いまさら聞けない「日銀」 今後の金融政策で円安はどうなる? 日経平均株価への影響は?
加速する円安と日銀
足元で円安が加速しています。世界的にインフレが進行する中にあって、日銀は従来の金融緩和を継続しており、海外との金利差が拡大して、円が売られやすい地合いが続いているためです。
円安は輸出企業の業績にプラス効果をもたらす反面、エネルギーに代表される輸入物価を押しあげています。つい先日も、アメリカのアップル<AAPL>が日本での製品の値上げを発表し、話題になりました。
このように最近では日銀と金融政策について日々、注目度が高まっています。そこで改めて、日銀の成り立ちやその金融政策などについてひもといてみましょう。
そもそも日銀とは
日本銀行は日本唯一の中央銀行として、銀行券の発行や金融政策運営をはじめ、様々な政策・業務運営に取り組んでいます。
日銀が中央銀行として果たすべき役割は以下の3つとされています。
ひとつめは、「発券銀行」として銀行券、貨幣を独占的に供給する役割です。さらに「人々が安心して通貨を使うことができる」ようにするために物理的な貨幣の供給だけてなく、金融政策を通じた物価の安定を図っています。
次に、「銀行の銀行」として全国の金融機関との金融取引を行なっています。
各金融機関から預金(日銀当座預金)を預かり、必要とする金融機関に貸し出しを実施しています。そのほかにも内国為替制度や手形交換制度などの決済も日銀の当座預金を介して行われています。
また、信用不安など金融システムに対する不安が生じた場合には、日銀は「最後の貸し手」として資金を供給することができるとして、金融システムそのものの信頼性を担保しています。
最後に、「政府の銀行」としての役割です。日銀は国から預金を受け入れており、国税の出納や公共事業費、年金などの資金のやり取りを行なっています。実務上では民間の金融機関を日銀の代理店として業務の一部を委託しています。
日銀誕生の経緯
日銀は1882年(明治15年)に誕生しました。
明治維新により誕生した明治政府は、産業の振興のための資金を調達する方法として紙幣の発行に依存していました。
1873年(明治6年)、日本の「資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一が第一国立銀行(現・みずほ銀行)の初代頭取に就任しています。その後、100を超える銀行が設立され、各銀行がそれぞれのみ通用する紙幣を発行し始めるなど当時は、まさに日本の金融システムの勃興期でした。
こうした中で1877年(明治10年)に発生した西南戦争の戦費調達のため、さらに大量の紙幣を発行した結果、激しいインフレが発生しました。
これに対して、1881年(明治14年)に現在の財務大臣に相当する大蔵卿に就任した松方正義は、通貨の価値の安定を図るため、中央銀行を中心とした近代信用制度の確立を提言し、翌年の日銀発足に至っています。
日銀の組織と政策運営
日銀の組織は、総裁、2名の副総裁、6名の審議委員、6名以内の理事、若干名の参与の役員を中心としており、金融政策などの重要事項の決定は総裁、副総裁、理事によって構成される政策委員会で決定されます。
トップである総裁の任期は5年で、衆議院と参議院の同意のもと、内閣が任命します。副総裁、審議委員も任期や指名の方法は同じです。日本銀行法25条で心身の故障、禁錮以上の刑に処せられるなどやむを得ない場合を除き、任期中に解任されることはありません。
現在の黒田東彦総裁は2013年3月に就任し、総裁としては異例の2期目のため、来年の2023年3月に任期満了を迎えるため、後任人事が注目されています。
日銀の政策を決める政策委員会には金融政策を決めるための「金融政策決定会合」とその他の事項を審議する「通常会合」があります。
「金融政策決定会合」は通常6週間に一度、定期的に2日間にわたって開催される重要な会合です。会合で決定された内容は終了後、直ちに公表され(概ね昼前後)、その後は総裁が記者会見を行います(概ね午後3時半)。
会合内でどのような意見があったかについては会合終了後、1週間をめどにして「主な意見」として公表されます。
現在の日銀の金融政策
現在の日銀は、「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」と「資産買い入れ」によって市場に資金を供給する金融緩和政策をとっています。
「イールドカーブ・コントロール」は2016年9月から行われている短期金利と長期金利を誘導する金融操作です。イールドカーブの「イールド」とは「利回り」のことで、債券の利回りを縦軸に、債券の満期までの残存期間を横軸にとったグラフを表します。
通常の景気の状態では、短期の債券に比べて長期の債券の利回りが高いため、イールドカーブが右肩上がりになります。
しかし、2013年4月に導入した異次元の金融緩和より日銀が大規模な国債などの買い入れを行ったことにより、日本のイールドカーブは長期の債券の利回りが上がらず(一般的に債券は買われて値段が下がると利回りが低下します)、イールドカーブが平坦(フラット)になってしまいました。
これにより金融機関などが利回りによる収益を得ることができない点が問題視されたことが、イールドカーブ・コントロール導入の背景となっています。
具体的には、短期金利(無担保コール翌日物レート)が定位となるように銀行が日銀に預け入れている当座預金の一部に0.1%のマイナス金利を付与し、市中への資金供給を促しています。
また長期金利については、10年物国債の利回りがゼロ%程度になるように、上限を設けずに長期国債の買い入れを行なって、金利を定位に誘導するオペレーションを実施しています。
ただし、長期金利が0%で完全に固定されてしまうと市場が機能しなくなってしまうことから、一定程度の余裕を持たせて、その範囲では長期金利の上下を黙認しています。具体的には「指値オペ」という手段によって0.25%程度までの金利上昇を許容しています。
指値オペとは「日銀が決められた利回り(指値)で無制限に国債を買い入れる」という強力なオペレーションです。
もっとも、日銀が国債を買い入れ、市中に資金を供給することによる円の価値の下落、つまり円安に対する賛否両論もあることから、日銀の金融政策はいずれどこかで修正されるのでは、との見方が増えています。
日銀が利上げすると日経平均はどうなる?
現在、アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)など諸外国の中央銀行は軒並み、コロナでダメージを受けた経済を支えるための金融緩和からインフレ退治のための金融引き締めへと転化します。
これに対して、国内のインフレ率である消費者物価指数は、政府・日銀がデフレ脱却のための目標としてきた前年同月比2%の伸び率を超えてきており、海外投資家を中心に「日銀が金融政策を変更し、利上げするのでは」という期待も一部出ています。
では、日銀が利上げした場合は日経平均株価にどう影響するのでしょうか?
日銀が利上げした場合、現在の円安を支えている内外の金利差が小さくなり、低金利で売られていた円に対して円高となることが予想されます。円高により輸入企業の採算が改善する一方で、輸出企業の業績の下支えが剥離すると自動車や電機など外需株の売り要因になるでしょう。
また、コロナ禍からの回復などもあり経済は持ち直しているものの、エネルギーや物価の影響を除いたコアコアの消費者物価指数はいまだ1%以下で、インフレによる消費の手控えの動きも見られることから、利上げによる経済への影響が先行するとみられています。