暴落の予兆?  「炭鉱のカナリア」と呼ばれるジャンク債(ハイイールド債)の実態

山下耕太郎
2024年7月20日 10時00分

ジャンク債ハイイールド債)は、その名のとおり、高い利回りを狙える債券です。高い利回りには、当然ながらリスクが伴います。そんなジャンク債の特徴とリスクについて解説します。

ジャンク債(ハイイールド債)の魅力とリスク

企業や国が発行する「債券」は信用格付け会社によって評価されます。その評価が「投資適格」とされるBBB格(S&P基準)よりも低い、BB格以下のランクの債券が「ジャンク債」です。

言い換えると、ジャンク債とは発行体の信用力が低い(=発行体の信用リスクが高い)債券のことを意味し、このことから「投機的格付け債」や「ハイイールド債」とも呼ばれます。

そして、格付けが低いほど利回りは高くなります。もし金融市場が安定し、発行体の財務状況が悪化しなければ、投資期間中に比較的高く安定したリターン(利子)が得られます。このようなハイイールド債はアメリカで発展し、現在では欧州やアジア、南米などの新興国でも発行されています。

(参照)S&Pの格付け定義等 – S&Pグローバル・レーティング・ジャパン

ジャンク債の最大の魅力は、高い利回りにあります。この高い利回りは、発行体の倒産リスクに対する補償として設定されており、投資家は高い利回りを求めてジャンク債を購入します。それと同時に、発行体がデフォルト(債務不履行)に陥るリスクを負うことになります。

経済が好調な時期には、ジャンク債は多くの投資家にとって魅力的な投資対象です。経済が拡大する局面では企業の業績が向上し、債務返済能力が高まるため、デフォルトリスクが低くなるからです。

しかし、経済が悪化する局面では、発行体が債務を返済できなくなる可能性が高まり、投資家は元本を失うリスクが増大します。

ジャンク債への投資は、通常時は妙味が薄いとされます。確かに高利回りは期待できますが、コストが高めで、投資家にとって不利な場合も多いからです。また、ジャンク債は市況が悪化すると価格が大幅に下落する傾向があります。

このようにリスクの高いジャンク債への投資は、価格が大きく下落し、利回りが上昇した千載一遇のチャンスを待つべきだとされています。

ジャンク債をめぐる現状

今年5月、アメリカのジャンク債市場にリスクマネーが流入しました。アメリカ経済が軟着陸するとの期待から、リスクを取る動きが広がったためです。ジャンク債の信用スプレッド(米国債の上乗せ金利)は2年半ぶりの低水準まで縮小しました。

ジャンク債は、満期まで持てば高い利回りを確保できます。利上げによる利回り高止まりやデフォルトリスクの低下もあって、投資妙味が大きくなったのです。

さらに、今後はFRBが利下げするとキャピタルゲイン(値上がり益)も期待できます。政策金利が低下すれば、社債の価格には上昇圧力がかかるからです。

しかしながら、アメリカでは倒産件数が前年比で増加しており、ジャンク債市場の過熱感や小規模企業の倒産増加によるデフォルトリスクの波及も懸念されています。さらには、中東における地政学的リスクの高まりも、原油価格の上昇を通じてアメリカ経済に悪影響を与える可能性があります。

ジャンク債は「炭鉱のカナリア」?

かつて炭鉱で働く労働者たちは、カナリアを連れて坑道に入りました。カナリアは人間よりも有毒ガスを感知する能力が高いため、危険をいち早く知らせる役割を果たしていたのです。

ジャンク債市場も、株式市場の暴落を予知する「炭鉱のカナリア」として知られています。

これは、利回りを求める投資家が最終的に優良とは言えないジャンク債に手を出すためです。ジャンク債はリスクに敏感なため、株よりも先に売られるケースが多く、そのため株より早く価格が下がる傾向があります。

その結果、ジャンク債市場が下落し始めると、株式市場全体の下落が近い可能性が高いと予想されるのです。

新興国債券への注目が集まる

いま、債券への注目が高まっています。世界的にインフレが進み、多くの国で景気減速が懸念される中、次の一手は利下げと見られているからです。利下げは、債券投資の好機となります。

特に、メキシコ、ブラジル、インドなどの新興国債券が注目されています。これらの国々は先進国に先行して利上げを開始し、インフレ抑制と景気堅調の両立を目指しているからです。そして、新興国債券には、格付けが低く、ジャンク債にあたるものが多くあります。

ただ、メキシコでは6月に大統領・議会選で与党が予想外の大勝を収めて以来、通貨ペソは7%近く下落しました。改革により経済への介入が強まり、権力のチェックが弱まるとの懸念が嫌気されています。ペソはわずか1週間で、今年の騰落率が最悪の水準に転落しました。

新興国のジャンク債は高利回りを追求する投資家にとって魅力的な選択肢ですが、為替リスクやデフォルトリスクが高い点には注意が必要です。慎重なリスク管理とタイミングを見極めることが成功の鍵となります。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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