株で絶対に儲かる方法はあるのか? あの必勝法を実践してわかったこと
映画や小説でよく描かれる一攫千金のサクセスストーリー。あわよくば自分も……と思ってしまうのが人間というものですが、果たして、株の世界に「必勝法」などあるのでしょうか? 「絶対に勝てる」と言われる手法を試した筆者が痛感したこととは──
目指すは一攫千金!
全米の投資家を驚愕させたHFT(高頻度取引)の内幕を描いた映画「ハミングバード・プロジェクト」(2019年9月27日公開)。主人公たちは、金融取引の情報が発信されるカンザス州のデータセンターとニューヨーク証券取引所を結ぶ1,600kmに高速光ファイバーを敷設することで一攫千金を目論む。
なぜ高速回線を敷設すると大儲けになるのか? そもそも投資の世界に「絶対大儲け」はあるのか? そんな疑問を払拭すべく、投資家向けに開催された特別上映会&セミナーに潜入した。
[映画の詳細はこちらを参照]
高速回線がなぜ「大儲け」になるのか
まず、この映画で主人公たちはなぜ高速回線にこだわったのか。
アメリカのトレーダーたちは、金融の中心地であるシカゴの取引が発信されるカンザス州のデータセンターの情報をもとに、ニューヨーク証券取引所に株式の売買注文を入れる。もちろん、全トレーダーがそうするわけではないが、シカゴの情報は多くのトレーダーがチェックする貴重な共通情報らしい。
日本にも「四季報相場」と呼ばれるものがある。東洋経済新報社が四半期に一度発行している全上場会社の情報を載せた雑誌『会社四季報』は、多くの投資家・トレーダーに読まれている。そのため、目新しい情報や意外な話題が掲載されると、それによって相場が大きく動くことがあるのだ。
株価は集団心理で動く。多くの人間が「これは買いだ(売りだ)」と思ったときこそ、株価が大きく動く瞬間であり、儲けるチャンスの到来と言える。
しかし、少しでも後れを取ってしまえば、あっという間に株価は吊り上がる。株価1,000円のA株に10万人が殺到した場合、最初の人は1,000円で買えるだろうが、買い注文にもたついているうちに1,500円まで上がっているかもしれない。1,000円で買えた人は、その時点で500円の差益を獲得できる。
理論上は確かに納得できるものの……
主人公たちが目指したのも、この「一番乗り」になることだ。そこで彼らが選択したのは、有線ケーブルを地下に埋め込んで、物理的にカンザス~ニューヨーク間をつなぐという、ものすごく手間のかかる方法だった。1,600kmの距離を0.016秒でつなぐことに、彼らは血道を上げる。
確かに理論上は「いち早く」が実現できれば確実に儲けられるだろう。
しかし主人公たちは、苦戦に次ぐ苦戦を強いられる。ケーブルが長いほど速度は遅くなるため、極力迂回なしの「直線」で2都市間をつながなければならない。そのため、土地権利者から許諾を取って回ったり、山あり川ありの大自然ので工事作業に悪戦苦闘したり、元上司の執拗な邪魔に遭ったり。
そもそも高速回線は、最先端技術が半年後には陳腐になるという変化の激しい業界だ。主人公の従兄弟である天才プログラマーも、一番乗りの肝となる高速回線の技術開発に気も狂わんほど追い詰められていく。
株の必勝法を考える
映画「ハミングバード・プロジェクト」は実話がもとになっている。実に大胆なアイデアだが、コストも手間も技術力も大いに必要とされるやり方だ。そのうえ、技術開発競争の中で誰かに先を越されたり、速度を上回られたりすれば、あっという間に通用しなくなってしまう。
もっと楽なやり方で、自分たちのような一般の投資家でもできそうな必勝法はないものか──ということで、上映会のあとにセミナーが行われた。
確実に儲かる「マーチンゲール法」とは
セミナーで紹介されたのは「マーチンゲール法」という手法だ。これは2人対戦の場において用いる手法で、その勝率は1/2(つまり50%の確率で勝てる)。おおまかなルールは以下の通りになる。
【マーチンゲール法のルール】
- まず1,000円を賭ける
- 勝ったら利益を獲得(相手の賭け金1,000円も含め、2,000円ゲット)
- 負けたら倍額を賭ける
- 勝った時点でまた1,000円にリセット
カンのいい人にはわかると思うが、理論上は「何回目で勝とうが、勝つ限り常に1,000円儲かる」のだ。これぞ「必勝法」なのか!? そこで、サイコロを使って丁半賭博を行い、参加者と講師の間でマーチンゲール法を実践するワークが行われた(実際のお金は賭けていません。念のため)。
実践してみると、このようになる。
【1回目で勝った場合】
- 賭け金総額 :1,000円
- 獲得金額 :2,000円(1,000円×2)
- 差し引き利益:1,000円
【1回目は負けたが、2回目で勝った場合】
- 賭け金総額 :3,000円(1回目1,000円+2回目2,000円)
- 獲得金額 :4,000円(2,000円×2)
- 差し引き利益:1,000円
【1回目、2回目ともに負けたが、3回目で勝った場合】
- 賭け金総額 :7,000円(1回目1,000円+2回目2,000円+3回目4,000円)
- 獲得金額 :8,000円(4,000円×2)
- 差し引き利益:1,000円
いずれは儲かるのかもしれないが……
たいていの参加者は3回目くらいまでに1回は当てる。3回連続で外す確率は「1/2×1/2×1/2=1/8(12.5%)」なのだから、外すほうが難しい。
だが、なかには全くツイておらず、いつまでやっても当てられない人がいた。その人の賭け金は次ように増えていく。
①1,000 ②2,000 ③4,000 ④8,000 ⑤16,000 ⑥32,000 ⑦64,000 ⑧128,000 ⑨256,000 ⑩512,000……
絶対に1,000円は儲かる手法だが、一方で、1回につき1,000円しか儲からないのであり、これで儲けたいのならば同時並行でひたすらマーチンゲール法を走らせる必要がある。しかも、上の人のようにツイてない日があれば、手持ちの賭け金がショートしてしまう、という弱点もはらんでいるのだ。
投資の世界の「絶対」
そもそもマーチンゲール法は「1/2の勝率」という大前提あってのこと。株式投資にそのままスライドさせることはできない。株の場合、「こうすればより勝率を上げられる(かもしれない)」という手法は存在しても、サイコロの丁半のように「きっかり1/2の勝率」となることはないからだ。
投資の世界に「絶対」というものはなく、もしも「絶対」と言ってくる人がいたら、それはあなたを騙そうとしているのだ──という結論でセミナーは終了した。
「絶対」はない。これこそが投資における唯一「絶対」の真理なのだと、改めて痛感させられる映画&セミナーだった。映画の結末もまた、そのことを暗に伝えているのかもしれない。株をやる人であれば観て損はないと思われます。