外国人持ち株比率から「次に買うべき銘柄」を探してみる

千葉 明
2024年7月16日 12時00分

《東京証券取引所が立つ日本橋・兜町。かつての活気は、もうない。だがそこは紛れもなく、日本の株式取引の中心地だった。兜町を見つめ続けた記者が綴る【兜町今昔ものがたり】》

海外投資家の物色を四季報から探す

 東洋経済新報社刊の『会社四季報』は、株式投資を志向する者は脇に必ず携えておくべきだと私は思う。かつて大手経済紙誌も参入を試みたことがある。が、短期間で退散した。それだけ活用に値する。

 個々の企業情報もさることながら、私は、毎号の巻頭特集を興味をもってウオッチしている。最新版(2024年3集・夏号)の巻頭特集では、「外国人持ち株比率/5年前比向上度ランキング」に注目した。

「投資家主体別売買動向」からも明らかなように、ここ数年来の日本株市場の主役が海外投資家(外国人投資家)であることは周知のとおり。今年5月の1か月で見ると、売り越しが生損保:1246億円、個人:4420億円に対し、海外勢の買い越し額は2500億円。

 私は兜町の取材を長らく続けてきたなかで、海外投資家が食指を動かす銘柄の条件を、こんな風に認識している。

(Ⅰ)生保や銀行などに代表される機関投資家が、積極的に取り組める銘柄。機関投資家は投資対象と中長期スタンスで臨む。そして、自らの買いが「株価の押し上げ要因にならない」ことを大前提としている。言い換えれば、具体的には時価総額5000億円以上の大型株が主体になる

(ⅠI)個人投資家にも容易に手が出せる銘柄。ざっくり言えば、自己資金50万円以内で買える銘柄

(ⅠII)少なくとも過去2〜3期は「好業績・好配当」を続けている銘柄。かつ過去10年近くの(分割や自社株償却等を勘案した)修正済み株価パフォーマンスが、「中長期投資も可能」と示している銘柄

(Ⅳ)外国人持ち株比率がすでに10%を超えている銘柄

(Ⅴ)株価に出遅れ感を覚える銘柄。具体的には時価のPERが15倍前後と、買われ過ぎていない銘柄。直近の高値から10~20%調整している株価水準の銘柄

 前述の四季報の特集では、以下がベスト10位にランキングされている。それぞれ銘柄名に続く数字は、2024年3月期末の外国人持ち株比率(カッコ内は5年前との比較)。

  • ミスミグループ本社<9962> 63.0%(2.8ポイント)
  • ソニーグループ<6758>   58.5%(2.5ポイント)
  • トプコン<7732>      55.2%(9ポイント)
  • サンケン電気<6707>    54.8%(9.3ポイント)
  • SMC<6273>       53.8%(3.8ポイント)
  • 富士通<6702>       52.3%(5.2ポイント)
  • 栗田工業<6370>      51.6%(5.7ポイント)
  • 日立製作所<6501>     50.9%(7.7ポイント)
  • シマノ<7309>       50.5%(9.2ポイント) ※2023年12月期末
  • 参天製薬<4536>      50.3%(3.5ポイント)
  • 三井不動産<8801>     50.3%(2.4ポイント)

 念のためお断りしておくが、ここの記した銘柄を「投資対象の俎上に」という意味ではない。あくまでも「四季報の活用法」の一例と受け止めていただきたい。

三井不動産を買う理由を考える

 ランキング入りしている企業から、三井不動産を取り上げてみる。第10位は不動産株にあっては最上位に位置し、大手総合不動産の双璧とされる三菱地所<8802>(43.4%/0.6ポイント)よりも海外投資家からの人気が高い。

 上で紹介した、私が「海外投資家が食指を動かす銘柄の条件」と認識する要因と比較してみた(数字は本稿作成時点)。

(Ⅰ)時価総額:4兆1246億円

(Ⅱ)単元株投資資金:14万7000円

(Ⅲ)2022年3月期:4.6%増収、20.2%営業増益、55円配当(5.2円増配)/2023年3月期:8.0%増収、24.7%営業増益、62円配当(7円増配)/2024年3月期:5.0%増収、11.2%営業増益、84円配当(16円増配)/2025年3月期計画:9.1%増収(2兆6000億円)、0.1%営業増益(3400億円。連続最高益更新見通し)、30円配当(4月1日付で1対3の株式分割を実施したため実質90円配当)

(Ⅳ)2024年3月期末時点で50.9%(5年前比3ポイント増)

(Ⅴ)時価1470円、税引き後の予想配当利回り1.63%。年初来高値1710円(3月29日)から14%あまり下値水準にある。予想PER:17.43倍。過去9年半余の修正済み株価パフォーマンスは37%

 合致している。ただ、認識に合致するだけでは海外投資家が今後とも継続してウオッチし続けるという保証にはならない。先述した「収益・配当動向」と並行して、それを裏付けるだけの方向性が求められる。

 三井不動産は、こんな中長期計画を掲げている。2026年度までに「EPS成長率:年間8%以上。ROE:8.5%以上。総還元性向:毎期50%以上の累進配当制導入。配当性向:35%程度」。2030年度前後までに「EPS成長率:年間8%以上。ROE10%以上」。

 そうした計画を発信する以上は、コアとなる事業の先行きに説得力が不可欠。アナリストの間では、「総事業費9000億円ともされる、東京・築地の再開発事業予定者に指定されたというのは好材料」とする見方が強い。

当たり屋か、曲がり屋か

 株式投資には実に多様な手法や考え方があるが、このように外国人持ち株比率の高い企業に着目し、投資対象の俎上銘柄として検討してみるのもするのも一法ではないか。今や日本株市場の主役である海外勢の動きに従うのは、決して悪手ではないだろう。

 とはいえ、「当たり屋につけ」の投資法は、兜町の歴史が教えてくれているように、いつ「曲がり屋に向かえ」と一変するかもしれない。投資の自己責任を果たす方法を見出すことが肝要と言える。

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[執筆者]千葉 明
千葉 明
[ちば・あきら]東京証券取引所の記者クラブ(通称・兜倶楽部)の詰め記者を振り出しに、40年以上にわたり、経済・金融・ビジネスの現場を取材。現在は執筆活動のほか、講演活動も精力的に行う。『野村證券・企業部』『ザ・ノンバンク』『円闘』など著書多数。
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