「相場は相場に聞け」と言われても… 株価急上昇の陰で涙を吞んだ投資家の告白
《株式投資の魅力はやっぱり個別株。それも、とことん愛して一途な想いを遂げてこそ、その奥深い面白さを実感できます。個別株投資という“沼”にハマった筆者が綴る【個別株偏愛】》
「日経平均株価が33年ぶりの33,000円台を回復」──2023年初夏、日経平均株価の快挙に投資家界隈は明るい話題でいっぱいでした。でも、わたしの心は傷つき、深い悲しみとともに悔し涙を呑んでいました。それは、「相場は相場に聞け」という教えを守らなかったことが招いた悲劇でした。
株価急上昇の裏で、悩める人々
今年6月、日経平均株価は33年ぶりの33,000台を回復しました。
一気に駆け上がった理由として、次のようなことが言われています。まずは、FRBの段階的な利上げ政策によって米国株がグズついた展開の中、日本株は日銀の植田新総裁の下で緩和政策を継続すると表明。加えて、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が日本株への追加投資を表明。
さらに、東証のPBR改善策なども追い風となって、世界中の投資家が日本株に注目した結果、海外の投資マネーが一気に流れ込んだ、と。
ただ、あまりに急ピッチな上昇に、「上昇スピードが早すぎる」「急落するのではないか」との声も多くありました。特に5月には、怒濤の8連騰で長年の岩盤ラインだった31,000円を突破し、「いくらなんでも過熱しすぎ」「一旦調整する」とマーケット関係者はもちろんメディアも盛んに報道しました。
「一旦調整」の根拠はいくつかありました。バブル崩壊後の最高値だった2021年9月14日の水準を更新したことや、5月だけで2,000円もの急ピッチの上昇を遂げたこと、PERは約15倍で妥当なラインであったこと、また、アメリカの債務問題や金利高止まり懸念、景気後退懸念が高まったこと、などなど。
一部では「日経平均株価は27,000円まで調整するのではないか?」とも囁かれ、保有株を売って様子を見ようとした投資家も多かったのです。
わたしも、そんな投資家のひとりでした。どんどん駆け上がる株価を目撃しながらも、それを信じ切れず、「ひとまず利益確定して、今後の景気後退(=株の下落)に備えたほうがいいんじゃないかな……下落したところでまた買い戻せばいいし……」とウダウダ悩んでいました。
そうして、「あのお宝銘柄も売ってしまおう」と考えるに至ったのです。
下町のモールでのパルとの出会い
そのお宝銘柄とは、アパレル・雑貨小売店チェーングループのパルグループホールディングス<2726>です。300円ショップ「3COINS(スリーコインズ)」を展開する企業として、投資家にも広く知られています。
創業は1961年と古く、現社長の父である井上秀隆氏が株式会社スコッチ用品店を設立。1973年にカジュアル部門を分離して株式会社パルを設立したことに始まります。
2001年にジャスダックに上場すると、2004年に東証2部、そして2006年には東証1部へと“昇格”(現在は東証プライム)を果たします。「3COINS」を大阪に開店したのは2004年のことです。
2008年には現在の社長・井上隆太氏に経営が引き継がれ、帝人出身の同氏は会社の規模拡大に貢献します。2016年に株式会社パルグループホールディングスに商号変更し、現在の年商は1300億円、時価総額は2100億円を超えています(2023年12月現在)。
そんなパルとわたしと出会いは、2023年の2月頃。近所の某ショッピングモールで100円ショップが閉店し、代わりに「3COINS」がOPENしました。
100円ショップよりもデザインと機能のクオリティが高いとSNSでも人気が高く、雑誌やテレビなどでもよく取り上げられているのは知っていましたが、まさか、こんな東京の端っこの下町にも出店するとは……。
ふと、あの伝説のテンバガー銘柄、100円ショップを展開するセリア<2782>の過去の快進撃が頭に浮かび、興味を惹かれたのです。
こうして、わたしはパルに沼った
パルグループは、ECサイトの販売増強や雑貨事業の大型化の推進などが功を奏したほか、コロナからの消費者マインドの回復もあって衣料事業も想定以上の増収となり、今年1月に業績&配当予想の上方修正を出していました。
早速リサーチ開始! ECサイトをのぞいてみると、オシャレで値段も手頃な服がたくさん! すっかり心を奪われたわたしは、「リサーチ」という大義名分のもとに服を買いまくり、あっという間に、クローゼットはパルの服で埋め尽くされてしまいました。
要するに、わたしはパルに“沼った”のです。
その頃、アパレル関連銘柄はコロナ禍からのV字回復中ではありましたが、まだまだ最高値には遠く及ばない状況でした。特にパルグループは、業績が絶好調なのにもかかわらず、株価は2,700円台(分割調整前。以下同じ)をウロチョロ。しめしめ、これはお宝銘柄を発見したぞ♪
その後、株価は順調に成長し、3月には3,000円を突破。4月には3,400円の高値をつけます。ある証券会社は、パルグループの目標株価を2,900円から3,750円に変更。わたし自身も3,700円と見立てていましたが、勢いづけば4,000円も射程距離だとほくそ笑んでいたのです。
タイタニックが頭から離れない!
ところが5月に入ると、日経平均株価のあまりの急ピッチな上昇に急落説がマーケットを覆い、わたし自身も不安に襲われます。さすがのパルでも、日経平均株価という本丸が沈没してしまったら無事ではいられまい……。心理状態は弱気も弱気、不安MAXになっていました。
「ひとまず利益確定して、今後の景気後退(=株の下落)に備えたほうがいいんじゃないかな……下落したところでまた買い戻せばいいし……」
当時のわたしの脳裏にあったのは、あの豪華客船の最期です。栄華を誇ったタイタニック号が氷山にぶつかり、ゴゴゴゴゴォォォーーーッという轟音とともに海に沈んでいく中、まるで豆粒のような乗客たちが次々と甲板から海に落ちていく……その様子ばかりが頭に思い浮かんでいました。
「一緒に沈んでなるものか! ええい、頭と尻尾はくれてやる!」──こうしてわたしは、大切に大切に育てていたパルをすべて売却したのです。
しかしながら、巷の急落説など、どこ吹く風。日経平均株価はさらに上昇を続け、パルグループに至っては、目標株価である3,700円どころか4,000円を超え、7月には株式分割まで発表!(株式分割は一般的に株価にプラスといわれます) その後、8月に入って4300円の高値(当時)をつけたのです。
目標は最安値で買うことではなく、買った株を最短期間で自分の買値を大幅に超える株価で売ること。それが並外れたパフォーマンスを達成する方法である。
アメリカの著名な投資家であるマーク・ミネルヴィニ氏の言葉です。今回、情けなくも恐怖に負けたわたしは、尊敬する師の言葉を試す絶好のチャンスに、溺愛する銘柄を自ら手放してしまったのでした。
相場のことは、やっぱり相場に聞け
株価というものは、人の思惑どころか、テクニカルやファンダメンタルなどの理論をも飛び越えて、勢いづくことがあります。強気はさらに強気になり、弱気はさらなる弱気を呼ぶ。まさに、「相場は相場に聞け」の展開です(「相場のことは相場にしかわからない」という意味の相場格言)。
今回のような超強気の相場では、上昇トレンドに逆らわず乗っかって、いずれ下降トレンドに転換した時点で売却する、というのが最もシンプルかつ強い投資法です。ウダウダと悩んだりせずに、素直に相場に従っていればよかったのです。
もっと言えば、ミネルヴィニ氏の理論に従ってトレイリングストップ(株価が上がるたびに決済価格を引き上げる手法)をうまく使って、より多くの利益を確保する努力をすべきでした。ウダウダと悩んだりせずに……。
相場の声を無視して悔し涙を呑んだわたしですが、このパルへの失恋劇に意味があるとしたら、それは「相場は相場に聞け」の格言をリアルに体験して諸々悟ったことで、投資家として少しは成長できたはず、ということでしょう。
日経平均株価は再び33,000円台を回復し、年末そして辰年に向けて突き進んでいる……かのように見えます。もちろん、相場の行方は誰にもわかりません。知っているのは、相場だけ。