プロの株式トレーダーは四季折々の相場をどう過ごしているのか

高野 譲
2020年4月1日 8時00分

株式トレーダーのリアルライフ

トレーダーは一瞬のスキを逃さない。凄腕トレーダーは、口を揃えてこう話す──「私はね、株式をさっと買って、5分後には手放しているよ」。

株を買ってもすぐに手仕舞う「短期間の取引」からイメージされる一般的なトレーダー像は、とても「四季」という言葉の一片すら感じさせないだろう。非常に腰の軽い様子がうかがえて、「堅実な投資家」のイメージとは大いに乖離する。

だが本当に、年がら年中「もぐら叩きゲーム」に没頭しているのがトレーダーなのであろうか?

私は、トレーダーの尊厳を回復するためにも「ノー」と言っておきたい。トレーダーの視野は海のように広いのだ。春夏秋冬のサイクルの中で、トレーダーは何を見て、何を考え、どう動くのか。生のトレーダー像をご紹介しよう。

  • 春(4・5・6月)……新年度。トレーダーには迷惑な季節
  • 夏(7・8・9月)……閑古鳥が鳴く相場。隣は何をする人ぞ
  • 秋(10・11・12月)……清算の時。4年前の悪夢が頭をよぎる
  • 冬(1・2・3月)……天使か悪魔か。思惑に左右される

(4・5・6月)

・新年度。トレーダーには迷惑な季節

春は、新年度の開始に伴って、学生や社会人が新生活をスタートさせるように、株式相場にも新しい風が吹き込んできて、相場が盛況になりやすい。

また、日本の上場企業の約7割が、この時期に決算発表を迎える。4月・5月のメインイベントである。通常、決算発表を好奇心旺盛に待ち望むのが投資家の姿なのだが、トレーダーの実情は異なっている。この時期、我々の多くは芳しくない顔をしているのだ。

「決算には手を出すな」がトレーダーの基本的な姿勢だ。なぜなら、4月から5月にかけての決算発表のピーク時には、どうポジションを取ろうが、株価は問答無用に大きく動いてしまうからだ。

引け後(15時以降)の決算発表が通例だが、ザラ場(場中)に発表する企業も増えている。大人しそうな銘柄が、決算発表を受けた次の瞬間、上下に勢いよく飛んだりする。翌日に持ち越した銘柄が、引け後の決算発表のおかげで大変なことになった……という苦い経験を持つトレーダーもいるだろう。

外はうららかな陽気に包まれていても、企業の業績より株式の値動きに着目するトレーダーにとって、春は危険な季節なのだ。

(7・8・9月)

・閑古鳥が鳴く相場。隣は何をする人ぞ

夏と言えば、トレーダーにとって暇な時期である。毎日トレードをしていると、7月半ばから、噂通りに市場から人が減っていくのがわかる。

例えば、直近高値を更新する相場展開で、我先にと買い向かっても、自分の後ろには誰もいないことがある。春にいたはずのトレーダーが不在なのである。しかも、徐々に減っていくので、気がついたときには取り残されたような、裏切られたような感覚に陥ってしまう。

この時季にトレードブログを開いてみると、「長期旅行に行ってきます」「今日は外に出て」等の記述が目に付くだろう。この点で、互いに顔の見えないトレーダーも「ああ、普通の人間なのだ」と安堵する季節でもある。

だが、2020年は4年に一度の夏のオリンピックが、しかも東京で開催される。出場選手の所属する企業に注目が集まりそうだ……と思ってところに、延期という思わぬ展開が襲ってきた。ウイルスの影響もまだ見通せないが、例年以上に寂しさが募る夏になるかもしれない。

(10・11・12月)

・清算の時。4年前の悪夢が頭をよぎる

年末が押し迫る秋を迎えると、トレーダーはどうしているのだろうか? 夏に枯渇した市場が再び潤い始める時期である。1年を締めくくるトレーダーの頭によぎるものは「成績」であり、思い通りの成績が残せていないトレーダーは、市場が活況になる10月と11月に最後の望みを託すことになる。

一方、機関投資家(証券会社等の法人)は、粛々とポジションを解消する作業に入る。特に12月は、買い・売りに偏った需給がフラットになる特徴が顕著になってくる。よって、相場の大きな流れを読み、ポジションを長めに保有する戦略に変えてくるトレーダーもいるだろう。

そして、2020年の11月にはアメリカ大統領選挙があるようだ。

4年前は、民主党のヒラリー・クリントンと共和党のドナルド・トランプが対決し、多くの世論調査を覆してトランプが勝利した。結果判明と同時に大きく株安・円高に振れたかと思うと、その直後から倍返しの上昇劇を演じたのだ。アメリカの株価指数であるダウ平均株価から目が離せないだろう。

(1・2・3月)

・天使か悪魔か。思惑に左右される

新年を迎えると、12月に一旦フラット(または空っぽ)になったポジションを、新たに積み上げる時期に入る。その影響で、1月・2月は掴みどころのない相場になりやすい。

おこづかい(=投資資金)を使い切っていない法人や余力のある投資家が、「さー、何を買おうかな」とウィンドウ越しに商品を吟味しているのだ。

吟味しているとき、人は優柔不断である。ユニクロの試着室を行ったり来たりするように、買いに傾いたかと思えば、あっさりと売り長に方向転換してしまう。我々トレーダーにとっては、大きなうねりの中で翻弄されてしまう季節になりやすい。

また、インフルエンザのピークが到来する中、2016年のチャイナショック、2018年のアメリカ発のVIXショック、2020年の新型コロナウイルスショックなど、日経平均株価が急落する場面が目に付く。

逆張り派のトレーダーは腕が試される一方で、実際にショックが起こると相場環境が大きく変化する(つまり、手法が通じなくなる)ので、短期トレーダーであっても要警戒だろう。

トレードの醍醐味とは

四季の折々の相場環境には、毎年同じような特徴的傾向が表れている。そこでは、これまで相場内の狭義であった「需給」という言葉が、人の生活・行動そのものを反映し、大きなうねりを形成する広義の意味として見ることができる。

こうして見てみれば、株価の一瞬のスキを狙い撃ちするテクニック重視のトレーダーも、短期的な目線と共に、長期的な目線もしっかりと併せ持っていることがわかるだろう。だが重要なのは、企業業績の展望に対してではなく、市場参加者の動向(増減)を見ているという点だ。

短期トレードなんて所詮「もぐら叩きゲーム」なんだから、四季とか関係ないんじゃね? という目でトレーダーを見ている向きにも、「へー、意外といろいろ考えているんだね」と思ってもらえたら嬉しい。そのうえで、長期投資とは違ったトレードの趣にも興味を持ったもらえたら幸いだ。

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[執筆者]高野 譲
高野 譲
[たかの・ゆずる]株式・先物・FX投資家、個人投資家8年と証券ディーラー8年の経歴を持つ。現在は独立し、投資関連事業を法人化、アジアインベスターズ代表。著書に『図解 株式投資のカラクリ』『株式ディーラーのぶっちゃけ話』『超実践 株式投資のプロ技』(いずれも彩図社)などがある。
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