値動きの激しい「小型成長株」との上手な付き合い方 株価よりも見るべきものとは
大化けするかも……という期待を抱かせてくれる一方で、日々の株価の乱高下に一喜一憂しがちな「小型成長株」。実は、アナリストにとっても厄介な存在だそうです。どのように付き合うのが得策なのでしょうか。
魅力的だが悩ましくもある「小型成長株」
個人投資家に人気の小型成長株。主にマザーズ市場などに上場しており、規模がそれなりに大きくなると東証1部に市場変更する銘柄も多い。
小型成長株は会社の規模が小さいために機関投資家の投資対象候補から外れることで、株価が洗練された目で評価されることが少なかったり、流動性(日々の出来高)が低かったりするなどして、時に株価は短期間で大きく上下する。
短期的に株を売買するトレーダーにとっては欠かせない銘柄群だが、さほど頻繁に株式市場をチェックできない、または長期的にじっくり資産を形成したい投資家にとっては、そうした特性が悩みの種になってしまうことも多い。
株価の日々の値動きの激しさは「ボラティリティー」という言葉で表現されるが、このボラティリティーに振り回されないためには「株価よりも会社を見る」というのがひとつのポイントになる。
機関投資家の〝都合〟を知る
株価のボラティリティーが上がってしまう原因はたくさんあるが、小型成長株の場合はやはり「長期投資をする機関投資家の不在」が大きい。
信託銀行や投資信託といった機関投資家は、リスクテイクに関して様々なルールを設けている。運用会社によって微妙に違いはあるものの、おおまかにいえば次のようになる。
- 業績規模(売上高や利益)が小さい
- 時価総額が小さい(500~1000億円未満)
- 流動性(日々の出来高)が低い
といった特徴を持つ銘柄には、機関投資家はなかなか手が出しづらい。そのほか、小型成長株には配当金を支払う段階でない銘柄も多く、投資収益の不確実性が高いという点で機関投資家から敬遠されることもある。
なかには、こうしたリスクを積極的に取ろうとする機関投資家もいなくはないが、数が非常に少ないので、ボラティリティーの低下にはつながりにくい。
「株価を見ずに会社を見る」
こうした都合により、長期投資をする機関投資家は小型成長株に投資しづらく、結果として、市場で目安の株価が定まらないまま短期売買が盛んに行われるなどして、株価のボラティリティーは上昇してしまう。
しかし裏を返せば、時間と共に会社が成長し、売上高・利益の規模が一定水準を超えたときには機関投資家が参入してくる、ということだ。
・ロコンド<3558>の場合
一例として、靴中心の通販サイトを運営するロコンド<3558>を紹介したい。同社は2017年3月にマザーズ市場に上場した。2017年2月期の売上高は30億円足らず、営業利益は黒字になったばかりだった。
ただ、業績の伸びは目覚ましく、2019年2月期の売上高は、上場当時の倍以上となる67億円にまで増えた。先行投資のフェーズとあって営業損益は今なお赤字なものの、売上高の力強い伸びにより、小型成長株と分類されることが多い。
(Chart by TradingView)
ポイントは、売上高規模の拡大に伴った機関投資家の参入だ。スコットランドの海外機関投資家で、日本の企業への投資も積極的に行っているベイリー・ギフォード・アンド・カンパニーが2017年12月、ロコンドの発行済み株式の約7%を取得した。
場合によっては持ち株を売ることも当然あるのが機関投資家だが、その後もベイリー・ギフォードは株式を買い増しし、2019年3月には約12%まで増やしている。
前述したように、成長性の高い事業を展開している企業は業績規模が拡大するにつれ、機関投資家に株式を保有されることが増えてくる。そして、機関投資家が多く保有してくるということは、株価が割安であれば買われ、割高であれば売られる、という価格の調整機能が株式市場で効いてくる。
これが、投資家の悩みの種となるボラティリティーの高さを徐々に軽減させてくるのだ。
あえて株価を無視するという戦略
ロコンドの場合、残念ながら上場時から現在に至るまで株価の値動きは激しいままで、ボラティリティーが低下しつつあるという事例ではないのだが、今後さらに売上高が伸びれば投資する機関投資家も増え、より長期投資家向きの株価の動きを見せると考えられる。
これらを踏まえると、小型成長株に投資したい投資家にとっては、機関投資家が参入してくるステージに達するまでは、株価のチェックも月1程度に抑えるなどして、あえて日々の値動きを無視してみるのも賢明な策だと思われる。
その一方で、四半期決算や月次売上高といった業績はもちろん、事業の見通しなどにも注意を払い、「この会社は、機関投資家が重視する長期的成長性という点で、魅力を維持できているか?」という点を意識することが重要になってくるだろう。
アナリストのひとり言
証券会社に属するセルサイドのアナリストとしては、小型成長株のレポートはかなり書きづらいときがある。その原因は、やはりボラティリティーの高さだ。
基本的に、機関投資家の視野に入っていない銘柄を証券会社のリサーチ部門がカバーするのは効果的でない。なぜなら、機関投資家によるボリュームのある売買が少なく、営業部門の手数料収入につながりにくいからだ。
しかしながら、IPOする際に主幹事を務めたなどの理由をもつ証券会社にとっては、取引関係の維持・強化といった名目でカバーせざるを得ないケースもあるのだ。
仕方なく、長期機関投資家のようにファンダメンタルズ目線で目標株価を公表することになるのだが、これが非常に当たりづらいうえ、実際の株価との乖離も非常に大きくなることがある。
理論的には1,000~2,000円が目安と考えられても、現実の株式市場では5,000円、時には10,000円をつけてしまうことだってある。その際には、さほど手数料収入に結びつかないレポートの加筆・修正に時間と労力を割かなくてはならない。
まさに、アナリスト泣かせな銘柄なのである。