なぜ株価を比べても意味がないのか? 時価総額から見えてくる意外な事実とは
株価を比べても意味がない?
株式投資に関する記事を読んでいると、「この企業の時価総額は○億円だが……」といった表現をよく見かけます。
この「時価総額」とは、現在の株価に発行済株式数をかけて求められる数値で、企業の価値を評価する際の重要な指標のひとつです。
- 時価総額=株価×発行済株式数
テクニカル分析に基づく短期トレードでは、株価水準を考慮することが大切です。
一方で、ファンダメンタルズ分析に基づく投資を行う際には、株価だけでなく、時価総額を頭に入れておくことが重要になります。なぜなら、時価総額を比べることで、銘柄間の比較が容易にできるようになるからです。
そもそも、発行済株式数が違う銘柄同士の「株価」を比べても、何の意味もありません。大量に出回っている商品とわずかの数しか存在しない商品とでは、その価値(と価格)に差が生じるのは当然のこと。
株式投資を始めたばかりの頃は、どうしても株価に気をとられるあまり、株価だけで銘柄についての判断を下してしまいがちです。さらに、その株価という数字だけで企業同士を単純比較する人も稀にいますが、それはナンセンスと言わざるを得ません。
(参考)「投資」と「トレード」は別物 株の勉強をする前に知っておくべき大事なこと
時価総額から何がわかるのか?
では、時価総額を比較すると何がわかるのでしょうか?
わかりやすい例として、自動車メーカー各社の時価総額を比べてみましょう(2022年8月15日終値ベース。以下すべて同じ)。
業界内の「横比較」ができる
トヨタ自動車<7203>がトップメーカーであることは誰もが知っているでしょうが、こうして比べてみると、2位のホンダ(本田技研工業<7267>)の5倍以上の時価総額(約35兆円)をもつ圧倒的な存在であることが一目瞭然です。
一方で、3位のスズキ<7269>と4位の日産自動車<7201>は、株価だけを見るとスズキが日産に9倍もの差をつけていますが、反対に発行済株式数は日産のほうが大幅に多いため、時価総額はほぼ同等。したがって、企業価値もほぼ同等だと見ることができます。
このように時価総額で比較してみると、売上高や営業利益などから漠然と抱いていた企業(銘柄)のイメージや業界内の序列のようなものと、実際の企業価値(=時価総額)の間には、かなりの乖離があると感じた人も多いのではないでしょうか。
さらに、ここに自動車の部品メーカーを加えると、また新たな事実を発見することができます。
デンソー<6902>はトヨタ・ホンダに次ぐ時価総額をもち、アイシン精機<7259>もマツダや三菱より上位になります。消費者からは直接目につきにくい部品メーカーが、実は非常に大きな存在感を持っていることが、時価総額を比べることでよくわかるのです。
また、「3大メガバンク」という言い方をされることから、3強が並び立っているようなイメージのある大手銀行についても、時価総額を比べると以下のようになります。
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>……9,646,713,055,656円
- 三井住友フィナンシャルグループ<8316>…………5,699,469,690,324円
- みずほフィナンシャルグループ<8411>……………4,018,362,957,255円
業界内での「横比較」に、時価総額が非常に有用であることがおわかりいただけたのではないでしょうか。なぜ、時価総額に差があるのか? それは正当な差なのか? そうしたことを考えていけば、その業界に対する理解度が深まることは間違いないでしょう。
「国際間比較」も容易にできる
時価総額のもうひとつのメリットとして、企業の国際間比較が同じ尺度で容易にできる、という点が挙げられます。
たとえば、ソニーグループ<6758>とアップル<AAPL>では、いまや時価総額で25倍以上もの差がついてしまっていることがわかります。
- ソニーグループ<6758>…… 14,609,632,432,885円
- アップル<AAPL>……………368,943,511,215,603円
(8/12終値ベース:2,765,776,419,200ドル。1ドル=133円で計算)
ここでは円換算しているので、現在の円安の影響も当然ありますが、それでもソニーは、日本国内では時価総額2位の存在です。
同様に、日本企業トップの座を守り続けるトヨタも、アメリカの電気自動車メーカー・テスラ<TSLA>と比較すると、3分の1以下の時価総額しかありません。
- トヨタ自動車<7203>…… 34,791,710,758,450円
- テスラ<TSLA>……………125,374,055,609,725円(同:940,135,017,601ドル)
ソニーやトヨタに限らず、同業の有名企業同士を比べてみると、日本企業の時価総額はアメリカ企業に比べてはるかに小さいケースが多いことがわかります。ぜひ一度、調べてみることをおすすめします。
時価総額を利用する際の注意点
株式投資をする際に押さえておくべき基本的な情報であり、活用することで様々なメリットもある時価総額ですが、いくつか注意が必要です。
・新株発行に注意
ひとつは、資金調達のための新株発行による影響がある点です。
時価総額は、株価と発行済株式数のかけ算です。そのため、ある銘柄の時価総額が過去と比較して増えていた場合、新株を大量に発行したことが要因かもしれないのです。
そもそも、過去のある時点での時価総額を調べること自体が難しいので、それほど心配する必要はないのですが、もしこのようなケースがあったら、その期間内に新株発行がなかったかどうかを確認したほうがいいでしょう。
いずれにせよ、ひとつの銘柄について時系列で比較する際には、株価の変動を見るほうが適しています。
・優先株等に注意
もうひとつの注意点は、優先株や他の種類株など、普通株以外の株式が発行されているケースです。
「時価総額」と言った場合、普通株の時価総額を指すのが一般的ですし、ヤフーファイナンスなどで表示されている時価総額も、この数値です。しかし、優先株等が発行されている企業については、その分も時価総額に足さないと、普通株しか発行していない企業と同条件での比較はできません。
優先株とは、配当を普通株より優先して受けられるなどの権利をもつ株式です(その代わり、議決権に制限があることが多い)。
優先株を発行している企業は多くはありませんが、自己資本を発行済株式数で割っても1株当たり純資産の数字と一致しない場合には、優先株を発行していないかどうか調べてみる必要があります。
時価総額はファンダメンタルズ投資の基本
時価総額の理解は、ファンダメンタルズ分析に基づく投資をする上で基本的、かつ非常に重要なことです。
マーケットでついている株価が常に正しいとは限りません。したがって、それをもとに計算される時価総額も、企業価値を正確に表しているかと言えば、必ずしもそうとは言えない場合もあります。
ただ、そうであっても、企業価値を計る物差しとして、時価総額以上に適切なものが存在しないこともまた事実なのです。
時価総額を意識して銘柄を見ていくことで、対象企業の評価の相対化が可能になります。また、その企業の属する業界を深く知ることにもつながります。