推し活の喜びを教えてくれたレーザーテックに、感謝と愛を込めて

岡田禎子
2024年10月10日 10時00分

《株式投資の魅力はやっぱり個別株。それも、とことん愛して一途な想いを遂げてこそ、その奥深い面白さを実感できます。個別株投資という“沼”にハマった筆者が綴る【個別株偏愛】》

スーパーアイドル銘柄との出会い

「レーザーテックがついに15,000円を割りました!」

まさか、あのレーザーテックがそこまで下げるなんて……。2022年10月、シェアオフィスに向かうバスの中、iPodでラジオを聴いていた私は、思わず「ええっ!」と驚きの声を漏らしていました。

レーザーテックといえば、東証の売買代金ランキングで常にトップ圏内に入る超人気銘柄。個人投資家なら一度はチャレンジしたい〝スーパーアイドル〟です。ただ当時は、2020年から2021年の半導体ブームの反動で、株価はピーク時の半値以下に沈んでいました。

レーザーテックのことはもちろん知っていましたが、半導体という専門外の業種でもあるし、中長期のファンダメンタル投資を心がけている私にとって、スイングトレーダーやデイトレーダーにいちばん人気のキラキラ銘柄は「しょせん縁のない銘柄」と、どこか冷ややかな目で見ていました。

そのレーザーテックが15,000円割れと知り、「ひょっとして雲の上の〝スーパーアイドル〟から手の届く〝となりのイケメン〟になった?」とばかりに、むくむくと興味が湧いてきたのでした。

日本が誇る世界オンリーワン企業

レーザーテックは、その名前のカッコ良さから新興企業と思われがちですが、創業は1960年と古く、電機メーカー出身の創業者・内山康氏が設立した有限会社東京ITV研究所を源流とします。2012年3月に東証2部(現スタンダード市場)に上場し、2013年には1部(現プライム市場)に昇格します。

「世の中にないものをつくり、世の中のためになるものをつくる」という経営理念のもと、最先端半導体の製造に必要なEUV(極端紫外線)露光装置に使われるフォトマスク検査装置で市場を独占。高い技術力と開発力でグローバルニッチトップの世界オンリーワン企業として知られています。

近年の半導体の用途の広がりと需要の高まりに加えて、半導体の高度化に伴う微細化が進めば進むほどレーザーテックには追い風となるため、業績は5年で6倍。2016年に300円程度だった株価は、2021年には37,000円まで上昇し、100倍を超える大化けを見せました。

とにかく難しい半導体関連

投資家が夢見るお宝銘柄そのもののようなレーザーテックですが、実は、レーザーテックをはじめとする半導体関連銘柄への投資は、プロでも難しいと言われています。その理由は、株価のボラティリティ(変動幅)が高い点にあります。

半導体業界には、「シリコンサイクル」と呼ばれる業界の構造的な景気変動サイクルがあり、大体4年の周期で好況と不況を繰り返しています。

好況時には供給が追いつかないほど大量の需要が発生しますが、不況になるとしばしば供給過剰の状態に陥り、業績が悪化してしまいます。というのも、半導体の製造工程は工場建設に1年超かかり、さらに材料を投入してから完成まで数か月かかるからです。

さらには、株価は「半年先取りして動く」とも言われるため、決算や出荷状況を見てから動いても遅いのです。実際、2021年に35,000円のピークをつけたレーザーテックは、2022年10月には、翌年2023年の不況予想によって株価は半値以下まで下落しました。

エルピーダの悲劇が脳裏に甦る…?

個人的に半導体関連銘柄を敬遠していた理由として、過去に、半導体メモリ大手・エルピーダの〝悲劇〟を目の当たりにしたから……という事情もありました。

2000年代後半、シリコンサイクルの不況の波に直面しつつも、エルピーダは国際市場での激しいシェア争いに何とか食らいついている状態でした。同僚の半導体専門アナリストがいつも頭を抱えていた姿を、いまでも覚えています。

しかしながら、エルピーダは2012年に経営破綻。あれだけ優秀な経営者がいても難しい業界なのか……と私自身も思い知らされた出来事でした。

そんなこんなで、日本の半導体関連銘柄に手を出すのはハードルが高いし、エヌビディア(アメリカの半導体大手)さえ持っていれば大丈夫でしょ、と考えていたわけです。

それが、難敵でありスーパーアイドルであるレーザーテックが15,000円割れまで〝お里帰り〟(株価が大相場の起点まで下がってしまうこと)したと聞いた瞬間、「行かなくてどうする!」と私の投資家魂に火が付きます。要は、バスで隣に座ったイケメンに強烈に心を奪われてしまったわけです。

それまで知らなかった喜びに浸る

2022年10月、それまで株価下落に甘んじていたレーザーテックは突如として反撃を開始します。

米FRBの金融引き締めピッチが減速するという観測や、インテルやASMLの市場コンセンサスを上回る決算を受けて、10月3日の14,320円を底に上昇相場に転換。11月16日には29,645円をつけて、株価は一気に約2倍へと駆け上がったのです。

私はといえば、レーザーテックの世界にすっかり呑み込まれていました。バスどころかジェットコースターにでも乗ったかのような激しい株価変動に、「ヒィィィィィィーーー!」と叫びながらも、数分おきに株価をチェックしては喜んだり悔しがったりする毎日。

さらには、次から次へと出てくるニュースやレポートを追いかけて読み漁ったり、Twitter(X)やYouTubeの検索をかけまくったりで、何をしていてもレーザーテックが気になって仕方がなく、アドレナリン全開でどっぷりと沼ってしまったのです。

本格的な推し活には仲間の存在も重要でした。株価が大きく上昇したときはSNS上にコメントが溢れ、その興奮を分かち合って共に盛り上がり、同じ熱量を共有できる仲間がいることは、本当にワクワクする経験でした。

「推しが見せてくれる未来を信じて投資する」という短期投資は、複利効果から考えても、成功させられれば優れた投資法だと気づかされたのです。

世界を広げてくれた君へ

そんなレーザーテック熱も、そう長くは続きませんでした。というのも、慣れないことをしてしまったせいで早々に「推し活疲れ」に襲われ、これでは身がもたないと悟ったから……。

それでも、かつて抱いていた半導体関連への苦手意識はどこへやら。私の中に立ち込めていた重い霧はすっかり晴れて、その他の銘柄も投資対象のひとつとして見られるようになりました。レーザーテックのおかげで、投資の世界がぐんと広がったのです。

2023年10月、レーザーテックはついに日経平均株価の構成銘柄に採用されました。自分の推しがアメリカのビルボード・チャートにランクインしたかのような、それはそれは感慨深い瞬間だったのでございます。

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[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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