話題をさらった大型IPO銘柄 その後の株価はどうなっている?

岡田禎子
2019年7月9日 8時00分

メルカリやソフトバンクなど身近な企業の上場が相次いだことで、初心者にも人気のIPO。2018年にはついにテンバガー(10倍株)も登場しました。あまりにも魅力的な〝爆上げ〟ぶりに、つい上場後に高値掴みをしてしまった……なんて声も聞こえてきそうです。

あの大型IPO銘柄はいま

メルカリ<4385>やソフトバンク<9434>といった大型上場が注目を集め、例年以上に賑わった2018年のIPO(新規株式公開)。新規上場89社のうち、9割超にあたる81社で初値が公募価格を上回ったことも、近年のIPOの盛り上がりを示しています。

特に、988.9%というIPO史上最大の初値上昇率をつけたHEROZ<4382>の登場は、多くの投資家の心に火をつけました。そのほかにも300%や400%という上昇率を見せた銘柄は多くあり、抽選に外れてしまった人は大いに涙を呑んだことでしょう。

しかし、初値でそれほどまでに上昇してしまった株価は、果たして、その後どうなっているでしょうか? 2018年のIPO初値上昇額トップ10銘柄の「その後」を追いかけてみましょう。

(参考記事:プラス445万円のヒーローも誕生! IPO初値爆上げランキング

2018年の初値上昇額トップ10……その後

・HEROZ<4382>

(Chart by TradingView

2018年4月20日・マザーズ上場

将棋AIロボット「Ponanza」で知られるAI開発会社。公募価格4,500円に対して、ついた初値は49,000円。初値上昇率は988.9%、100株利益は445万円で、史上初の「初値テンバガー(10倍株)」となりましたが、異常人気で買われた反動で株価は急落。その後も、ロックアップ解除による大株主ファンドの売却などが観測され、下げに拍車がかかります。

しかし、約7か月の「ソーサーボトム(受け皿のような長い底値が続くこと)」から脱出した後は、上値を追う展開となります。2019年6月12日発表の本決算が予想を上振れする好決算となり、来期も3期連続最高益を更新する見通しとなったことから、個人投資家の買いを誘って株価は大きく上昇しています。

・アジャイルメディア・ネットワーク<6573>

(Chart by TradingView

2018年3月28日・マザーズ上場

SNSを活用したマーケティングが期待される会社。公募価格3,000円に対して初値は15,470円、初値上昇率415.7%、100株利益は124.7万円。4月2日に16,849.98円(分割調整前)の上場来高値をマークしますが、それをピークに値下げ基調となります。

8月には、上期業績の計画上振れと1:3の株式分割を好感して一時反発しましたが、ロックアップ解除によるファンドの売りも出て、再び下落基調に。2019年5月14日発表の第1四半期決算は赤字転落となり、株価は下値固めの展開となっています。

・RPAホールディングス<6572>

(Chart by TradingView

2018年3月27日・マザーズ上場

ロボットによる業務自動化(RPA)の先駆的企業で、働き方改革の代表銘柄。公募価格3,570円、初値14,280円、初値上昇率300%で、100株利益は107.1万円でした。直後に19,990円をつけた後は下落基調となり、7月30日には11,000円をつけて、高値から5割近い下げとなりました(いずれも分割調整前)。

しかし、テーマ性&成長性は高いと評価されている銘柄とあって、その後は回復。東証1部への市場変更期待も加わり、2019年4月には上場直後につけた高値を更新。さらに、4月15日発表の本決算が経常利益で71.9%増の着地となるなど業績が絶好調なことから、5月には前年8月の底値から約3倍となりました。

・ベストワンドットコム<6577>

(Chart by TradingView

2018年4月25日・マザーズ上場

クルーズ旅行に特化した予約サイトの運営会社。公募価格4,330円に対して初値は14,830円。初値上昇率は242.5%で、100株利益は105万円となりましたが、結果的には「初日天井」に。上場直後に右肩下りの展開となり、ファンドの売りも加わって、年明け1月4日には2,052円の底値をつけます。

その後は、訪日クルーズ旅客数の拡大が追い風となって、株価は底堅い動きとなっています。足元では、テレビ放映の影響などで同社のサイト「ベストワンクルーズ」の日次予約額が過去最高を更新したことが買い材料となっています。

・Kudan<4425>

(Chart by TradingView

2018年12月19日・マザーズ上場

AP(人工知覚)技術のパイオニア企業。公募価格3,720円に対して初値14,000円、初値上昇率は276.3%で、100株利益は102.8万円となりました。順調に上昇し、米シノプシスとパートナーシップを締結すると発表するなど、2019年2月27日には25,160円まで駆け上がります。

しかし、その後は一気に下げ基調に転じます。6月中旬のロックアップ解除を意識した売りが出始め、出来高を伴って連日10%以上の暴落となるなど、ベンチャーキャピタルの売りに加えて、下げ場面で掴んでしまった投資家の投げ売りとなり、売りが売りを呼ぶ状況となってしまいました。

・ビープラッツ<4381>

(Chart by TradingView

2018年4月4日・マザーズ上場

継続課金のプラットフォーム提供を行う会社。公募価格2,200円に対して初値10,000円、初値上昇率は354.5%で、100株利益は78万円でした。直後は利益確定売りに押されて急速な調整を余儀なくされましたが、好決算や話題の「サブスクリプション」に特化した銘柄というテーマ性で人気化し、6月には初値超えを達成。

主力の課金プラットフォームシステム「Bplats(ビープラッツ)」の順調な拡大や、8月には東京センチュリー<8439>の持株会社となったことなども受け、業績拡大への期待感から2019年2月には上場来高値を更新します。

その後は、4月の下方修正発表などで下落トレンドとなりましたが、5月に光通信<9435>との合弁会社設立を発表したことでストップ高になる場面もあり、下値固めの展開が続いています。

・ジェイテックコーポレーション<3446>

(Chart by TradingView

2018年2月28日・マザーズ上場

エックス線ナノ集光ミラーの開発などを手がける会社。2018年のIPO第2号で、公募価格2,250円に対して初値9,700円、初値上昇率は331.1%で、100株利益は74.5万円。技術力への期待から積極的に買われ、3月5日には13,490円をマークするものの、急反落。そのまま下落基調となり、8月16日には3,725円まで下落します。

バイオ関連としての評価もあることから再生医療関連銘柄として人気化する場面もありましたが、11月13日発表の第1四半期決算の赤字転落を受けて、12月25日には2,900円の底値をつけます。その後は、新規事業の開始などで上昇基調となっています。

・Mマート<4380>

(Chart by TradingView

2018年2月23日・マザーズ上場

食材市場の「Mマート」が主力のインターネットマーケットプレイス会社で、2018年のIPO第1号。公募価格1,240円に対して初値5,380円、初値上昇率は333.9%で、100株利益41.4万円と好発進を切った後、2月27日に6,970円の高値をつけましたが、その後は一貫して下落基調。

しかし、2019年3月15日発表の本決算で当期の営業利益予想を44.7.%と発表したことなどで、株価は急上昇。初の配当を10円で行う見通しであることも人気に拍車をかけましたが、6月14日に発表した第1四半期決算の売上高が前年と横並びだったことで成長性の鈍化が懸念され、株価はまたも下落基調となっています。

・シノプス(旧・リンク)<4428>

(Chart by TradingView

2018年12月25日・マザーズ上場

在庫を最適化するソフトウエアの開発企業。2018年最後のIPOでしたが、公募価格3,580円に対して初値は7,620円、初値上昇率112.8%、100株利益40.4万円と結果を残しました。上場後急落した後は、1〜2月は新規IPOがない端境期でもあり、投資家の物色の矛先が向かって株価は順調に伸びます。

その後も、同社製品の採用企業の増加による業績拡大期待から、株価は右肩上がりの展開となります。2019年2月発表の本決算でも経常利益は42.7%増の好決算で、社名を主力商品と同じ「シノプス」に変更。5月10日には21,250円となり、上場直後の底値から約5か月で約3倍となりました。

・イーエムネットジャパン<7036>

(Chart by TradingView

2018年9月21日・マザーズ上場

検索連動型広告などを提供する会社。公募価格3,000円に対して初値は7,000円、初値上昇率133.3%で、100株利益は40万円。上場後、配当を無配から10円に修正とのニュースを受けてストップ高を演じ、9月28日には8,670円の高値をつけましたが、その後は下落基調となり、12月26日には2,801円の底値をつけます。

しかし、好決算や、LINEとのパートナー認定を獲得したこと、今期の年間配当を前期比5円増の35円と発表したことなどから株価はV字回復となり、足元では上場来高値更新に迫る勢いとなっています。

IPOは本当に儲かるのか?

IPOでは投資家に大きな利益をもたらしてくれた10銘柄ですが、上場半年後の株価が初値を上回っていたのは、RPAホールディングスシノプス(旧リンク)の2社のみ。多くの銘柄が、初値もしくは上場直後につけた高値が天井となり、なかには、初値とは全く違う次元の株価で推移している銘柄もちらほら。

そもそもIPO時の公募価格(売り出し価格)は、企業の実力や将来性、あるいは同業種の既存銘柄の株価などを参考にして設定されています。それを踏まえて考えれば、初値がその何倍にもなるというのは、やはり「IPOバブル」と言えるのかもしれません。

9割を超える勝率から「当選すれば儲かる!」といわれて人気を集めているIPO銘柄ですが、それは初値で売った場合の話。IPOを狙うにせよ、その後のセカンダリー投資を狙うにせよ、多くの銘柄で「上場がゴール」となっている事実があることは、ぜひ念頭に置いておきましょう。

[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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