いまさら聞けない「オプション取引」 知っておくべき日経平均株価に与える影響とは

山下耕太郎
2021年1月26日 8時00分

《現物株しか取引しかしない方は、オプション取引なんて自分には関係ない、と思っているかもしれません。しかし、オプション取引が現物の株式市場にも影響を与えることがあります。一体どんなときに影響を与えるのでしょうか。そして、現物派が知っておくべき対策とは?》

オプション取引とは

オプション取引は、次の4つのポイントで説明することができます。

  • 限月……あらかじめ決められた満期日までに
  • 権利行使価格……あらかじめ決めた価格で
  • プットコール……売る権利(プットオプション)または買う権利(コールオプション)を
  • プレミアム……〇〇円というオプション価格で行使する

日本では、日経平均株価を対象にした日経225オプションが一般的です。例えば、次のような情報があるとします。

  • 2021年2月限/権利行使価格28,000円/コール/50円

これを先ほどの4つのポイントで表すと、以下のようになります。

  • 限月……2021年2月12日(金)までに
  • 権利行使価格……28,000円で
  • プットコール……買う権利(コールオプション)を
  • プレミアム……50円というオプション価格で行使する

このうち、オプション価格である「50円」が、株価のように変動します。また、満期日のことを「SQ日SQ算出日)」といい、満期での価格を「SQ価格SQ値)」といいます(SQについては後述)。

オプション取引の4つの基本形

オプション取引は、売る権利・買う権利を取引するため、それぞれに売りと買いがあります。したがって、合計で4つの基本形ができることになります(ここでは日経225オプションを前提にしています)。

・コールオプション(買う権利)

  • コールの買い……ある時点で日経平均株価を〇〇円で買う権利を〇〇円で買う
  • コールの売り……ある時点で日経平均株価を〇〇円で買う権利を〇〇円で売る

コールオプション(買う権利)は、ある時点(満期日)にある値段(権利行使価格)で、日経平均株価を買う権利。つまりコールの買い手は、満期日に権利行使価格で買う権利を得ます。一方、コールの売り手は、買い手が満期日に権利を行使したら、それに応じる義務が生じます。

・プットオプション(売る権利)

  • プットの買い……ある時点で日経平均株価を〇〇円で売る権利を〇〇円で買うこと
  • プットの売り……ある時点で日経平均株価を〇〇円で売る権利を〇〇円で売ること

プットオプション(売る権利)は、ある時点(満期日)にある値段(権利行使価格)で、日経平均株価を売る権利。したがって、プットの買い手は満期日に権利行使価格で売る権利を得る一方、プットの売り手は、買い手が満期日に権利を行使したら応じる義務があります。

オプション取引が株式市場に与える影響

オプション取引は、実際にやってみないとよくわからない部分も多く、自分とは関係ないと思っている個人投資家も多いかもしれません。しかし、オプション取引が株価にも影響を与えることがあるので。

たとえば、日経平均株価が上昇しているとき、コールオプション(買う権利)の売り手は、株価が上がれば上がるほど損失が膨らみます。買い手が権利を行使したら応じないといけないからです。そこで、膨らむ損失をカバーするために、日経225先物(日経平均株価の先物)を買います。

これが、株価上昇にさらに弾みをつけることがあるのです。

先物取引をリスクヘッジで利用するとは

もう少し具体的に説明すると、権利行使価格28,000円のコールオプション(買う権利)を売っている投資家は、SQ日に株価が28,000円を上回ると損失が発生します。そこで、株価の上昇局面では日経225先物を購入しておきます。

すると、もしそのまま株価が上昇し続ければ、日経225先物の利益は膨らんでオプション取引の損失をカバーしてくれます。反対に株価が伸び悩んだら、日経225先物の利益は少ないものの、オプション取引の損失も抑えられます。

つまり、リスクヘッジとして日経225先物を利用するわけです。

日経225オプションと日経225先物は、どちらも日経平均株価が原資産なので、両方を取引している投資家が多くいます。そこには、値幅を狙うだけでなく、現物株式のリスクヘッジを目的に使ったり、オプションと先物を絡めて戦略的ポジションを組んだりなど、さまざまな手法が存在するのです。

そうしたあらゆる動きが絡み合って、株価は形成されていきます。時には、オプション取引を発端とするひとつの流れが、株価を動かす大きな要因になることもあり得ます。

現物派はどう対応すればいいのか?

オプション取引が株価にも小さくない影響を与えると理解できたところで、では、どのようにしてそれに対処すればいいでしょうか。自分が取引していないと見えない部分も多いのですが、大事なポイントさえ抑えておくだけでも心の準備ができます。

注意すべきはメジャーSQ

現物の株価に影響を与える要素として取り上げられることの多い「SQ」とは、Special Quotation(スペシャル・クォーテーション)の略で、オプション取引や先物取引の清算に使われる「特別清算指数(最終清算数値)」のことです。そして、このSQが決まる満期日を「SQ日」と呼びます。

日経225先物のSQ日は3・6・9・12月の第2金曜日と決まっていて、一方の日経225オプションは毎月第2金曜日に清算されます。そこで、両方のSQ日が重なる月のSQ日(つまり3・6・9・12月の第2金曜日)を「メジャーSQ」と言い、それ以外は「マイナーSQ(ミニSQ)」と呼ばれます。

つまりメジャーSQは、日経225オプションと日経225先物を保有している投資家の清算日なのです。そのため、このメジャーSQに向けては特にマーケットが大きく動く可能性があり(上で説明したような動きなど)、注意が必要です。

(参考記事)なぜ株価が上昇しているのか? SQが株価に与える影響を理解する

プット・コール・レシオを参考にする

株式市場の強弱を測る指標のひとつに「プット・コール・レシオ(PCR)」があります。これは、コールオプション(買う権利)とプットオプション(売る権利)の売買代金をもとにして、相場の強弱を表します(日本では、日経225オプションをもとに算出するのが一般的です)。

つまり、売り手に対して買い手がどれだけ多いかの比率を示しているわけです。

コールオプション(買う権利)は上昇局面で値上がりが期待でき、プットオプションは下落局面で値上がりが期待できます。したがって、相場に強気の投資家が多ければ、分母であるコールオプションの売買代金が増えるので、プット・コール・レシオは低下します。

反対に弱気の投資家が多ければ、分子であるプットオプションの売買代金が増えるので、プット・コール・レシオは上昇する傾向にあります。このように、そのときの相場の強弱を知ることができるとともに、それが反転する(強気→弱気、弱気→強気)局面も確認できます。

プットコールレシオは、楽天証券やeワラント証券などが算出したものを、各社のウェブサイトで確認することができます(➡参照:楽天証券のプット・コール・レシオeワラント証券のプット・コール・レシオ

ただし、どちらも社内における売買代金をもとに独自に算出しているため、数値そのものは異なっています。それでも、相場の強弱をつかんだり、それが反転する局面を確認したりするには大いに参考になります。

もちろん、プット・コール・レシオが反転したからといって、必ずしも日経平均株価が変動するわけではありませんが、相場の転換点を見極める指標のひとつとして参考にするといいでしょう。

知っておきたいデリバティブ

オプション取引をしない投資家も、その仕組みを理解しておくことで、日経平均株価の値動きを察知できるようになります。また、プット・コール・レシオも、相場の過熱感を判断する材料のひとつになるはずです。

いま日本の株式市場では、オプション取引や先物取引などのデリバティブの存在感が増しています。自分は実践しなくとも、株式市場という同じ土俵の上にはこのような動きがあることも知っておいたほうがいいでしょう。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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