住信SBIネット銀行と楽天銀行 ついにIPOを果たした2つのネット銀行を比較して今後を展望する【IPO通信簿】
《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし近年、そんな「夢の時代」にも陰りが……。IPOで上がる株と下がる株は何が違うのかをランキングから読み解く【IPO通信簿】》
2023年3月・4月は、住信SBIネット銀行<7163>と楽天銀行<5838>という国内ネット銀行を代表する2社がIPO(新規株式公開)を行いました。IPOに至るまでにはそれぞれ事情があり、また、株価決定に不満の残る形でのIPOでした。
住信SBIネット銀行と楽天銀行の比較
1か月違いでIPOを行った住信SBIネット銀行<7163>と楽天銀行<5838>を比べてみましょう。
両社を比較すると、前2022年3月期では決算内容および口座数・預金量のいずれも、楽天銀行が住信SBIネット銀行を若干上回っています。
一方、IPO後の5月末の予想PERはいずれも約10倍であり、株式市場からの評価は同等です。この「予想PER約10倍」というのは通常の銀行と同レベルであり、住信SBIネット銀行が主張する「ネット企業としての評価が進んでいる」とは言えそうにありません。
なお、7兆円台の預金量は、地銀では群馬銀行、中国銀行、北陸銀行、関西みらい銀行あたりと同等で(いずれも2022年3月期末)、両社はすでに有力地銀並みの預金量を誇っています。
IPOに至るまでの、それぞれの事情
2023年3月に住信SBIネット銀行、4月に楽天銀行と続けてIPOしましたが、いずれも事情を抱えてのIPOでした。
【住信SBIネット銀行の場合】業績拡大も、株価を下げてのIPO再チャレンジ!
住信SBIネット銀行は2022年2月に東京証券取引所から上場承認を得ましたが、その後、同社からの申し出で上場承認は取り下げられました。
2022年の上場承認時から2023年のIPO実現までの間に、同社の想定価格〜公開価格〜初値は以下のように変遷しました。
- 2022年2月:想定価格1,920円(最初の上場承認)
- 2023年3月:想定価格1,200~1,260円(2度目の上場承認)
- 2023年3月:公開価格1,200円
- 2023年3月:初値1,222円
IPOを1年延期して、2022年3月期、2023年3月期(予想)と業績を拡大させてIPOを実現したものの、最終的には2022年の上場承認時よりも低い株価でIPOが行われました。
2022年のIPO取り下げは、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた市場下落の影響を回避するとともに、より株価を上げてのIPOを狙った可能性もあります。しかしながら、結果としては2022年の想定株価には届かず、むしろ2022年のIPO準備時の想定株価が強気すぎた可能性もあります。
なお、4月25日には同じSBIグループの投資信託運用会社であるレオス・キャピタルワークス<7330>もIPOを行いました。こちらも2018年12月に上場承認の取り下げがなされ、その後にSBIグループ入りしてIPOを実現した経緯があります。
【楽天銀行の場合】公開価格の値下げは、機関投資家に足下を見られた?
楽天グループは現在、携帯電話事業の立ち上げに注力しています。設備投資やプロモーション費用に莫大な投資が行われており、楽天グループとしての資金調達が急務です。
そんな楽天グループは、グループ化した企業については100%子会社として完全に取り込むことを長くポリシーとして掲げていました。しかしながら、携帯電話事業の資金調達のために、このポリシーを曲げて子会社・楽天銀行のIPOを行うことになったのです。
楽天銀行のIPOに至るまでの価格・株価の推移は次のとおりです。
- 想定価格1,630~1,960円
- 公開価格1,400円
- 初値1,856円
想定価格1,630~1,960円に対して公開価格は1,400円となり、想定を1割以上も下回る金額でのIPOでした。調達金額も当初予定より約300億円下回っています。公開価格を決めるブックアンドビルディング時、機関投資家に「楽天グループとして資金調達が急務」だと足下を見られた可能性が否定できません。
最終的に初値は1,856円となり、当初の想定株価内で着地しました。資金調達優先とはいえ、楽天グループとしては不満の残るIPOになったのではないでしょうか。
事業面では住信SBIネット銀行に軍配?
住信SBIネット銀行と楽天銀行は、いずれも子会社上場かつ類似の事業および事業規模です。ただし、事業展開の方向性には違いが見られます。
住信SBIネット銀行はネット銀行事業に加えて、BaaS事業と呼ばれる銀行サービスのOEM事業を積極的に展開中です。2020年の日本航空<9201>を皮切りに、家電量販店最大手のヤマダホールディングス<9831>、高島屋<8233>のほか、Tポイントのカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)や第一生命に対してサービスを提供しています。
一方、楽天銀行は、楽天経済圏で欠かすことのできない存在であり、楽天グループのカラーが非常に強い銀行です。台湾での銀行業務や地方銀行との銀行代理店業務の提携なども行っているものの、住信SBIネット銀行のBaaS事業ほどの成果は上がっていません。
差別化の難しい銀行業務ですが、事業のユニークさという観点では、他の銀行には見られないBaaS事業を手がける住信SBIネット銀行に軍配が上がるといえます。
予想PERはやっぱり役に立つ
同業かつIPOに至るまで紆余曲折あった住信SBIネット銀行と楽天銀行ですが、ともあれ無事にIPOを果たしました。
両社ともに手放しで喜べる結果ではなかったかもしれませんが、IPO後の株価はいずれも予想PER10倍の水準で推移しています。このことからは、同業における予想PERの「適正株価探索機能」を再認識できるIPOでもありました。
この先、事業の成長とともに株価も上昇するか、既存の銀行とは異なる点が評価されて予想PERでの評価を引き上げることができるのか(特に住信SBIネット銀行)。わずか1か月違いのタイミングでIPOを果たした2社の株価と事業の行方に今後も注目です。