株式市況を伝え続けて40年 名物アナが語る「相場が静まり返った日」と証券会社の活用法

千葉 明
2023年6月23日 12時00分

Rethea B/peopleimages.com / Adobe Stock

《東京証券取引所が立つ日本橋・兜町。かつての活気は、もうない。だがそこは紛れもなく、日本の株式取引の中心地だった。兜町を見つめ続けた記者が綴る【兜町今昔ものがたり】》

いつも兜町に流れていた声

 私が日本短波放送(現・ラジオNIKKEI)に兜倶楽部記者として身を置いていた時代。兜町にはいまの証券会社ではお目にかかれない、独特な光景があった。

 兜町に軒を連ねる証券会社の本・支店の店内には、市況放送(株価読み放送)が流れていた。刻一刻の市場動向、そして銘柄動向が伝えられていた。声の主は、日本短波放送のアナウンサー、星野明康氏。1962年の入社以来、2000年(現在の新たな東証に衣替えしたタイミング)の定年退職時まで、40年近くにわたり市況を伝え続けた。

 私も、記者クラブで取材した企業のニュースや、証券会社から受けたレクチャーを基にした相場関連ニュースを、番組内で喋る機会があった。アナウンサーではないが、マイクに向かうために「あ、え、い、う、え、お、あ、お」を繰り返すアナウンス独特の訓練を、大引け後に日々受けた。その際の師匠が星野氏であった。

 ブース(放送室)は東証の2階にあった。眼下の取引場を見下ろすロケーションだ。取引場を挟み真向かいには、相場関連ニュースを配信する時事通信の放送室があった。1972年に株価表示が機械化されてからはブースは3階に移ったが、機械化以前は労働集約型の放送体制で行われていた。

 短波と時事の2カ所の放送室を繋ぐ廊下には、立ち合い場を挟む形で短波放送の複数の女性スタッフが陣取った。マイク付きヘッドフォンをかぶり、手には双眼鏡を持ち、高めの椅子に座って構えている。真向かいにある担当銘柄の値動きを刻々、放送室の星野氏に伝えるためだ。「これは」という動きは星野氏が選別し、アナウンスする。

 星野氏は自らも双眼鏡で立ち合い場をチェックし、場味、値動きが目立つ銘柄状況をアナウンスしていた。

あの日、相場は静まり返った

 そんな星野氏は「目を瞑っていても、上っている相場なのか下がっている相場なのかは分かる」という。秘密は「音」。

「上がってくる時には場立ちの拍手が湧く。下がる時には床をドンドンと踏み鳴らす、ゴーッという音がする。場立ちは人を押しのけても注文を早く出し成約させるのが使命だから、体力勝負。ぶつかり合いの音もする。そう、ラグビーのフォワードがスクラムを組む時に体と体がぶつかり合う時の音がね」。なんとも懐かしい。

 兜倶楽部、そして短波放送を離れてからも、星野氏からは兜町の色々を教わった。

 例えば1987年10月19日のブラックマンデー。双子の赤字、ドル安に伴うインフレ懸念からニューヨークのダウ平均株価は1日だけで508ドル、23%近くも下落した。「翌日の東京市場は軒並み売り気配。あの時だけは、床を踏み鳴らす音さえ全くなし。あんなシーンと静まり返った相場は、後にも先にも初めての体験だった」

 食事をしながら「僕の宝物を知っている?」と聞かれたことがある。黙っていると、大切そうに縦長財布にしまい持っていた一枚の便箋を取り出した。読めない。点字だった。星野氏に届いた礼状だという。

「ニホンセイコーとアナウンスしても、日本製鋼なら『アーム』、日本精工なら『コメコウ』と兜町では呼ぶよね。『よく分からないのでニックネームと会社名の両方を一緒に読んでほしい』という連絡をもらったんだ。ハッとしたよ。当然だと思ったから、翌日からそうした。そうしたら、この礼状が届いたんだ」

証券会社は役に立つ

 こんなアドバイスをもらったこともある。「株とか企業関連の記事を書くなら、証券会社は役立つはずだよ」と。爾来、情報収集では、つかず離れずの証券会社との関係を活かしてきた。例えば「5期以上連続営業増益のジャスダック(現・グロース)市場の銘柄リストを作ってよ」といった具合に。

 だが最近は、証券会社の競争も激化している。差別化策として、多くの証券会社が情報を企画化して配信している。口座開設者向けが原則だが、興味深い情報を確認することができる。

 例えば、某ネット証券の「円安メリットを受けやすい好業績銘柄」という情報。銘柄一覧にはダイキン工業<6367>や東京エレクトロン<8035>をはじめ15銘柄が列記されていた。単に企業名だけでなく、「海外売上高比率(今期予想)」「過去10期の増収・営業増益回数」もある。そこから選択して決算資料などを当たれば、1000文字ほどの記事が書けてしまう。

 ふと、ストイックな星野氏の顔を久方ぶりに見たくなった。「声によくないから」と入社時に禁煙。「好きだから量を飲みがち」という酒は「土曜日の夜だけ」と決めていた、そんな大先輩の顔を。

[執筆者]千葉 明
[ちば・あきら]東京証券取引所の記者クラブ(通称・兜倶楽部)の詰め記者を振り出しに、40年以上にわたり、経済・金融・ビジネスの現場を取材。現在は執筆活動のほか、講演活動も精力的に行う。『野村證券・企業部』『ザ・ノンバンク』『円闘』など著書多数。
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