日経平均株価の定期入れ替えで株価はどう動いた? 新たな要素と近年の動向もおさらい

佐々木達也
2023年10月17日 12時00分

日本株の代表的な指数である日経平均株価は、4月と10月の年2回、構成銘柄の定期入れ替えというイベントが発生します。この銘柄入れ替えは株価に大きなインパクトをもたらす場合も多く、毎回、市場関係者の注目を集めます。

日経平均株価の定期入れ替え

日経平均株価とは、東証プライム市場のなかから流動性の高い銘柄を中心に、業種ごとのバランスも配慮して選ばれた225銘柄の株価を平均して算出される株価指数です。

日経平均株価は、構成銘柄の市場代表性を保つことで、指数としての指標性や連続性を維持し ています。このため年に2回、4月と10月に構成銘柄を見直しています。2022年までは年1回でしたが、2023年から春秋の年2回となりました。

入れ替えの対象となる銘柄は、それぞれ入れ替えの1か月前にあたる3月と9月の初旬に、新規採用銘柄が発表されます。

通常、新たに採用された銘柄にはファンドなどのインデックス買いが入るため、株価にとってはプラス要因となります。反対に除外された銘柄は、インデックス運用のポートフォリオから外されるため、株価のマイナス要因です。

このほか、構成銘柄に経営破綻やグループ再編による持ち株会社化、スタンダード市場などへの市場変更があった場合には、臨時の入れ替えが生じる場合もあります。

日経平均株価の新たな要素

日経平均株価を巡っては、近年2つの新たな要素が加味されたこともあり、注目度が高まっています。

ひとつは2021年10月から適用された株価換算係数です。

株価換算係数とは、指数の計算に使用される銘柄の水準を調整する係数を指します。以前は「みなし額面方式」として、かつて商法にあった株式の額面の大きさの違いに従って水準を調整していましたが、2021年10月からは株価換算係数による調整に変更されました。

これにより、通常、日経平均株価に新たに採用される銘柄の係数は1(調整なし)ですが、株価の大きい「値がさ株」など指数に与える影響が大きいと見られる銘柄については0.1~0.9の乗数を設定することで、影響を軽減することが可能になります。

つまり、これまで影響が大きいために新たに採用しにくかった値がさ株を、日経平均株価に採用しやすくなったと言えます。

ファーストリテイリング株を巡る攻防

もうひとつの新要素は、構成銘柄のウエート(寄与度)上限キャップの導入です。

ウエート(寄与度)とは、日経平均株価に対する各構成銘柄の比率です。このウエートが基準日時点で12%を超えている場合は、前述の株価換算係数を引き下げてウエートを低下させます。株価換算係数と合わせて、少数の銘柄によって指数の変動が左右されにくくするための追加措置と言えます。

このウエート上限キャップを巡る動きが、今年7月末に水面下で起こっていました。

ファーストリテイリング<9983>は日経平均株価の寄与度が10%超と、もっとも高い銘柄です。

ウエート上限キャップは2022年10月の定期入れ替えから12%が適用され、毎年1%ずつ、段階的に10%まで下げられます。今年の上限キャップは11%でしたが、ファーストリテイリング株は11%を上回る場面が何度もあり、株価動向が注視されていました。

10月の定期入れ替えの基準日は7月末であり、7月末時点で株価が上昇して11%を上回っていた場合、キャップによる比率引き下げのためファーストリテイリング株にまとまった金額の売り需要が発生する可能性がありました。

結果的に、7月末にかけて株価はキャップ導入への警戒感もあり上値が重たかったことから、導入は見送られました。また、その後、大株主であり会長兼社長の柳井正氏によるファーストリテイリング株の売却も明らかになるなど、市場の関心が集まりました。

近年の銘柄入れ替えの動向

日経平均採用銘柄の変更履歴は、日本経済新聞社のサイトの「日経平均プロフィル」で確認することができます。

2020年の秋の定期入れ替えでは、日本化薬<4272>が除外され、ソフトバンク<9434>が採用されました。また臨時入れ替えとして、ファミリーマート<8028>が伊藤忠商事<8001>によるTOBで上場廃止となることからネクソン<3659>が採用されました。

2021年の秋の定期入れ替えでは、日清紡ホールディングス<3105>、東洋製罐グループホールディングス<5901>、スカパーJSATホールディングス<9412>が除外されました。

採用されたのはキーエンス<6861>、村田製作所<6981>、任天堂<6981>です。いずれも日本を代表する大企業ではありますが、値がさ株であるという理由から採用が見送られてきました。しかし、前述の株価換算係数の導入により、即座に採用されました。

なお、この年から定期入れ替えの銘柄数の上限が3銘柄に設定されました。一度に多数の銘柄を入れ替えることにより、市場に過度の変動をもたらさないための措置です。

2021年末から翌年初には、日本通運<9062>から持ち株会社のNIPPON EXPRESSホールディングス<9147>への入れ替えが実施。4月にも、新生銀行<8303>がSBIホールディングス<8473>によるTOBでの完全子会社化したことを受け、同じ金融セクターのオリックス<8591>へ入れ替えられました。

2022年秋の定期入れ替えではマルハニチロ<1333>、ユニチカ<3103>、OKI<6703>が外され、代わりに採用されたのは、SMC<6273>、日本電産(現・ニデック)<6594>、HOYA<7741>となり、いずれも前年に続き、値がさのテクノロジー株などが採用されました。

同時期には持ち株会社のため、静岡銀行<8355>がしずおかフィナンシャルグループ<5831>に入れ替えられています。

年2回の入れ替えとなった2023年。春には、新たにオリエンタルランド<4661>、ルネサスエレクトロニクス<6723>、日本航空<9201>が採用されました。除外されたのは、東洋紡<3101>、日本軽金属ホールディングス<5703>、東邦亜鉛<5707>です。

2023秋の入れ替えと株価の動き

直近の2023年秋の定期入れ替えと、その後の株価推移を見てみましょう。

日本経済新聞は9月4日に、2023年秋の定期入れ替えを発表しました。新規採用はメルカリ<4385>、レーザーテック<6920>、ニトリホールディングス<9843>です。実際の組み入れは10月2日のため、ファンドなどの注文処理は前営業日の9月29日の大引けで執行されることになります。

なお、ニトリホールディングスは、今回の定期入れ替えから導入された「分割組み入れ」という措置が適用されました。これは、売買代金の比率が全構成銘柄の比率と比べて少ない場合に、定期見直しの2回に分けて、段階的に指数算出に用いる株価換算係数を引き上げる措置です。

入れ替え発表で株価はどう動いた?

発表翌日のニトリホールディングスの株価は急騰し、終値は5%高の17515円でした。アナリストなどによる事前予想では採用への期待値が低かったこともあり、市場は買いで反応しました。その後は株価は横ばいでのもみ合いの推移となりました。

レーザーテックは、半導体関連の代表格として個人投資家を含めた売買代金も多く、採用を予想する声も多かったようです。そうしたこともあり、発表翌日の終値は0.1%安の22425円。その後は下落基調となるも買い戻される“行ってこい”の株価推移となり、9月5日の高値には届いていません。

メルカリも、事前に採用を予想する向きがあったこともあり、発表翌日の終値は0.01%安の3204円と、反応は限られました。その後は、上値が重い展開です。

その一方で、除外された3銘柄は意外な値動きを見せました。今回除外されたのは、日本板硝子<5202>、三井E&S<7003>、松井証券<8628>です。

日本板硝子の発表翌日の株価は、3%高の806円と意外にも上昇して終えました。その後も上値追いが続き、13日には年初来高値882円を付けています。

三井E&Sも市場は買いで反応し、翌日終値は4%高の540円。その後も買いが続き、年初来高値圏で推移しています。松井証券も同様に発表後から買いを集める結果となり、20日に年初来高値870円を付けています。

これら除外3銘柄については、事前のアナリスト予想で除外候補とみられていたことから空売りを含めて売りが優勢だったことの反動で、入れ替えの発表後は買い戻しの動きになったとみられます。

入れ替えからアイデアを見つける

このように、日経平均株価の定期入れ替えを巡っては、発表前から実際の入れ替え実施までの期間にわたって、市場関係者の様々な思惑が交錯して、株価は通常とは異なる値動きになる場合があります。

場合によっては、これが新たな投資アイデアにつながる場合もあるので、春と秋には入れ替えに関するニュースなどに注目してみてはいかがでしょうか。

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[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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