TOPIXの時代がやって来た? NT倍率が大きく低下した理由を3つの視点から考える
NT倍率とは?
「NT倍率(エヌ・ティー・ばいりつ)」とは、日経平均株価(日経225=N)をTOPIX(東証株価指数=T)で割ったもので、2つの指数間における相対的な強さを示します。分子である日経平均株価が上昇うするとNT倍率も上昇し、分母のTOPIXが上昇するとNT倍率は低下することになります。
そんなNT倍率の過去10年間の推移を見てみると、2021年の初めまでは長らく上昇が続き、2021年3月には15.68倍の高値をつけました。しかし、その後は下落が続き、2021年後半からは14倍台の前半での推移となっています。
そもそもNT倍率で何がわかるのか?
このNT倍率は、現在の相場でどういった銘柄群が買われているか、を知ることができる指標です。
日経平均株価は、東証1部の上場銘柄の中から日本経済新聞社が選んだ、日本を代表する225銘柄の株価合計を除数で調整した平均価格です。ですから、値がさ株(ハイテク株など株価の高い銘柄。主に外需セクター)の影響が強くなります。
一方、TOPIXは東証1部全銘柄の時価総額加重平均で計算されるので、内需セクター(通信株や銀行株など)をはじめ時価総額の大きい銘柄の影響を受けやすくなります。
この違いから、ハイテク株が内需株よりも上昇するとNT倍率は上昇し、内需株のほうがハイテク株よりも上昇するとNT倍率は下がる傾向にあります。
さらに言えば、ハイテク株などの外需株は主にグロース株で、通信や銀行などの内需株は主にバリュー株です。そのため、グロース株が強いと日経平均株価が上昇するのでNT倍率は上
つまり、以下のような2つの比較を表しているのがNT倍率だと言えます。
- グロース株 vs. バリュー株
- 外需株 vs. 内需株
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NT倍率を大きく動かした3つの要因
値がさ株優位が続いていたことで上昇してきたNT倍率が、2021年に大きく動いた背景には、3つの要因がありました。
算出方法の変更で日経平均株価に売り圧力
NT倍率低下の要因のひとつは、日経平均株価の算出方法の変更にあります。
日本経済新聞社は、2021年5月10日に日経平均株価の算出・選定ルールの改定案を発表しました。それによると、今後の採用銘柄については、採用時の構成比が1%を超えないように「株価換算係数」を調整するとのことでした。
このルール改定が、10月の定期入れ替えから適用されたことで、これまで株価が高すぎて採用されてこなかったキーエンス<6861>、任天堂<7974>、村田製作所<6981>の3銘柄が日経平均株価に採用されることになりました。
これら値がさ株が日経平均株価に採用されることによって日経平均株価に売り圧力がかかり、NT倍率も低下しました。
というのも、日経平均株価の構成銘柄が入れ替わると、それに連動するインデックスファンドなどは、既存銘柄を売って新規採用銘柄を購入することになります。その際、採用される銘柄のほうが除外される銘柄よりも構成比が高くなる傾向があり、除外される銘柄以外の銘柄も売却する必要があるので、日経平均株価には売り圧力がかかるのです。
日経平均株価に連動するインデックスファンドの総額は、2021年6月末時点で約21兆円あり、銘柄入れ替えに伴う売りは大きなものになりました。
日銀のETF買い方針変更で意外な値動き
2021年3月、日銀のETF の買い入れ額の目安(年間残高増加ペース約6兆円)が撤廃され、必要に応じて買いが行われる方針が示されました。
日銀はこれまで日経平均型ETFよりもTOPIX型ETFを大量に買ってきていたので、この方針変更によってTOPIX型ETFの影響力が弱まり、相対的に日経平均株価が上昇してNT倍率は上昇するのではないか、と考えられました。しかし、現実は逆になりました。
日銀が買いを縮小した後にTOPIXの上昇力が高まり、NT倍率は低下したのです。これは、「日銀ETF買い」の影響が落ちてきていることを表していると考えられます。
日銀が「年間6兆円」としていたETFの買い入れの目安を取り下げ、主要な買い手ではなくなったことで、日本株の最大の買い主体は事業法人(一般の法人)になりました。2021年4月から12月末までに日銀が買い入れたETFは約2800億円。それに対して、事業法人は約1.5兆円の買い越しとなっています。
事業法人の大幅な買い越しは、企業による「自社株買い」が増えていることを意味します。日本企業は今後も、自社株買いと配当などの株主還元を充実させていく方向です。2021年度に25.3兆円と過去最高を更新する総還元額は、2022年度以降も10%台の高い伸びを続けていくものとみられています。
グロース株よりバリュー株優位でNT倍率は低下
株式を「グロース株」と「バリュー株」の2タイプに分けて評価する考え方があります。グロース株とは業績や利益の成長性が高く、今後も高い成長性が見込まれる銘柄のことです。一方のバリュー株は、企業の本質的価値よりも株価が低い状態にある銘柄のことです。
グロース株は、業績が急拡大している企業や革新的な商品やサービスを提供している企業が多く、ITやテクノロジー関連企業が多い傾向にあります。そんなグロース株は値がさ株のことが多く、日経平均株価に大きな影響を与えます。
一方のバリュー株には、すでに成熟した業種や業績が安定していて、銀行業や製造業などの時価総額の大きい企業が多いので、TOPIXに影響を与える傾向があります。
そして、自社株買いなどの株主還元策を積極的に行うのは、バリュー株のほうが多くなります。グロース株は、株主還元よりも今後の成長のために設備投資などを行うからです。その結果、バリュー株の株主還元が充実してくれば、グロース株よりもバリュー株に買いが入りやすくなります。
こうして日経平均株価よりもTOPIXのほうが優位となり、NT倍率が低下する可能性が高くなると考えられます。
東証再編でNT倍率はどうなる?
これまではグロース株優位の展開で、NT倍率は上昇傾向にありました。しかし、各国で金利が上昇するなか、現在ではグロース株よりもバリュー株のほうが優位になってきています。バリュー株には銀行など時価総額の大きい銘柄が多く、日経平均株価よりもTOPIXが優位になる可能性が高いと考えています。
ただ、2022年4月からの東証の市場区分変更で、TOPIXの対象企業も東証1部からプライム市場に変更されます。マーケットへの影響を考慮して、新基準での算出は2025年1月までに段階的におこなわれますが、NT倍率にどのような影響を与えるのかにも注目です。