日経平均株価の最高値更新から見えてくる、日本株市場の特殊さと物足りなさ

朋川雅紀
2024年2月26日 17時00分

Tomohiro Ohsumi/Getty Images

《バブル期の記録を抜いて、ついに史上最高値を更新した日経平均株価。長年相場を見つめてきた執筆陣は、いま何を思うのか──》

時間のかかった最高値更新

2月22日、日経平均株価が史上最高値を更新しました。日経平均株価は、1989年12月に前回の史上最高値をつけたわけですから、約34年ぶりの最高値更新ということになります。

もし私が日本株の運用担当者を長くやっていたならば、現在の局面を、おそらくは特別な感情で受け止めていたことでしょう。

しかしながら、アメリカの株式市場を長期にわたって主戦場としてきた私にとっては、日経平均株価が最高値を更新しても、この先4万円を突破したとしても、「随分時間がかかった」という感想が真っ先に来てしまいます。

アメリカ市場は、数年ごとに最高値を更新し続けています。株価というのは、長期的には業績に連動するものですから、経済が成長して、それに呼応して企業の業績が改善すれば、自ずと株価は上昇するわけです。

その点を鑑みれば、34年も最高値が更新されなかった日本株市場というのは、極めて特殊なマーケットであると言わざるを得ません。

ここで、なぜ日本株市場が長期で低迷したのかを整理し、現在の状況は過去と何が違うのかを考えてみたいと思います。

日本株市場、長期低迷の背景

まず、日本株市場が長期にわたって低迷した背景について整理します。

  • 経済の失速

1990年代初めに日本はバブル経済の崩壊を経験し、その後、長期間にわたって経済の停滞が続きました。企業の業績が低迷したことで、株式市場も低迷しました。

  • デフレ

日本は長期間にわたってデフレ(物価の下落)に苦しみました。デフレは企業の収益を圧迫し、投資家の信頼を損ないました。

  • 少子高齢化

日本の人口減少と高齢化は、経済成長に対する重石となっています。少子高齢化により労働人口が減少し、経済活動に悪影響を及ぼしています。

  • 構造改革の遅れ

日本は構造改革を進めることが遅れていました。規制緩和や労働市場の改革などが必要でしたが、実施が遅れていたため、経済の活性化が妨げられてしまいました。

いま日本株市場を押し上げているもの

続いて、現在の日本株市場を押し上げている要因について考えてみましょう。

  • 景気回復と企業業績の改善

2023年には世界的な景気回復が進み、日本企業の業績も改善しました。景気の持ち直しに伴い、企業の収益が増加し、株価に対する期待が高まりました。

  • 海外投資家の買い

バフェット効果もあり、海外からの資金流入が増加し、日本株式市場に注目が集まりました。また、中国経済に対する懸念から、中国に向かっていた資金の一部が日本株に流れました。

  • 金融政策の恩恵

日本銀行の金融緩和政策や長期金利の動向も、株式市場に好影響を与えました。政策金利の維持や量的緩和策の継続が株価の下支えになりました。

  • 企業の経営改革

一部の日本企業が経営改革を進め、業績改善を果たしたことも株価上昇の要因となりました。

  • 外部環境の変化

FRBの金融引締め政策の見直し期待に伴うアメリカ株の株高や、円安基調などが日本株式市場にも好影響を及ぼしました。

アメリカ市場が勝者である続ける理由

それでは、定期的に最高値を更新し続けているアメリカ株式市場について、改めて、その強さの理由を考えてみたいと思います。

  • 世界的な企業

ハリウッド映画に代表されるように、アメリカ企業にとっては全世界が市場です。国内だけでなく海外にも進出できれば、それだけ売上が伸びることになります。

残念ながら、現状では、世界的に通用する日本企業は一部の製造業のほか、ゲームやアニメといったコンテンツ産業などに限られていますが、アメリカには様々な業種で世界的な企業が数多くあります。

  • 世界最大の経済大国

アメリカは世界ナンバーワンの経済大国です。そして、経済成長率も先進国の中でナンバーワンです。

  • 質の高い経営陣

日本には「経営のプロ」が少ないと言われています。アメリカでは、多くの場合、ビジネススクールで経営のノウハウを勉強し、経営者としてのキャリアを積んで、経営のスキルを身につけていきます。「理論」と「実践」で経営を学んでいくのです。

一方、日本の場合は、出世競争で一番昇りつめた人が社長になっているのが一般的です。

  • 株式文化

長い間、日本企業の資金調達は借り入れに依存してきました。株式は持ち合いで、株主は〝物言わぬ投資家〟と言われてきました。「株に投資している人はお金に汚い」と思っている人も、いまだにいます。

対してアメリカでは、株主からのプレッシャーが強いため、企業のトップは常に株価を意識し、株主への情報公開も積極的です。また、個人の資産形成には株が重要な位置を占め、国民が株に慣れ親しんでいます。

  • 起業家精神

アメリカからは多くの革新的な企業が生まれています。日本人は改善・改良は得意なものの、創造性に乏しいと言われています。また、日本では失敗をネガティブにとらえがちですが、アメリカでは「失敗して学んだのだから、次回は成功するだろう」と、失敗をポジティブに受け止めてくれます。

「持つべき資産」に向けて

バブル崩壊後の日本株の低迷期において、日本株は、投資家にとって「持つ必要がない資産」、もっと厳しく言えば「持ってはいけない資産」でした。

現在は、デフレからの脱却などの好材料も見られ、「持ってもいい資産」に格上げされたかもしれませんが、アメリカ株のように、資産形成に欠かせない「持たなければならない資産」にはなっていないと思います。

日本では、天然資源が乏しくエネルギー産業はほとんど存在しませんし、経済の血液といわれる金融機関で真のグローバル企業も存在しないなど、成長する業種のバラツキが大きいことが問題です。

ただ、最も大きな問題は、やはり「少子高齢化」による低成長経済でしょう。この問題を解決できなければ、長期的にアメリカ株を上回る、あるいは、それに近いリターンを日本株から稼ぎ出すのは難しい、という結論しか出てきません。

もちろん、個別の日本企業で魅力的な投資先は存在します。しかしながら、日本株市場全体としては、依然として投資対象としては物足りない存在と言わざるを得ません。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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