テクニカル分析が有効な理由を考える。そもそも相場の予想とは一体どういうものか?

伊藤智洋
2022年4月27日 16時30分

Alex/Adobe Stock

《テクニカル分析で勝ち続けるには、結局のところ何が必要なのか? 20年以上にわたって値動きと向き合い続けるテクニカルアナリストが、その本質について考え直す【テクニカル分析・再考】》

テクニカル分析による「予想」とは

値動きの激しい銘柄で短期的に利益を得る手法は、ギャンブル性があり、予想の当たりはずれで利益を求めるゲームのように考えがちですが、実際はそうではありません。当たりはずれで値動きを予想している人は、価格の上下の方向を当てさえすれば利益につながると考えているようですが、違います。

テクニカル分析によって利益に結びつけるための予想は、基準になるシナリオを作り、そこからのズレを確認し、修正し、予想の信頼性を高めてゆく作業です。

ゴルフでは、そのホールの形状や距離などを見て、グリーンから逆算した自分なりの攻略を考えてからスタートします。そして、もしも第一打が想定よりも飛ばなかったら、第二打を当初予定の7番アイアンから5番に変更して足りない距離を稼ぐか、もしくは、自分の使いやすいアイアンを優先的に選択するか、などの方針を決めて、最初の予定を修正しながら進んでゆきます。

スタート地点では何通りかあった攻略法が、一打ごと、ピンに近づくごとに、どんどんと絞られてゆき、それとともにイメージ(想定)とのズレも少なくなってゆきます。値動きを予想する作業もこれと同じです。最初に想定できるいくつかのシナリオを作成して、時間の経過にしたがって未来が現実になってゆく過程で、シナリオを修正してゆきます。

そうして、当初複数あったシナリオは、節目となる地点を経過するごとに絞られてゆきます。だから、値動きの予測は、時間が経過してゆく過程で、その精度が上がってゆきます。

もしも最初に想定したシナリオが間違っていて、修正だけでは間に合わず、あらためてシナリオを作り直さなければいけない状況になる場合、それは、予想する際に重視していたポイントや考え方が間違っていることを意味します。

テクニカル分析には「終点」がある

ファンダメンタルズ分析は、価格を動かす「芯」の部分を基準にしています。つまり、ファンダメンタルズ分析で評価が高い銘柄は、価格を動かす部分の評価が高いということですから、その時点では注目を集めていなくても、いずれ注目されて、価格が評価の通りに動き出すと考えられます。

だからファンダメンタルズ分析での予想は、「どこまで上昇するか」「いつから上昇するか」はわからないけれど「いずれ上昇を開始する可能性が高い」という、期間と値段のあいまいな読みになります。でも、それでかまわないのです。

一方でテクニカル分析では、すでに注目されている銘柄を利用していかに利益を得るか、ということを予想します。価格が上昇する/下降するという動きについて、そうならなければならない根拠がないため、その時点で取引が活発に行われていて、これからも価格が動く銘柄でなければ、予想が成り立ちません。

そして、予想の期間は人の生活の範囲内であり、かつ、「終点」となる値段が明確に示されている必要があります。目標となる期間と値段があるからこそ、予想が役に立つのです。

テクニカル分析による値動きの予想とは、期間と値段を一定の範囲内に絞り込んで、そこまでの道筋を描く作業です。目標となる場所があいまいでは、日柄を経過する過程でシナリオを修正してゆく作業も、結果としていい加減で意味のないものになってしまいます。

テクニカル分析を有効にする「仕掛け」

テクニカル分析で予想を組み立てるときに土台となるのは、「必ずそうなる可能性のある事象」です。筆者はそれを「人が何か目的をもって積極的に行動しているときに推測できる未来」だと考えています。この視点に立つと、それまで見えていなかったものが見えるようになります。

それは、市場には多くの参加者が一定の方向へ誘導されるような“仕掛け”がある、ということです。

テクニカル分析における予想には「いつまで」「どこまで」という何通りかの目安があり、時間の経過とともに修正しながら、その道筋を絞ってゆきます。ということは、「市場には何らかの力が働いていて、一定の期間、特定の値位置というおおまかな目安へと、多くの市場参加者を導いている」という前提がなければ、そもそもテクニカル分析の予想は意味のないものになってしまいます。

「指標が買いサインをつけた」とか「一目均衡表の雲の中に価格が位置している」といったことを予想に用いるのは、そうなったら「どうなる」という特定の展開を当てにしているからであり、そのような展開を引き起こす“仕掛け”なり“力”なりの存在を認めていることに他なりません。

ところで、ここで「市場」と書いたのは、株の個別銘柄で株価を誘導するようなことを実行すれば、それは相場操縦という犯罪になってしまいます。

市場を誘導する“仕掛け”には、たとえば景気対策があります。誰もが同じような期待を抱く、格好の材料です。こうした市場の動きに影響を受けやすい銘柄こそ、テクニカル分析の当てはまりのいい銘柄です。景気対策によって市場が動いたとき、その動きに素直に追従するような銘柄、ということです。

また、価格が動く前提がなければ予想の意味がないので、常に注目されている銘柄や、その時点で特に注目されている銘柄、あるいは特定の時期には必ず注目される銘柄も、テクニカル分析の当てはまりのいい銘柄になります。

バブル後の株価上昇はこうして作られた

1990年にバブルが崩壊した後、アベノミクスが実行される2013年までの期間、日経平均株価は、戻せば売られる展開を継続し、徐々に下値を掘り下げてきました。

しかし、その間に6度、日経平均株価は値幅と日柄のともなった上昇を経過しています。

  • 1992年8月〜1993年3月(7,087円幅
  • 1993年11月〜1994年6月(5,902円幅)
  • 1995年7月〜1996年6月(8,455円幅)
  • 1998年10月〜2000年4月(8,046円幅)
  • 2003年4月〜2007年2月(10,697円幅)
  • 2008年10月〜2010年4月(4,414円幅)

実は、これらすべての上昇局面で、政府が大規模な経済対策を実行していました。このように多くの市場参加者がはっきりと意識できる材料が出ると、株価を一定の期間、一定の値位置まで引き上げようとする力が働き、それに導かれるようにして株価が形成されていくのです。

仕掛けが作用し、目標となる地点と期間がある──だからこそ価格は似た動きを繰り返し、おかげでテクニカル分析が有効な予想手段となり得るのです。

[執筆者]伊藤智洋
伊藤智洋
[いとう・としひろ]証券会社、商品先物調査会社のテクニカルアナリストを経て、1996年に投資情報サービスを設立。20年以上、毎日の値動きを見続け、相場予測についての記事を執筆。『株価チャートの実戦心理学』『ローソク足チャート 究極の読み方・使い方』『テクニカル指標の読み方・使い方』『勝ち続ける投資家になるための株価予測の技術』など著書多数。現在は、自身が運営する「パワー・トレンド」でも、先物市場や仮想通貨などの情報を動画等で配信中。
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