定着しつつあります。
新インバウンドの注目銘柄
2014年に「2000万人」としていた訪日外国人数の政府目標は、2016年には早くも倍の「4000万人」に修正されます。そして、2018年に日本を訪れた外国人の数は3119万人と、ついに3000万人の大台を突破しました。リピーターの数も着実に増え、さらにディープな観光へと彼らの足は向かっています。
インバウンド関連銘柄も「テーマパーク」や「クルージング」「温泉」「土産品」といった観光関連のほか、「訪日客向けWi-Fi」「宿泊予約システム」など、様々な顔ぶれへと広がりを見せています。
2019年はラグビーW杯、2020年は東京オリンピック・パラリンピック、2025年には大阪万博と、さらなる訪日外国人の増加が見込まれるため、インバウンドは引き続き注目度の高いテーマとなりそうです。それに伴って、また新たなインバウンド銘柄への期待も高まります。
・ソースネクスト<4344>
PCソフトの開発・販売を手がけるソースネクスト<4344>は、音声翻訳機「ポケトーク」の販売が国内外で好調で、売上が大幅に拡大中。急増する外国人客に対応するため、小売店や飲食店の接客ツールとして導入されており、音声翻訳機ではシェア9割以上を占めます。
2020年3月期は、中間期こそ広告宣伝費の増加で2.02億円(前年比−60%)の営業減益予想ですが、第1四半期では0.91億円(前年比+7.8%)の増益を確保、通期では16.05億円(前年比+86.7%)の増益予想となっています。
気になる株価はといえば、初代ポケトークが発売された2017年12月からでみれば2倍超の上昇。オリパラなどでさらなる訪日外国人の増加に伴い、今後も期待感は高まりそうです。
(Chart by TradingView)
・手間いらず<2477>
複数の宿泊予約サイトを一元管理するサイトコントローラー「TEMAIRAZU」を提供する手間いらず<2477>。大手宿泊予約サイトや中国人旅行者向け予約サイトなど、国内外の各種サイトとの連携が業績に大きく寄与しています。
訪日外国人の増加を追い風に導入施設の拡大が続き、2019年6月期の営業利益は前年比+27.8%の8億8300万円で連続最高益。2020年6月期は11億6300万円(+31.6%)の予想となっています。これに伴って株価も伸長中。こちらも今後さらなる成長が期待されます。
(Chart by TradingView)
テーマの中にも「旬」がある
「5G」「AI(人工知能)」「キャッシュレス」「カジノ」「バイオ」など、株式市場では様々な「旬のテーマ」が賑わいをみせていますが、同じ「インバウンド」というテーマでも、訪日外国人の消費行動の変化に合わせるように、関連銘柄もまた変化しています。
主にテーマで買われている銘柄では、そのテーマに対して今後どのような需要の拡大が期待されているのかを冷静に判断する必要があるでしょう。
「旬を過ぎれば見向きもされない」のが株式市場ですが、旬のテーマの中にもさらなる旬があるのです。そのことを肝に銘じて、「旬の美味しいところだけをいただく」という姿勢でしっかり吟味しましょう。熟れた果実は、思いのほか早く腐ってしまうものですから。