公募割れが4割超… 寂しい夏のIPO市場で奮闘した小型株と急成長株【8・9月のIPOランキング】

石井僚一
2024年10月21日 10時00分

《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし、そんな「夢の時代」にも陰りが? IPOで上がる株と下がる株は何が違うのか。データから読み解く【IPO通信簿】》

例年8~9月はIPOの閑散期となります。今年は9銘柄がIPOを行いましたが公募割れが4件も発生。秋のIPOシーズン入りを前に寂しい状態となった今夏のIPO市場を振り返ります。

2024年8・9月のIPO市場

8月のIPO市場は、夏休み時期と重なるため開店休業状態となるのが通例です。今年も、わずかに2件のIPOに留まりました。一方9月は、IPOが本格化する秋を前に件数が増加し、今年は7件のIPOが行われました。

ちなみに2023年は、8月2件、9月10件となっており、それに比べると9月はマイナス3件。とはいえ、これまでのところ2024年はおおむね前年と同等のIPO件数が維持されています。

IPO銘柄の初値などに大きな影響を与える東証グロース市場250指数の8~9月の状況を振り返ってみましょう。

7月末に日銀が利上げを行った結果、8月に入ると日経平均株価は急落しました。東証グロース指数も同様に急落しており、2022年以降の支持帯を割れ込みました。

しかし、その後は日経平均の急回復とともに反発を見せ、8月は月足で下ヒゲの長い陽線となって取引を終えています。しかしながら9月は陰線となり、この2か月は大きな値動きがあったものの、これまでどおりの安値圏で着地しました。

日経平均株価は急落がありながらも高値圏を維持した反面、東証グロース指数は急落があっても安値圏を維持する結果となっています。

2024年8・9月のIPOランキング

8~9月にIPOを行った9銘柄について、公開価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率ランキング」を見てみましょう。

初値が公開価格を割れる公募割れが4件発生しています。7月は7件のIPOに対して0件でしたが、8〜9月は公募割れ率44%となってしまいました。

一方の上昇で見ると、7月に引き続き初値騰落率100%超(=2倍以上)の銘柄は出ていません。騰落率1位は+47.6%のアスア<246A>、2位は+42.8%のAiロボティクス<247A>、3位は+39.2%のINGS<245A>となっています。

IPOが本格化する前とはいえ、有名企業のIPOもなく、公募割れの比率が4割を超えて、IPO市場全体として盛り上がりに欠ける夏の2か月となってしまいました。

2024年8・9月の気になるIPO銘柄

盛り上がりに欠けた8・9月のIPO市場ですが、この中から初値騰落率1位と2位について詳しく見てみましょう。

注目される中で小型のIPOが奏功

・アスア<246A>

アスア<246A>は、物流業界特化型のコンサルティングサービスを提供する、名古屋市に本社を置く企業です。

国内全体の人手不足の中で、物流業界はドライバーの労働時間に上限が課される2024年問題もあり、従来の事業環境からの変化が求められています。そんな中で同社の契約数は1286社、約4万人のドライバー教育を行っています(2024年6月末時点)。

着実に増収増益を続けており、前期(2024年6月期)には当期純利益が1億円の大台を突破しました。今期(2025年6月期)も着実な増収増益が続く見込みです。

公開価格680円に対して、初値1004円、初値騰落率47.6%となり、今夏の初値騰落率トップとなりました。ただ、公開価格での時価総額は17億円、初値でも時価総額25億円で、小型のIPOでした。

物流企業向けサービスというIPOで人気化しにくいサービスながら、近年注目される物流業界の人手不足解消に貢献するサービスの提供に加え、株価を抑えて(予想PER12倍)でIPOを行ったことが奏功したと言えるでしょう。

化粧品事業での急成長が高評価

・Aiロボティクス<247A>

独自開発したAIマーケティングシステムを活用したスキンケア商品などの企画・開発・販売を行っているAiロボティクス<247A>。

2016年4月の事業開始後、自社開発の「SELL(セル)」によるAIマーケティング事業を手がける中で、2022年1月にスキンケアブランドを展開する企業2社の買収を行い、現在に至っています。

スキンケア企業の買収後、業績は右肩上がりです。前期(2024年3月期)は経常利益10億円の大台を突破。今期(2025年3月期)は売上高100億円、当期純利益10億円という各大台の突破を予想しています。

化粧品関連を手がける企業は、ブームに乗ると利益率が高いまま急成長するケースがありますが、同社もその成功シナリオに沿っている状態です。

公開価格1760円に対して、初値2514円、初値騰落率は42.8%です。時価総額は公開時点で200億円あり、初値では285.69億円となりました。実績もあり高い利益率で成長中のため、着実にIPOを果たす形となりました。

10月は東京メトロが登場

10月は11社がIPOを予定しており、今年も秋のIPOシーズンがスタートします。なかでも、23日にIPO予定の東京地下鉄(東京メトロ)が注目を集めると予想されます。

8・9月は東証グロース指数の低迷継続もあり、公募割れが約4割という寂しい結果となりました。IPOが本格化する10月は、東京メトロという話題のIPOも登場するため、IPO市場全体の盛り上がりを期待したいところです。

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[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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