あの話題のIPO株はいま… 業績が伸びても株価が低迷する理由

石井僚一
2023年3月16日 15時00分

Katrina Brown / Adobe Stock

《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。ただ近年は、そんな「夢の時代」にも陰りが見えてきました。上がる株と下がる株は何が違うのか。ランキングから読み解く【IPO通信簿】》

コロナ禍後のIPO。その後を振り返る

2020年春からの新型コロナウイルスの感染拡大で、世界経済は大きな影響を受けました。しかし各国中央銀行の大規模な金融緩和により、金融市場は、一時的な混乱はあったものの堅調な推移を見せ、国内のIPO新規株式公開)も順調に件数を積み上げました。

コロナ禍から3年が経過しつつありますが、その間にIPOを果たした企業は今、どのような状況になっているでしょうか。特に注目を浴びた銘柄の「その後」を見てみましょう。

コロナ禍のIPO市場を沸かせた3銘柄

2020年から2022年のコロナ禍にIPOした銘柄から、当時話題となった3銘柄を取り上げます。

  • バルミューダ<6612>:2020年2月16日上場。デザイン家電の製造販売
  • ビジョナル<4194>:2021年4月22日上場。転職サービスサイト「ビズリーチ」運営
  • ANYCOLOR<5032>:2022年6月8日。VTuberの運営マネジメント

各銘柄のIPO後の業績と株価の推移を振り返ってみましょう(現在の株価はすべて2023年3月9日終値)。

・バルミューダ<6612>──新規事業がうまくいかず損益悪化&株価下落

    バルミューダは高級トースターや扇風機が人気化し、2020年2年にIPO。上場翌年の2021年12月期は当期純利益10億円を達成するなど、順調に業績を拡大しました。

    しかし、2022年12月期は損益が黒字ギリギリのレベルまで低下。前期(2021年12月期)は自社開発のスマートフォンの売上と利益が業績に寄与したものの、その反動減が発生した形です。また、今期(2023年12月期)も大幅な改善は見込まれていません。

    • 2020年12月期:売上高125億円、営業利益13億円、経常利益12億円、当期純利益8.3億円
    • 2021年12月期:売上高183億円、営業利益15億円、経常利益14億円、当期純利益10億円
    • 2022年12月期:売上高175億円、営業利益0.7億円、経常利益0.1億円、当期純利益0.0億円
    • 2023年12月期(予想):売上高167億円、営業利益1.0億円、経常利益0.5億円、当期純利益0.3億円

    株価については、初値は公募価格比で約1.6倍となった後、2021年1月に高値10,610円まで上昇しました。しかし業績の悪化とともに、下落の一途をたどっています。すでに初値を下回っており、公募価格割れも近付きつつあります。

      IPO後、新規製品としてスマートフォンを投入しましたが、事業としては成功したとは言いがたい状態です。IPO後の新規事業が軌道に乗らず、業績と株価の低迷を招いた形となってしまいました。

      ・ビジョナル<4194>──成長が続く中で株価は堅調に推移

      テレビCMで有名な転職サービスサイト「ビズリーチ」などを運営するビジョナルは、2021年4月にIPOしました。IPO後も業績は拡大しており、今期(2023年7月期)は営業利益100億円を突破の予想です。

      • 2021年7月期:売上高286億円、営業利益23億円、経常利益22億円、当期純利益14億円
      • 2022年7月期:売上高439億円、営業利益83億円、経常利益87億円、当期純利益58億円
      • 2023年7月期(予想):売上高560億円、営業利益125億円、経常利益128億円、当期純利益83億円

      「ビズリーチ」事業を統括する多田洋祐取締役(株式会社ビズリーチ社長)が2022年7月に急逝する不幸はありましたが、業績は堅調そのものです。

      ただし、株価は業績ほど右肩上がりではありません。ただし、2022年6月の5,300円を底に株価は上昇基調にあります。IPO後も成長を続けており、株価上昇の期待感は維持されているといえるでしょう。

      ・ANYCOLOR<5032>──成長続くも株価は大苦戦

      ANYCOLORは国内初のVTuberマネジメント会社として、2022年6月にIPO。2021年4月期ですでに営業利益が10億円を突破していましたが、2022年4月期は41億円まで拡大し、大幅な増収増益を達成。さらに2023年4月期も成長は続く予想です。

      • 2021年4月期:売上高76億円、営業利益14億円、経常利益14億円、当期純利益9.3億円
      • 2022年4月期:売上高141億円、営業利益41億円、経常利益41億円、当期純利益27億円
      • 2023年4月期(予想):売上高190~210億円、営業利益55~65億円、経常利益54~64億円、当期純利益38~46億円

      ただし株価は2022年10月の13,790円が高値となり、その後は下落が継続。2023年2月には初値4,810円を下回る水準まで下落しました。

      株価の下落については、投資家の成長期待が高すぎた面があるのに加え、大株主のベンチャーキャピタル(VC)による保有株式の売却(2023年1月)が影響していると考えられます。

      業績は客観的に見て文句のない状態です。しかし成長企業というのは、投資家の期待を上回る成長を果たさなければ株価の面で苦戦を余儀なくされる場合があります。成長期待が高い同社は、その典型例といえるのではないでしょうか。

      業績が良くても株価は苦戦

      2022年からのマザーズ指数の低迷もあり、2020~2022年にIPOした銘柄の多くは株価面では苦戦を余儀なくされています。それは、IPO時に注目を集めた銘柄も例外ではありません。

      ただ、ビジョナルやANYCOLORのように、IPO後も成長が続く企業も存在します。IPOが企業としてのゴールとならず、IPO後も成長が続く一方で株価は今ひとつの銘柄について、今後の業績と株価の行方が注目されます。

      [執筆者]石井僚一
      石井僚一
      [いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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