IPOの半数が公募割れ… 盛り上がりに欠ける市場にも明るい兆し?【11月のIPOランキング】

石井僚一
2024年12月11日 13時00分

《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし、そんな「夢の時代」にも陰りが? IPOで上がる株と下がる株は何が違うのか。データから読み解く【IPO通信簿】》

12月の繁忙期を前に、11月はIPOの閑散期となります。今年も4件に留まりました。東証グロース指数の上昇は見られたものの、例年どおり低調に推移した今年11月のIPO市場を振り返ります。

2024年11月のIPO市場

IPO市場は例年、12月にピークを迎えます。そのため、直前の11月はIPO件数が大きく減る傾向にあり、2023年の11月は3銘柄、今年も4件のIPOに留まりました。

IPO銘柄の初値などに大きな影響を与える東証グロース市場250指数は、11月は小幅高で終わりました。引き続き安値圏に留まってはいるものの、8月以来の上昇です。

ただし8月は、7月末の日銀利上げを受けた急落後の反発による上昇であり、荒れた値動きの月でした。通常の値動きとの比較という観点では、この11月は6月以来の上昇となっています。

また、11月の日経平均株価の月足は陰線を形成して下落しています。2024年は日経平均株価が上昇となる反面、グロース指数は下落や停滞する月が多かったものの、11月はグロース指数の優位となりました。

2024年11月のIPOランキング

2024年11月は4銘柄がIPOを行いました。その4銘柄について、公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率ランキング」を見てみましょう。

4銘柄のうち、半数にあたる2銘柄が公募割れとなりました。これを見るかぎり、IPO市場に資金が戻った、とは言えない状態です。

上昇した2銘柄についても、初値騰落率は、32%(ククレブ・アドバイザーズ<276A>)と24%(グロービング<277A>)で、初値騰落率100%超え(=株価2倍)は4月以降出ていません。

2024年11月の気になるIPO銘柄

10月は、東京地下鉄(東京メトロ)<9023>が注目され盛り上がったIPO市場ですが、11月は、そうした有名銘柄の上場はありませんでした。

気になる銘柄としては、騰落率1位のククレブ・アドバイザーズ<276A>と、最下位になってしまったTerra Drone<278A>を取り上げたいと思います。

AI事業も手がける不動産企業として手堅いIPO

・ククレブ・アドバイザーズ<276A>

企業不動産(CRE:Corporate Real Estate)へのソリューション提供や、不動産テックシステムの開発・販売を手がける企業です。

歴史ある企業は不動産を保有していることが多く、特に上場企業は、近年の資本効率重視の経営が求められる風潮の中で、保有不動産の効率的な活用が求められています。

こうした中でククレブ・アドバイザーズは、コンパクトサイズの不動産について、企業に対して活用戦略を提案しています。また、AIの活用によるCRE営業支援システムも提供しています。

着実な成長が続いており、2024年8月期で売上10億円の大台を突破し、経常利益は4億円台の着地が見込まれています。次の2025年8月期も成長継続の予想です。企業の資産の効率的な活用重視という流れの中で、同社の事業は順調といえます。

また、AIを活用した不動産テックサービスについても、2023年8月期の売上高は1.3億円で、全体の約2割を占めました。

2025年8月期の予想EPSは87.09円だったため、公開価格の950円は、予想PERが10倍となる設定でした。その結果、初値は1250円で騰落率31.6%となりました。

業績堅調かつAIビジネスを展開しているとはいえ、不動産はIPO市場では人気化することが少ない分野と言えます。実際、市場ではククレブ・アドバイザーズをAI銘柄ではなく不動産関連銘柄として意識していました。

その中で、低めの株価設定を行ったことで、初値は公開価格に対し約3割上昇しました。手堅くいったことが功を奏した、と言えるでしょう。

ドローン銘柄ながら人気化せず公募割れ…

・Terra Drone<278A>

ドローンのハードおよびソフトの開発とサービス提供を行う企業。事業展開は国内に留まらず、世界各国のドローンに関わるサービス・技術を持つ企業へのM&Aを実施しています。

さらに、サウジアラビアの国有石油会社アラムコが支援するベンチャーキャピタルファンドから出資を受けています。

急速な売上拡大の反面、赤字は継続中です。前期(2024年1月期)は経常利益▲1.1億円となり、黒字化まであと一歩に迫りましたが、今期(2025年1月期)は▲6.5億円で赤字が拡大する予想となっています。

成長重視の事業戦略の中で赤字のままIPOを行い、公募で24億円の資金調達を行いました。公開価格2350円・時価総額219億円で臨みましたが、初値は2162円・時価総額201億円で、初値騰落率は▲8.0%の公募割れでした。

赤字継続で株価評価が難しい中、公募割れとなったものの、時価総額200億円を維持してのスタートとなりました。

話題性のあるドローン銘柄でしたが、AI銘柄のように話題性の後押しを受けて株価が跳ね上がる……という結果にはなりませんでした。ただ、増収は続いており、今後どのタイミングで黒字化するのかが、株価推移とともに注目されます。

歳末IPOラッシュがやってくる!

11月のIPO市場は、件数と初値騰落率のいずれも盛り上がりに欠けました。ただし、グロース指数は上昇しており、個別のグロース銘柄を見ても、新興市場に資金が戻ったと見られる動きも生じています。

12月は毎年多数のIPOが行われる月です。今年も17銘柄のIPOが予定されており、その中には半導体メモリー大手のキオクシアホールディングスという話題銘柄も。

市場全体としてはよい傾向も見られた11月の流れを引き継ぎ、12月のIPO市場は大いに盛り上がることを期待したいですね。

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[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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