自己資本比率が高い銘柄の落とし穴と、知っておきたい正しい使い方

山本 勧
2019年8月28日 8時00分

銘柄選びのよりどころとなる指標には、実に様々な種類がありますが、たったひとつの指標だけで判断を下すことは非常に危険です。それは「自己資本比率」についても言えること。高ければ高いほど良さそうに思えますが、そこには意外な落とし穴が潜んでいるのです。

自己資本比率からわかること

会社経営が安定しているかどうかのひとつの指標となる自己資本比率。企業としては低いよりも高い方がいいわけですが、高ければ絶対に「いい銘柄」だというわけでもありません。基本的な知識と、自己資本比率が高い会社=よい銘柄とは限らない理由について解説します。

そもそも自己資本比率とは

自己資本とは、銀行などの金融機関に返済する必要がない、自社が持つお金のことを言います。言葉どおり「自分の資本」というわけです。反対に、借入金など返済をしないといけないお金は「他人資本」と言います。

企業の自己資本比率とは、総資産に対する自己資本の割合を指します。数式で表すと以下のようになります。

自己資本比率(%)={自己資本÷総資本(自己資本+他人資本)}×100

例えば自己資本10億円、他人資本5億円の企業であれば、{10億円÷15億円(10億円+5億円)}×100で自己資本比率は66%ということになります。

自己資本比率で見る危ない銘柄・安全な銘柄

決算書では預貯金に余裕があるように見えても、その大半を銀行からの借入金に頼っている場合は、当然、自己資本比率は低くなります。そして、危ない銘柄、つまり倒産しそうな会社とは、自己資本比率が低い企業です。

一般的に、自己資本比率が0%以下の場合、倒産する可能性が高いといわれています。資金のほとんどを銀行などからの借入金に頼っている状態ですから、返済することで精いっぱいとなり、内部留保ができず、不測の事態に対応できないからです。

反対に、自己資本比率が40%以上なら倒産する可能性は低いといわれます。また、自己資本比率が60%以上であれば、他人資本は40%ということであり、たとえ全額を返済することになっても会社にお金が残ります。そのため、60%以上であればより安全な銘柄だという見方ができるでしょう。

自己資本比率が高い企業の真相

では、自己資本比率が高ければ高いほどいいのでしょうか? 実はそうともいえないのです。

自己資本比率が高い=成長速度が遅い

例えば、自己資本比率100%ということは無借金経営ですので、たしかに倒産のリスクはほとんどないでしょう。しかし、企業の成長速度も遅くなる可能性があります。

自己資本が1億円で、毎年7%の利益を出している企業があるとします。毎年の利益は700万円(1億円×7%)です。利益率7%というのは成長性があるといえますが、一方で、自己資本がいきなり倍になることは難しく、その意味でいうと、この利益はこれ以上は増えないと見込まれます。

では、この企業が銀行から借り入れをするとどうなるでしょうか。

自己資本1億円に加えて、銀行から1億円を借り入れることにより、総資本は2億円となります。利益率が7%のままだとすると、利益は1400万円になります。もちろん借り入れには利息がありますが、年利2%で借りることができれば、1200万円の利益が出ます。

競争社会において企業の成長速度は重要です。利息を支払ってでも、それ以上に成長する可能性があるのであれば、銀行からの借り入れも悪いわけではないということです。

自己資本比率が高い=倒産する可能性がないわけではない

その一方で、企業が倒産するときはアッという間です。自己資本比率が60%以上の会社でも、不祥事を起こして取引先がなくなってしまえば、倒産するおそれが非常に高くなります。特に他人資本に頼らずにきた場合、ゼロから銀行と取引する必要があり、審査に時間がかかることも考えられます。

自己資本比率が低い=除外するのはもったいない

そうはいっても、何でもかんでも借入金に頼ればいいのかといえば、当然そうではありません。借り入れをすれば、利息と元金の返済が待っています。売上が落ちてしまえば、途端に経営を圧迫するでしょう。

自己資本比率の低い企業に投資をする場合には、企業の成長度合いも確かめる必要があります。しかし、自己資本比率が低いという理由だけで検討対象から外すのはもったいないことです。実際、多くの有名企業が、他人資本を上手に使うことにで急成長を遂げてきました。

一番いいのは最初から資金に余裕があることですが、そういう企業は少ないのも事実です。自己資本比率が低い企業を見る際には、同業種の企業の自己資本比率や業界の特徴、将来性などもあわせて検討したほうがいいでしょう。

で、自己資本比率の目安は?

結局のところ、自己資本比率はいくらであればいいのでしょうか。一般的な目安として40%以上という数字がもてはやされたり、投資の本などでは「自己資本比率○%以上の企業に投資すべき」といった記述をよく見かけたりもしますが、これらの数字に騙されてはいけません。

40%にせよ、60%にせよ、数字はあくまでも目安であって、これだけで判断して利益を出せるのであれば、ほとんどの投資家が儲かっているでしょう。自己資本比率に限らず、目安はあくまでも目安と割り切って、数字に踊らされないように心がけたいものです。

[執筆者]山本 勧
山本 勧
[やまもと・すすむ]不動産投資会社、会計事務所を経て独立。ファイナンシャル・プランナーとして、単にプランを作るだけでなく、具体的にどう生活すればいいかといったアドバイスを積極的に行う。個人投資家としては、生活を豊かにするため投資を実践。「お金がお金を生むシステム」をいかに早く作るかが生活を楽にする一番の近道と考え、余剰資金は基本的に投資に回している。ファイナンシャル・プランナー(AFP)、宅地建物取引主任士。ホームページ:てんせんまる
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