実に半分が公募割れに終わった年末のIPO 今年のIPO市場で勝てる株を見つけるヒントは?

石井僚一
2024年1月15日 8時00分

《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし近年、そんな「夢の時代」にも陰りが……。IPOで上がる株と下がる株は何が違うのかをデータから読み解く【IPO通信簿】》

例年、IPOのピークとなるのが12月です。2023年も15銘柄がIPOを行いましたが、2022年の25銘柄に比べると減少しており、批判も多い12月のIPO集中は緩和されました。しかしながら、11~12月にIPOを果たした銘柄の2分の1が公募割れとなってしまいました。

新興市場の低迷は依然として続いています。新興市場の低迷が続く中で、2033年のIPO市場はどのような形で着地したのでしょうか。2023年11~12月のIPO市場を振り返ります。

東証グロース市場250指数も低迷が継続

2023年11月5日に東証マザーズ指数は役割を終え、新たに東証グロース市場250指数の算出が始まりました。

この新しい東証グロース市場250指数を月足で見てみると、11月は上昇したものの、それは10月の下落分を取り戻したに過ぎません。依然として安値圏での取引が続く状態です。また12月には、一時的ながら11月の上昇分を取り消す下落にも見舞われました。

最終的には反発したものの、12月は下ヒゲが長く実体の短い陰線で取引を終えています。

2023年11~12月のIPOランキング

2023年の11月は3銘柄(2022年は5銘柄)、12月は15銘柄(同25銘柄)が新規上場を果たしました。例年12月は数多くのIPOが行われますが、2022年に比べるとマイナス10銘柄です。12月のIPO集中は批判されることが多いものの、2023年は緩和されました。

11月と12月にIPOした計18銘柄について、公開価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率」のランキングで見てみましょう。

グロース250指数が低迷する中で、18銘柄のうち9銘柄が公募割れとなりました。IPO銘柄の半分です。その一方で、初値騰落率100%(=初値が公開価格の2倍)を超えた銘柄も2銘柄ありました。

全体的に見ると有名企業のIPOがなかったことから、話題性に乏しく、新興市場の低迷も続く仲で、例年に比べて盛り上がりに欠けた年末のIPO、という印象が残りました。

2023年11~12月の気になるIPO銘柄

2023年11~12月にIPOした銘柄のなかから、気になる銘柄として初値当落率100%を超えたQPS研究所とエスネットワークスを取り上げます

国内2件目の宇宙ベンチャー。初値時価総額300億円突破!

・QPS研究所<5595>

QPS研究所<5595>は、小型SAR衛星の開発・製造および、その衛星から取得した画像データの販売などを行う福岡市に本社を置く企業で、九州大学にルーツを持ちます。

IPOまでの業績推移と今期の業績予想(IPO時点)は、以下のようになっています。

  • 2021年5月期:売上高0億円、経常利益▲6.3億円、当期純利益▲6.3億円
  • 2022年5月期:売上高0.1億円、経常利益▲3.8億円、当期純利益▲3.8億円
  • 2023年5月期:売上高3.7億円、経常利益▲3.2億円、当期純利益▲11.0億円
  • 2024年5月期(予想):売上高14億円、経常利益▲7.0億円、当期純利益▲7.1億円

2022年5月期までは研究開発先行でほとんど売上がない状態でしたが、2023年5月期は3億円を超える売上を計上しました。ただし、当期純利益が10億円を超えるなど赤字も拡大。しかし、今期(2024年5月期)は売上高10億円を突破し、また、赤字幅も減少が予想されています。

衛星から取得できる画像データの販売と関連する共同研究等によって、売上ベースでは事業が軌道に乗りつつあります。ただし、それでも依然として約7億円の赤字予想、という状況の中でのIPOでした。

その結果はどうなったかと言えば、公開価格390円に対して、ついた初値は860円。初値騰落率は120%となりました。初値ベースの時価総額は300億円超えを達成しています(301億円)。

事業が軌道に乗りつつあるとはいえ、赤字の研究開発型企業です。昨年4月に国内初の宇宙ベンチャーIPOを果たしたispace<9348>の初値騰落率293%に比べれば低いものの、宇宙ベンチャーとして高く評価された結果といえるでしょう。

12月6日のIPO後には、一時初値を下回って643円まで株価が下落する場面もありましたが、最終的には1,268円で取引を終えており、初値を上回る水準で年を越しました。

宇宙ベンチャーIPOの人気が今後も続くのかどうか、ispaceに加えてQPS研究所の事業進捗の行方が鍵を握ることになりそうです。

手堅い業績&低めの公開価格が功を奏す

・エスネットワークス<5867>

エスネットワークス<5867>は、企業のCFO機能の実務実行支援を常駐型で行うコンサルティング事業のほか投資事業も手がける企業です。

IPOまでの業績推移と今期の業績予想(IPO時点)は、以下のようになっています(2021年12月期以降は連結決算)。

  • 2020年12月期:売上高19億円、経常利益▲1.3億円、当期純利益▲0.5億円
  • 2021年12月期:売上高23億円、経常利益1.6億円、当期純利益1.2億円
  • 2022年12月期:売上高26億円、経常利益2.3億円、当期純利益1.4億円
  • 2023年12月期(予想):売上高27億円、経常利益2.4億円、当期純利益1.5億円

売上高は20億円を超え、経常利益も2億円前後を安定的に出しており、2023年12月期は若干の増収増益となる予想です。なお、この2023年12月期は投資事業での売上は見込んでおらず、コンサルティング事業のみの売上です。

IPOにおける公開価格は730円で、公開価格べースでの時価総額は22億円と、低めの価格設定となっていました。この価格設定が功を奏する形となり、初値騰落率167%、初値ベースの時価総額59億円で着地しました。

注目を集める宇宙ベンチャーやAI関連やDX関連でもなく、手堅い財務コンサルティングなどを中心とする企業のIPOでした。しかし、公募割れが続く12月IPOの中で、その手堅さに加えて黒字を維持していることが評価され、さらに低めの株価設定も奏功して、初値騰落率100%を超えてIPOに成功しました。

IPO市場も波に乗れるか?

2023年11月・12月のIPOは、実に半分が公募割れという、IPOのピーク期であり一年を締めくくる時期としては非常に寂しい結果となりました。低調なIPO市場を象徴する形で2023年を終えた、と言うこともできるでしょう。

ただ、そんな中でも、宇宙ベンチャーとしては2例目のIPOも行われ、新しい風を感じることもできました。

年が明けて2024年1月はIPOの予定がなく、IPO市場は2月からの再開となります。現時点の予定は2件ですが、実は、この2月IPOから、また新たな動きがあります。証券コードが数字4ケタから、数字+英字の4ケタなるのです(2月8日IPO予定のVeritas In Silicoは<130A>)。

日経平均株価が史上最高値を目指すと言われる2024年。IPO市場もその波に乗って低迷を脱することができるのか。期待をもって注目したいと思います。

[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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