会社の身売りで株価は下がる?上がる? 買収後の株価から見えてきたもの

熊田もみじ
2020年10月23日 10時00分

《「企業が身売りした」と聞くと、会社として瀕死の危機的状況がイメージされて、株価も下がってしまうように思えます。それとも、巨大グループの傘下に入ることで会社として成長すると期待されて、株価の上昇要因になるものなのでしょうか?》

ヤマダ電機傘下に入った大塚家具の場合

「お家騒動」以来何かと話題にのぼる大塚家具<8186>が、2019年12月12日、ヤマダ電機(現・ヤマダホールディングス<9831>)の傘下に入りました。大塚家具の第三者割当増資をヤマダ電機が引き受け、50%超の株式確保による子会社化が発表されたのです。

両社は同年2月から業務提携を結び、協力体制にありましたが、大塚家具は赤字経営が続き、危機的状況を脱することができずにいました。そして大塚家具は事実上の身売りにより、経営再建を図ることになったのです。

事実上の「身売り」と報じられた子会社化でしたが、そのとき、株価はどのように動いたのでしょうか?

身売りの発表で株価は急騰

大塚家具の株価は、お家騒動からの経営不振によって160円台にまで下がっていましたが、子会社化が発表されると212円まで急騰。翌日は292円のストップ高となり、その翌日には310円の高値をつけて、3日で90%を超える上昇を見せました。

ヤマダ電機の傘下入りを好意的に受け止める投資家が多かったことが、この株価急騰につながったと考えられます。ただ、1月末には再び200円を割り込む日も出ていることを見ると、長期的に期待される材料だったかのかどうかは判断が難しいところです。

一方、大塚家具を傘下に入れたヤマダ電機は、子会社化発表前は579円だった株価が、発表翌日の終値は558円と4%近く下げました。大塚家具を取り込んだことは、投資家の目にはネガティブに映ったのかもしれません。

投資判断に思い入れは禁物

ところで、大塚家具と言えば、創業者の大塚勝久氏とその娘で現社長の久美子氏との「お家騒動」が記憶に残る方も多いのではないでしょうか。

実は筆者もその一人で、2015年の委任状争奪戦や久美子氏による経営権奪取のころから、何かとニュースをチェックしていました。話題にのぼるたび、この父娘はいつ和解するのだろう……と他人事ながらハラハラして見守っていたものです。

ヤマダ電機の子会社となることが発表されたときは、いよいよ社長退陣かと緊張しましたが、久美子氏の続投が合わせて伝えられました。

個人的にはドラマのような大逆転劇を見てみたい気もしますが、当然ながら、それと株価は無関係。自分の思い入れが投資判断に影響してはいけない、と気を引き締める良い機会にもなりました。

海外企業に買収されたシャープの場合

大塚家具の他にも、近年は記憶に残る大きな身売りがいくつかありました。日本を代表する電機メーカーのひとつであるシャープ<6753>もまた、2016年2月、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入りました。

当初シャープは官民ファンドの産業革新機構からの出資を受け入れる方針だったようですが、2月4日に支援額を上積する意向を示したことで判断が傾いたとされています。翌5日、シャープは合意書の締結を発表。その後8月12日付で、鴻海精密工業がシャープの66.07%の株式を取得して子会社化し、シャープはブランドを維持したまま海外資本による再建を図ることとなりました。

このときの株価を見ると、2月4日の株価は1,600円で前日から+14%、その翌日は1,760円(前日比+10%)まで上昇。しかし2月25日、シャープが臨時取締役会で鴻海買収案の選択を決定するも鴻海側から偶発債務の発覚を理由に契約保留を受け渡されると、1,490円まで急落します。

そのまま下落を続けて、8月10日には890円となったシャープの株価ですが、ついに鴻海精密工業がシャープの株式を取得した12日には1,060円に回復し、その後も順調に上昇。2016年末には2,700円まで回復しました。

ZOZOを買収したヤフーの場合

身売りという意味では、ヤフーZホールディングス4689>)がZOZO<3092>を子会社化にしたことも衝撃でした。

ZOZOの創業者で筆頭株主の前澤友作氏が退任を発表したのは2019年9月12日。同日、ヤフーがZOZOに対して株式公開買い付け(TOB)を行い、連結子会社化することも伝えられました。

当時のZOZOは、通販サイト「ゾゾタウン」が好調な一方、有料会員向け割引サービスに対する反発で有名アパレル企業の撤退が相次ぎ、成長に陰りが見え始めたとされていました。

対するヤフーは、同年6月にソフトバンクグループ<9984>が子会社化。通販事業ではAmazonや楽天、メルカリなど競合他社への対抗が必要とされていました。ZOZOの子会社化には、利用者層の拡大や新規顧客獲得を目指す狙いがあったと考えられます。

そんな両者の株価は、ZOZOは12日に2,457円と前日から約12%上昇します。しかし、11月14日にTOBが完了すると急落、そのまま下落して2020年2月に入ると1,600円を割り込みました。

一方のヤフー(Zホールディングス)の株価を見ると、ZOZO買収を発表した9月12日は2%の上昇でしたが、TOBが成立した11月14日には約17%の上昇を見せました。

ネガティブな材料でも株価が上がる

「身売り」という一般的にはネガティブに思える材料でも、株式市場においては好意的にとらえられて、株価が上がる要因となることも多いようです。

ただ、そうは言っても、株価の動きに一貫性はなく、「身売りで株価は上がるだろう」「あの会社に買収されるなら大丈夫」といった素直な予想をするのは危険です。

株価というのは、そのときの市場参加者たちがどう思うか次第で大きく動くもの。期待か、失望か、はたまた別の見方もあるのか。決めつけずに、しっかりと流れを見極めることが何より大切なのでしょう。

その一方で、身売りといった大きなイベントがあった際には、その銘柄に対する自分の見方が他の投資家たちと同じかどうかを確認するチャンスにもなりそうです。「自分は下がると思ったのに上がった」ということは、自分には見えていない側面があるのかもしれません。

[執筆者]熊田もみじ
熊田もみじ
[くまだ・もみじ]ライター。依頼に合わせ、美容から節税まで幅広いジャンルを執筆。たまに入ってくる軍資金を握りしめ、『会社四季報』を眺めるのが楽しみのひとつ。ともすると右脳で行動しがちな性格に抵抗すべく、ファイナンシャル・プランナー資格の取得も密かに目論んでいる。
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