マザーズが低迷する中で、投資家の評価が分かれたポイントは?【2月のIPOを振り返る】

石井僚一
2022年3月8日 11時30分

《2022年IPO市場の幕開けとなった2月。7銘柄のうち2銘柄が公募割れという結果に終わりましたが、その命運を分けたものは何だったのか。特徴的な2銘柄から読み解きます》

2022年2月のIPO市場

2022年は1月のIPO(新規株式公開)がなく、2月から実質的にIPO市場がスタートを切りました。しかし、マザーズ指数が低迷する中で、新規上場を果たした銘柄のうち2銘柄が公募割れという結果になりました。

まずは、IPO市場の温度感を測るため、2月のマザーズ指数を確認しておきましょう。 

始値:770.85ポイント 高値:808.64ポイント 安値:648.20ポイント 終値:725.76ポイント

2月のマザーズ指数は月間で約6%の下落となりました。ただ、月足では陰線を形成したものの下ヒゲの長い陰線であり、後半にかけては上昇も見られました。また、マザーズ指数は1月に24%も下落していたため、2月は下げ止まりの兆候が見えた月とも言えます。

2022年2月のIPOランキング

そんな2月相場では、7銘柄がIPOを行いました。公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率」のランキングで見てみます。

全7銘柄のうち2銘柄が、初値が公募価格を下回る「公募割れ」となり、2月のIPO株投資の勝率は71%でした。ただし、7銘柄の平均騰落率は44%であり、全体としてはプラスに終わりました。

また、時価総額100億円を超える銘柄はありませんでした。初値ベースでの時価総額は13億円から81億円の間に留まっており、中小型株のみのIPOだったと言えます

業種別で見ると、初値騰落率・時価総額ともに位のBeeX<4270>はクラウドシステム開発、2位のエッジテクノロジー<4268>はAI関連、時価総額位のライトワークス<4267>は人材プラットフォーム提供等で、上位には近年のIPO市場を牽引する旬のテーマの銘柄がランクインしています。

そんななか、初値騰落率で3位に入ったCaSy<9215>は、家事代行などのマッチングプラットフォームを提供する「ギグワーク」というテーマの銘柄でしたが、公開申請決算期(202011月期)が赤字だったこともあり、時価総額は37億円で伸び悩みました。

最も時価総額が低く終わったのはセイファート<9213>。美容業界の求人広告サービスを手がける企業で、黒字だったにもかかわらず初値騰落率も−8.0%で公募割れとなり、時価総額も13億円に留まりました。

2022年2月の気になるIPO銘柄

・BeeX<4270>──子会社上場ながら旬のテーマに合致して上昇率134%!

24日にIPOしたBeeX<4270>は初値騰落率134%で、月トップの上昇率となりました。企業システムのクラウド移行サービスなどを手掛ける企業ですが、テラスカイ3915>が親会社として株式の6割以上を持つ子会社上場でした。

子会社上場(親子上場)は、子会社株主の権利が軽視される・親会社の資本の流出につながるなど批判が多く、海外ではほとんど見られず、日本国内でも徐々に数が減っています。

しかしBeeXの場合、もともとは独立系の企業として設立され、2019年にテラスカイによる一部事業の承継などを伴う組織再編の結果、テラスカイの子会社となりました。そのため、純粋な子会社上場とは異なる側面がありました。

また、クラウドというIPOのテーマとして好まれる事業を展開していることもあり、株式市場では不評の子会社上場でありながら、人気化しました。新興市場の低迷や子会社上場という逆風を受けたとしても、IPO市場が好むテーマの銘柄は根強く買われることを示したといえます。

ただ、初値でのPERは29倍、時価総額は81億円という結果を見ると、マザーズの好調期であれば初値時価総額100億円突破の可能性もあったかもしれません。 

・セイファート<9213>──安定的な利益計上も投資家に評価されず公募割れ

2月4日上場のセイファート<9213>は、美容業界に関する求人広告サービスなどを手がける企業です。202112月期は増益予想(売上高23億円、経常利益2.3億円)でありましたが、騰落率は−8.0%で公募割れとなりました。

また、初値1,030円での予想PER6.4倍(202112月期の予想EPSが158.88円)であり、株価に対する評価は非常に低い状態です。

美容業向けの広告事業というリアルビジネスで利益計上もなされていましたが、投資家からの評価を得ることはできませんでした。リアルビジネスを手がけるIPO銘柄が人気化するためには、単に黒字が横ばいで推移するだけでは難しい、ということが同社のIPOからうかがえます。

なお、同社はIPO後の2月14日に202212月期の予想決算を開示し、前期比でほぼ横ばいの予想でした(予想EPSは128.93円)。しかしながら、翌15日から株価は下落しており、さらに初値を割り込み、その後は予想PERは6倍前後での推移が続いています。

今年最初のピークに注目

2022年のIPO市場の幕開けとなった2月ですが、マザーズ市場の低迷もあり、銘柄中の2銘柄が公募割れという残念な結果となりました。ただ、AIやクラウドといったIPOの旬のテーマの銘柄は引き続き人気化しています。

IPO市場は例年月に最初のピークを迎えます。現時点で10銘柄ほどのIPOが予定されていますが、その一方で住信SBIネット銀行が上場延期を発表するなど、3月のIPO市場がどのような展開を見せるのか、マザーズ指数の動向とともに注目されます。

[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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