それでも日本株が「割安」な理由 2つの側面から見えてくる期待とは
日経平均株価は10月末に年初来高値を更新、11月に入ると終値でも23,000台を回復しました。NYダウなどに比べて日本株の戻り基調が鮮明になっている……と言われる一方で、実は「日本株は割安だ」という声も根強くあります。それは一体どういうことなのか──
実は「割安」な日本株
日本株は割安である──日本株の強気派からは、こうした意見が多くなっています。実は日本株は、アメリカ株など他の国の株式に比べると、確かに割安なのです。
日経平均株価をPERで見る
日本株はどれほど割安なのか。まずは、株価の割安・割高を示すPER(株価収益率)で確認してみましょう。
PERは、企業の1株あたり利益(EPS)に対して株価が何倍まで買われているかを示す、いわば株の人気のバロメーターです。倍率が高けれは高いほど人気で買われている、つまり割高であることを表しています。
日経平均株価のPERは、公式サイトである「日経平均プロフィル」で見ることができます。これによると、11月1日(終値)時点のPER(加重平均)は12.95倍となっています。
一方、アメリカ市場の主要指数のひとつであるS&P500のPERは17倍を超えており、日経平均のPERを大きく上回っています。このことから、アメリカ株と比べて日本株は割安だと言うことができます。
PBRで見ると……ほぼ解散価値
あわせて、企業の解散価値を示すPBR(株価純資産倍率)でも見てみます。
PBRは、企業の株主資本(純資産)に対して株価が何倍まで買われているかを表します。倍率が低いほど割安であることを表しており、これが1倍を下回っていれば、すなわち解散価値を下回っている状態ということになります。
同じく「日経平均プロフィル」で日経平均株価のPBRを確認すると、11月1日(終値)時点で1.13倍。ほぼ解散価値に近いと言っていい水準です。株価が20,000円近くまで下げていた8月には、1.01倍にまでなっていた日もあります。
過去には、リーマンショックや東日本大震災などのクラッシュ時、実際に1倍を下回ったこともあり、その水準が相場の底となる局面もありました。
日本株が割安な2つの理由
なぜ日本株は割安なのでしょうか? 2つの理由から考えてみましょう。
日本株は世界景気の敏感株
日本株が割安な理由の1つに、日本株が世界景気の敏感株であるということが挙げられます。
東証1部上場銘柄のうち時価総額と流動性の高い30銘柄で構成される株価指数「TOPIXコア30」には、日本を代表する企業が名を連ねています。
具体的には、日本の主たる製造業であるトヨタ自動車<7203>やホンダ<7267>など自動車メーカー、キヤノン<7751>やソニー<6758>など電機メーカーのほか、三菱商事<8058>などの大手商社、三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>などのメガバンクがそうです。
これらの企業はグローバルに企業活動を行っているため、世界経済の動向に敏感に反応します。
例えば、米中貿易摩擦や中国の成長鈍化などによって輸出が落ち込むと、製造業をはじめとする輸出企業の利益に大きく響きます。あるいは、景気刺激策として各国の中央銀行が政策金利を引き下げると、メガバンクなどの金融株の利益に影響が出ます。その結果として、株価下落につながりがちです。
・日本株が買われにくい背景
IMF(国際通貨基金)は10月に発表した世界経済見通しで、世界経済の成長予測を3.0%に下方修正しました。背景としては、米中を中心とした貿易摩擦の激化や、イギリスの合意なきEU離脱に対する懸念などが挙げられており、依然として下振れリスクが強いとしています。
一方で、失業率が歴史的な低水準となっているアメリカは、内需主導でゆるやかに拡大する経済環境が続いています。
そんな中で日本では、消費税増税もあり、全体として内需の伸び悩みが続いています。一部には業績好調な企業があるものの、日本株全体で見ると、世界景気の変動による輸出企業の業績の上振れ下振れの影響を受けやすい構造になっています。
こうしたことから、世界の景気の先行きが警戒される局面では日本株は買われにくくなっています。
日本企業は資本効率が低い
日本株が割安な理由の2つ目には、欧米に比べて日本企業の資本効率が低いことが挙げられます。
企業の資本効率を示す指標にROE(自己資本利益率)があります。これは、企業の利益を株主のお金である自己資本で割って算出します。例えば、自己資本が100億円で純利益が8億円の企業のROEは8%となります。
ROEの数値が高いことは、株主のお金を効率的に使って利益をあげている、ということを意味します。株主からすれば、広い意味では出資したお金に対しての利回りとなるため、ROEが高いほうが魅力的な投資先だと言うこともできます。
そんなROEですが、日本株の平均がおよそ8〜9%であるのに対して、欧米の主要企業では10〜20%となっており、大きな差がついています。
・攻めより守りの日本型経営
なぜこのようにROEの差がついているのでしょうか? いくつかの理由が考えられますが、日本企業ではこれまで資本の効率性について意見されることがほとんどなかった、というのも理由の1つです。
旧来、日本では企業同士による株の持ち合いや銀行による株式取得が多く、そのため、株主から資本効率を問われるようなことはありませんでした。つまり、いわゆる「モノ言う株主」の比率が少なかったということです。
また、欧米企業の経営者は、経営のプロとして迎え入れられており、高額の報酬と引き換えに、結果が出なければドライに契約を切られる関係です。一方、日本企業では、新卒で入社して社内で出世を続けて最終的に社長になる……といったサラリーマン型の経営者も多いです。
サラリーマン経営者からすると、リスクを取って投資を行い利益を伸ばしにいくよりも、利益が出ても内部留保を多めにして、冒険をせずに任期を無事に勤めあげたほうが生涯賃金が高くなることが多いため、攻める経営よりも守りを重視した経営になりやすいのです。
ただし、このような流れも昨今ではかなり変わりつつあります。メガバンクや企業同士による株式の持ち合いは、資本の有効活用を求める株主の圧力により解消の方向に向かっています。また、外国人持ち株比率も上がり、株主の発言力は以前と比べて強くなってきています。
「割高」は「割安」
日本株が割安と言われる理由について、日本株が世界景気に敏感であることと、企業の資本効率の悪いという2つの側面から見てきました。裏を返してみれば、世界景気に回復の兆しが見えてきた局面や、今後ますます資本効率の改善が進んでいけば、反対に日本株は買われやすくなる、ということにもなります。
いずれにせよ、株式に値が付く、つまり取引が成立するということは、その銘柄は割高だと思う人が売って、割安だと思う人が買うからです。両者の意見があって初めて取引は成立します。
言い方を変えれば、自分にとっての「割高」は誰かにとっての「割安」ということ。
これは相場全体だけなく、個別銘柄にもそのまま当てはまります。年初来高値を更新しているから割高感がある、という意見の反対側には、指標面や業績から割安だと判断して買っている投資家がいるのです。