インフレの進行で株式市場はどうなる? そもそもインフレとは? まずはデータからインフレを知ろう
世界中でインフレが進行
ロシア・ウクライナ情勢の悪化や、原油をはじめとするエネルギー価格の上昇、サプライチェーンの混乱などが重なり、世界的なインフレが進行しています。
私たちの生活においてもガソリン価格、野菜・食肉などの食料品といった様々なモノの値段が相次いで値上げされています。モノだけでなく、鉄道運賃や銀行のATM利用料、テーマパークの入場料といったサービスの値段も同様に値上げの話題が続いています。
インフレ退治のため、米FRB(連邦準備制度理事会)が市中に出回るお金の量をセーブする「金融引き締め」に動いており、これが株式市場の逆風となっています。
インフレの定義
そもそもインフレとは、モノやサービスの値段が継続的に上がり続ける状態のことです。
インフレの背景には2種類があり、原油価格や輸送運賃などが値上がりして企業がコストを価格に反映させることによるインフレを「コストプッシュ・インフレ」、反対に、景気が回復してモノやサービスの需要が増えたため価格を値上げするインフレを「ディマンドプル・インフレ」と呼びます。
ディマンドプル・インフレ(ディマンドは「需要」のこと)は、景気が上向いて企業の製品やサービスの需要が伸び、売上や利益が増加することによって、従業員の給料も上がり、消費に良い影響を与える、という好循環につながるインフレです。
一方のコストプッシュ・インフレは、景気がそれほど良くないのに原材料やガソリンなどの価格が上昇してしまい、企業が値上げせざるを得ず、その結果として起こるインフレです。このインフレでは消費者の給料が上がらないので、値上げによる買い控えを招くことから「悪性インフレ」とも呼ばれます。
指標からインフレを知る
インフレをはかる経済指標にはさまざまなものがありますが、代表的なものが「消費者物価指数(CPI=Consumer price index)」です。各国の公的な調査機関(日本では総務省)などが、消費者が購入するモノやサービスの価格を調査し、集計した経済指標です。
消費者物価指数の調査対象は、ガソリン価格や携帯電話料金、生鮮食料品やアルコールなど嗜好品の値段から、家賃、習い事の月謝までと幅広く、これらのモノやサービスに支払った金額の変化を見ることができます。価格の変化を比較できるよう、通常は前年同期比などの数値が使われます。
さらに消費者物価指数は、日銀などの中央銀行が金融政策を決定する重要な判断材料となるほか、日本では公的年金の年金額の改定にも利用されています。
日本の消費者物価指数
日本の消費者物価指数は、全国の市町村から選定された168市町村の中から無作為に調査対象の世帯を選定します。選定された世帯に毎月の家計簿の記入を依頼し、毎日の収入と支出のデータを収集して集計を行います。
調査の対象となる品目は、世の中の生活の実態に合わせて適宜入れ替えを行い、日本では現在582品目の価格が調査対象となっています。消費者の生活、買うモノや利用するサービスは時間とともに変化するため、5年ごとに内容の見直しが行われます。
例えば直近の2020年には、固定電話権、幼稚園保育料、グレープフルーツ、ビデオカメラ、辞書などが品目から除外され、タブレット端末、学童保育料、ノンアルコールビール、ドライブレコーダーなどが追加されています。
実際の資料からインフレを確認
消費者物価指数は、総務省統計局のホームページで最新の結果を見ることができます。
《参照》消費者物価指数(CPI) 全国(最新の月次結果の概要)
直近の2022年4月分の結果を見てみると、全国の4月のCPI(消費者物価指数)は前年同月比で2.5%の上昇となり、3月の1.2%上昇から大きく上振れました。
生鮮食品など変動が激しいため、これらを除いたベースで変化を見るための「コアCPI(生鮮食品を除く総合指数)」は2.1%の上昇で、こちらも3月の0.8%上昇から大きく上昇しました。
発表される資料には、品目ごとの指数に対する寄与度も記されています。これを見ると、食品では玉ねぎ、マグロ、ハンバーガー、食用油、光熱・水道費やガソリンなどが値上がりし、CPIを押し上げています。
特に世界的なエネルギー価格の上昇でガソリン、灯油、都市ガス代などが値上がりした影響が出ていることがわかります。反対に下押し圧力になったのは、価格が下落している携帯電話の通信料です。
《参照》2020年基準 消費者物価指数 全国 2022年(令和4年)4月分(PDF:313KB)
アメリカのインフレを知る
次に、アメリカのインフレ指標を見てみましょう。代表的なインフレ指標は日本と同じく消費者物価指数で、労働省労働統計局(BLS)が毎月15日前後に前月分を発表しています。
全米75の都市部で、約2万3000件の小売店やサービス施設の価格を調査して集計されています。日本のCPIに比べると、住居費などのサービス価格の割合が多く設定されているのが特徴です。また、日本のCPIと同様に、変動の大きいエネルギーと食品を除いたコア指数の伸びも重要視されます。
2022年4月のアメリカのCPIは、総合で前年同月比8.3%の上昇となりました。
内訳を見ると、日本と同様にエネルギー価格の上昇が大きく、30.3%の上昇を記録しました。ただ、前月3月との比較では−2.7%と下落しており、上昇が一服している点も見て取れます。そのほかにも、自動車の生産不足で中古車価格も前年同月比で22.7%と高い伸びとなっていることがわかります。
アメリカのインフレに関しては、足元ではややピークアウトへの期待も出てきており、前月比の騰落率が落ち着きを見せるかどうかも市場関係者が注目している点です。
《参照》Consumer Price Index Summary(アメリカ労働省統計局のサイト)
アメリカにはもうひとつ、物価の動向を示す経済指標としてPCEデフレーターがあります。
PCEとはPersonal Consumption Expenditureの略で、「個人消費支出」を指します。CPIと同じく物価の上昇度合いを示す指標で、こちらは商務省経済分析局が毎月発表しています。CPIと同様に対象品目を調査して算出されますが、CPIに比べて対象の品目の数が多く、より詳細なデータに基づいています。
調査方法も、CPIが家計を対象とする調査によるのに対して、PCEデフレーターは企業のデータなどを分析しています。これにより、CPIに比べてやや実勢を反映した結果になりやすいと言われており、FRBの金融政策の判断においてもPCEデフレーターがより重要視されています。
《参照》Personal Consumption Expenditures Price Index(アメリカ商務省経済分析局のサイト)
地道な調査でインフレがわかる
ご覧いただいたように、世の中の物価の動向を調べるため、実はかなり詳細にわたった細かい調査が行われています。インフレに関する経済指標はそうしたデータをもとにして算出されており、それがインフレ判断の根拠になっていることがおわかりいただけたのではないでしょうか。
昨今ではインフレを肌で感じる機会も多くなってきていますが、指標の見方がわかると、より理解も深まるはずです。それが、今後の投資判断において重要な役割を果たしてくれるかもしれません。
ここで紹介した各機関のサイトには丁寧な解説も掲載されていますので、いまのインフレをいい機会と捉えて、ぜひ一度のぞいてみていただければと思います。