みんなと同じは“カモ”になる? 「人気ランキング」にはご用心
ランキングで選んで大丈夫?
将来に備えて資産運用を始めようと、金融機関の窓口を訪れたA子さん。担当者に相談すると、「こちらが、いま人気の投資信託です」と3つの商品のパンフレットを出してくれました。「多くの人が買っている商品なら安心だわ」。そう思ったA子さんは、この3つの中から選ぼうとします。
でも、ちょっと待ってください! 本当に、その中から選んで大丈夫なのでしょうか?
実は、金融機関が発表している「人気商品」や「売れ筋ランキング」を、そのまま素直に信じては投資判断を誤ってしまう危険性があります。多くの人が見落としている落とし穴と、そこにはまってしまわないための注意点をご紹介しましょう。
日米で大きく違う「売れ筋ランキング」
「何かお勧めの商品はないですか?」と聞いてきたお客さまを安心させるために、金融機関でよく使われる方法があります。いまその銀行で売れている投資信託の人気ランキングなどを見せたうえで、「このような商品が人気を集めているのですが、いかがでしょうか?」とお勧めすることです。
このアプローチをすると、大半のお客さまは迷わずランキングに入っている投資信託を選びます。きっと、「みんなと同じ」だと安心するのでしょう。しかし、それは間違った投資判断につながります。
なぜなら、そのランキングは、高い金融知識を持った投資家たちの評価によって選ばれたものではなく、金融機関がお勧めしたい商品を顧客に売った結果として出来上がったものだからです。
以下の表は、日本とアメリカにおける投資信託の純資産残高ランキングです(2016年7月22日現在)。
これを見ると、アメリカは市場全体の値動きに連動していてコストも安い「インデックス型」が多いのに対し、日本はコストの高い「アクティブ型」が上位を占めています。
インデックス型は、S&P500や日経平均株価といった指標(=インデックス)と連動することを目指して運用します。一方のアクティブ型は、頻繁に銘柄を入れ替えるなど積極的な運用をすることで、より高い収益率を目指します。そのため運用コストが高くなるのです。
さらに大きな問題は、運用対象の違いです。
アメリカでは株式や債券など、資産運用の基本となる伝統的な資産クラスを投資対象とするものが上位に来ていますが、日本はリート(REIT=不動産投資信託)や低格付け債券など、一般的に個人の資産運用には適さない資産クラスの商品が上位に並んでいます。
資産運用の世界では、株式や債券を中心に運用するのが鉄則です。リートや低格付け債券も魅力のある投資対象ではありますが、リスクの高い金融商品でもあります。くわしくは別の機会に説明したいと思いますが、利回りが高い商品は同時にリスクが高い、ということが言えます。リートや低格付け債券は比較的利回りが高いため、個人の資産運用の中心にはなりにくいと思われるのです。
ランキングには販売側の“思惑”が隠れている
では、なぜ日本では、それらの商品が人気を集めているのでしょうか?
それは、金融機関が「乗り換え」を積極的に提案しているからです。同じ商品を長期にわたって保有してもらっているだけでは、金融機関は手数料を稼ぐことができません。また日本では、その時々に注目されているテーマのファンドに人気が集中する傾向があります。
だから金融機関は、流行のテーマが変わるたびに、あるいは新たなテーマを発掘して、積極的に乗り換えを勧めます。当然、よりコストの高いアクティブ型の販売に力を入れます。そうして顧客がファンドを乗り換えるたびに、金融機関に販売手数料が入ってくることになるのです。
そのため日本の投資信託は、ランキングの入れ替わりが激しいことでも知られています。先ほどの表で網かけをしているのは、2010年3月末のランキングでもTOP10に入っていたファンドです。アメリカは6年以上たっても顔ぶれがほぼ同じなのに対して、日本は1ファンドのみ。
【参考記事】 最も売れているETF、意外な人気の理由とは?(ETFランキング付き)
窓口での対面販売と違って、顧客が主体的に商品を選ぶネット証券の人気ランキングでも、専門家から見て評価の高い商品が上位にあるとは限りません。
なぜなら、キャンペーンを用いたり、メルマガで紹介したり、ウェブサイトの見やすい場所に表示したりすることで、顧客の関心を特定の商品に誘導することは十分にできるからです。実際、金融商品を販売する側の意向がランキングに反映されているケースも見受けられます。
このように、金融機関が発表する「人気ランキング」というものは、顧客が商品を評価して主体的に「買いたい」と思って作られたものではなく、金融機関側が「売りたい」商品を積極的に売った結果なのだと考えておくべきです。
「みんなと同じ」が最大のリスクになる?
このように、金融商品のランキングには販売側の思惑が反映されているわけですが、私たち顧客側にも問題があるように思います。要するに、「みんなと同じ」という理由で投資判断をしていいのでしょうか?
最近では様々な分野の商品やサービスで価格比較サイトをチェックする人が多く、「ランキング上位のものは客観的に見て評価が高い」という認識があるかもしれません。しかし、投資の世界においては、みんなと同じ行動をとることが必ずしも正解とは限らないのです。
相場格言でも、こう言われます。
「人の行く裏に道あり、花の山」
この言葉の意味するところは、大勢の人が歩いている道の裏にこそ、美しい花の山につながる道がある、ということです。人と同じことをしていても、投資における成功はあり得ません。もっと言えば、大勢の人が同じ投資行動をとっているときは、マーケットが危ないと見るのが妥当です。
例を挙げてみましょう。株価がどんどん上がると、乗り遅れてはいけないとばかりに、大勢の投資家が買い始めて、株価はさらに上がってきます。相場の世界では日常茶飯事です。
しかし、株価の上昇は未来永劫に続くわけではありません。どこかの段階で、誰かが利益確定の売りを出します。そして、誰かが売ると、他の投資家も「そろそろ株価は天井かも」と売りの動きを見せるようになります。
こうして、どんどん売りが広まり、株価は下がり始めます。すると今度は、下がるから投資家は不安になる。不安になるから売る。売るとさらに下がる……という連鎖が起きます。株価の下落はますますスピードアップし、最後の最後にはもう売り手がいなくなって、そこでようやく暴落が止まります。
投資の世界においては、みんなと同じ投資行動をとることが、いちばん大きなリスクとなることもあるのです。欧米では「リッチマンになりたければ孤独に耐えろ」と教えるそうです。「みんなと同じ」ではダメなのは世界共通のようですね。
金融機関は「人気ランキング」に入っている商品を勧めてきます。しかし、みんなと同じ行動をとることは、投資の世界では必ずしも正解とは限りません。人気ランキングは恣意的なものなのかもしれない、と心得ておきましょう。