上場企業のお家騒動から、投資家目線で「親子問題」を考える

創業家(者)と経営陣の対立は、ドラマの中だけの話ではありません。出光興産<5019>では、昭和シェル石油<5002>と合併したい経営陣と、合併反対の創業家が対立の最中にありますし、経営方針をめぐる親子対決が大きな話題となった大塚家具<8186>も記憶に新しいでしょう。

そんなお家騒動を、ワイドショーのように対岸の火事として面白がるのではなく、「投資家の目線」で分析してみましょう。

会社の「最高権力者」はだれなのか

題材として取り上げるのは、大王製紙<3880>です。

2010年から2011年にかけて、当時の井川意高会長(創業者・井川伊勢吉氏の孫)はバカラ賭博で巨額の借金を作り、その返済(と新たな賭け金)に当てたのが連結子会社の資金でした。その額、105億円。意高氏には会社法違反(特別背任)で懲役4年の実刑判決が下されています。

それにしても、なぜ上場企業でこんなルーズなことができたのでしょうか?

取締役を解任できるのは株主総会だけ

創業家出身の意高氏が起こした事件を受け、大王製紙の経営陣は創業家の影響力を下げる方針を打ち出しました。意高氏の父で顧問だった高雄氏を解嘱、意高氏の弟・高博氏に対しては取締役辞任を勧告しましたが、本人が拒否したので、担当を持たない取締役にしました。

日本の株式会社の取締役は、本人が自ら辞任しない限り、解任できるのは株主総会の決議がある場合だけです。取締役会での社長解任という事件もたまに起きますが、取締役会は、あくまで代表取締役や社長の職を解くことしかできません。

つまり、取締役に居座る人物を排除しようとする場合、次の定時株主総会まで待つか、臨時株主総会を開くしかないのです(高博氏はその後、2012年6月に辞任)。

「取締役ではない人物が最高権力者」の怪

意高氏の父・井川高雄氏は、大王製紙の「中興の祖」と言える存在で、肩書きは顧問でも、実質的には同社の最高権力者でした。その高雄氏の解職が、創業家と経営陣の深刻な対立を招いたのです。

しかし本来、株式会社において、株主の委託のもとに業務の決定と監督を行うのが「取締役」の役割です。したがって取締役でもない高雄氏が、上場企業である大王製紙の最高権力者であり続けたこと自体、コーポレート・ガバナンス(企業統治)上の問題があると言えます。

取締役以上の最高権力者がいるのは、そもそも「おかしい」のですが、残念ながら、日本にはまだまだ、こういう企業が多いのも事実です。

いびつな資本構造が生んだ混乱

普通の上場企業であれば、最高権力者であった顧問を解嘱しただけで、会社の将来に深刻な悪影響をもたらす事態が発生することは稀でしょう。しかし、大王製紙の問題をややこしくしていたのは、同グループのいびつな資本構造に原因がありました。

大王製紙グループには、2011年3月末時点で、37の連結子会社がありました。

大王製紙本体も紙の製造を行っていますが、連結子会社が製造した製品を販売するケースも多く、「エリエール」ブランドで有名なティッシュや紙おむつなどは、特にその傾向が強いです。そのこと自体は何の問題もありません。

過半数の株式を保有していないのに連結子会社?

問題は、大王製紙がそれら連結子会社の株式の過半数を保有していなかったことです。たとえば、有力な連結子会社に対する大王製紙の出資比率(議決権の所有割合)は、以下のようになっていました(いずれも2011年時点の数値)。

  • いわき大王製紙:25%
  • 大宮製紙:15.3%
  • ダイオーペーパーコンバーティング:14.1%
  • エリエールペーパーテック:16.6%

これらの連結子会社における大王製紙以外の株主は、井川一族の個人であったり、井川一族の資産管理会社であったり、あるいは、大王製紙の大株主でもあるエリエール総業をはじめとする井川一族の資産管理会社であったりしました。

ここで「あれ?」と疑問に思ってほしいポイントがあります。なぜ、50%以上の株式を保有していないのに、これらの会社は大王製紙の連結子会社として扱われていたのでしょう?

40%未満の議決権でも連結子会社になる理由

アメリカなどでは、議決権の過半数を保有する会社のみを連結子会社として扱いますが、日本ではそうとも限りません。40%以上の議決権を保有している子会社については、いくつかの条件に合致すれば連結子会社として扱います。

さらに、40%未満の議決権しか保有していなくても、親会社が所有する議決権と「緊密な者」(会長だった意高氏や顧問だった高雄氏)、および「同意している者」(井川一族の資産管理会社)が所有している議決権を合わせて過半数になる場合は、連結子会社として扱われるのです。

なぜこのようなややこしい基準になっているかと言えば、バブル崩壊後に不良資産を抱えた企業が、決算をよく見せるために、連結外の関連会社に不良資産を「飛ばす」事例が相次いだことへの対策からでしょう。

創業家 vs. 経営陣の仁義なき戦い

大王製紙の場合、意高・高雄両氏が会社から離れることで、「緊密な者」「同意している者」という前提が覆ってしまいました。そこで同社は、「親会社が子会社の議決権の過半数を保有していない」といういびつな資本構造を改めるべく、創業家が保有する子会社の株式を買い取ろうとします。

これは経営陣として当然の対応ですが、創業家の立場から見れば、「なぜ自分たちの財産を売り渡さなければならないのか?」といったところでしょう。会社側も、適正価格より高く買い取ることは利益供与になりますから、上場企業としてそのようなことはできません。

こうして価格面の折り合いがつかず、子会社を巻き込んだ対立は激化して、法廷闘争に持ち込まれるなど泥沼化しました(すべて和解成立)。現在では業界再編に向けた新たな〝抗争〟に発展していますが、大王製紙の連結子会社に対する出資比率の点では、かなり改善されています。

  • いわき大王製紙:100%
  • 大宮製紙:100%(間接所有29.8%)
  • ダイオーペーパーコンバーティング(現・エリエールプロダクト):100%
  • エリエールペーパーテック(現・エリエールプロダクト):100%

「親子上場」が孕む利益相反リスク

現在、新規に上場申請する企業であれば、大王製紙のような資本構造を維持したままでは、上場が承認されないはずです。子会社の議決権はできるかぎり親会社が100%保有し、創業家(オーナー)は上場する親会社の株式のみを保有する構造に変えるでしょう。

そのため、上場企業の中で大王製紙と似た資本構造になっている企業は少ないと思われます。ただし「親子上場」している企業は多く存在しますし、いまだにそういう会社が新規に上場しています。

親子の関係はシンプルがいちばん

資本主義の先進国であり、「企業は株主のものである」という原則が強く意識されているアメリカでは、親子で上場する「親子上場」はほとんど存在しません。

親会社の株主から見れば、子会社ができることで少数の株主で独占できていた利益が流出するデメリットがありますし、子会社の株主から見れば、会社を支配している親会社と、自分たち子会社の少数株主の間で利益相反があるのではないか、と考えるので好まれないのです。

大王製紙は極端な例ですが、親会社が100%の株式を保有しない子会社の存在というのは、常に利益相反の可能性を孕んでいます。親会社と子会社の資本構造はなるべくシンプルであるべきです。上場企業自身も、そして株主・投資家も、資本構造の問題にもっと目を向けるべきではないでしょうか。

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