バブル後高値に市場が沸く今、あえてREIT(不動産投資信託)について考えてみたい

佐々木達也
2023年6月20日 15時00分

Kalim / Adobe Stock

出遅れ気味のREITを深掘り

日経平均株価が33000円を超えて、バブル期以来の高値圏で推移しています。海外投資家好みの大型株に資金が向かう一方で、中小型株や東証REIT指数などは依然として出遅れています。

REIT不動産投資信託)は金利上昇に弱い側面があります。東証REIT指数は2021年7月に2200ポイントを付けて以来、インフレ懸念や金利上昇で上値の重い展開が続いていました。

2022年3月に1746ポイントの安値を付けたのち、4月の日銀の金融政策の現状維持を受けて1900ポイント近辺まで戻りを見せる場面もありましたが、主力株に資金が向かったこともあり、その後は出遅れの状況が続いています。

そんなREITを巡る現状について深掘りしてみたいと思います。

そもそもREITとは?

REIT(Real Estate Investment Trust:リート)とは「不動産投資信託」のことで、投資家から集めた資金を不動産に投資して、得られた賃料収入を投資家に分配するファンド(投資信託)です。世界各国で様々なREITが運用されており、日本のREITは「J-REIT」と呼ばれます。

証券取引所にも上場しているREITは、実物の不動産に比べて小口での売買が可能なため、流動性が高い点が魅力です。

また、上場企業の場合、事業利益に対して約40%の法人税が課税された後の税引き後の利益から配当などが支払われます。

これに対してJ-REITでは、賃料収入から必要経費を引いた純利益の90%以上を投資家に分配することを条件に税金が免除されることになっており、株式の配当利回りに比べて高めの分配金利回りを享受することができます。

REITの人気を表すNAV倍率

株式投資では、企業の純資産の株価に対する人気を表すPBR(株価純資産倍率)が投資指標として用いられます。REITでは、投資信託の純資産総額(NAV=Net Asset Value) を株価に相当する投資口価格で割り算したNAV倍率がこれに相当します。

NAV倍率が高ければ高いほど投資家の人気が高いことを表しますが、投資口価格に対する分配金利回りは低めになります。反対に、賃料収入が減少している、市況が弱含んでいるなどの理由で人気が低迷しているREITのNAV倍率は低くなりますが、分配金利回りは高まることになります。

投資先で変わるREITの特徴と現況

不動産証券協会によると、現在、東証REIT市場には約60銘柄が上場しており、時価総額は約15兆円程度です。それらのREITは、オフィス型や住居型など投資先の違いによって賃料収入や市況、人気もかなり変わってきます。それぞれの特徴と代表的なREIT、現在の市況について見ていきましょう。

・オフィスビル型REIT

2001年にJ-REIT市場がスタートした際、最初に上場したのがオフィス特化型の日本ビルファンド投資法人<8951>とジャパンリアルエステイト投資法人<8952>の2銘柄だったこともあり、現在REITの運用資産の約4割は、このオフィスビル型で運用されています。

オフィスビルは、1物件あたりの金額も大きく、テナントも法人となることから、後述する住居型に比べて景気変動の影響を受けやすいのが特徴です。

オフィスビル需要は、新型コロナの感染症法上の分類が5類に引き下げられたことで、出社する人の割合が増えていることもあり、足元ではやや回復気味です。

しかし、都心部などのオフィスは新規の供給が続いており、テレワークの普及で企業が出社スペースを広げていないこともあって、平均賃料は下落が続いています。最新のオフィスビル市況(三鬼商事)によると、4月の東京ビジネス地区の平均賃料は19896円で、2020年7月以降、3年近く緩やかな下落基調が続いています。

こうした流れを受けて、日本ビルファンド投資法人の投資口価格も2021年以降は下落基調となっており、5月26日には年初来安値を更新しました。ジャパンリアルエステイト投資法人も同様の値動きです。

・住宅型REIT

個人向け賃貸マンションやアパートなどで運用する住宅(レジデンス)型のREITは、オフィスビルなどに比べて景気変動の影響を受けにくく、賃料収入が安定しているのが特徴です。

住居型に特価したJ-REITとしては、スターツプロシード投資法人<8979>やアドバンス・レジデンス投資法人<3269>、コンフォリアレジデンシャル投資法人<3282>などがあります。

例えばスターツプロシード投資法人は、不動産賃貸・仲介の「ピタットハウス」を運営するスターツコーポレーション<8850>系列のREITです。

需要の安定している単身タイプやファミリータイプの賃貸住宅をメインに全国の100以上の物件に分散投資して、稼働率は32期連続で95%以上となるなど堅実な運営となっています。他の住宅型REITも、概ね、投資口価格は堅調に推移しています。

・商業施設型REIT

商業施設型のREITは、主にショッピングモールや都市型の商業施設などに投資します。1物件あたりの投資金額はわりと大きく、景気変動の影響も受けやすい点が特徴です。

リテール大手のイオン系列のイオンリート投資法人<3292>や、デベロッパーの日本エスコン系列のエスコンジャパンリート投資法人<2971>などがこれに当たります。

新型コロナによる影響からの経済正常化やインバウンドによる消費回復で商業施設の市況は改善していることもあり、イオンリート投資法人などの投資口価格は安定した値動きとなっています。

・ホテル・旅館型REIT

ホテル・旅館型REITは、ホテルや旅館、リゾート施設、温泉施設などで運用するタイプのREITです。物件あたりの投資金額はまちまちですが、平均するとオフィスと住宅の中間くらいとなります。商業施設型と同様に、昨今の外出機会の増加やインバウンドで賃料収入は上昇傾向となっています。

該当するREITは、星野リゾート・リート投資法人<3287>やいちごホテルリート投資法人<3463>、大江戸温泉リート投資法人<3472>などがあります。

・物流型REIT

アマゾンなどネットショッピングの普及によって、大型物流施設の新設や多機能化が広がっており、こうした動きを背景に物流施設で運用するREITの種類も増えています。空港や港湾、高速道路のインターチェンジなどの付近に大型の物流施設が整備されるケースも多く、1物件あたりの投資金額は比較的高めです。

該当するREITは、ラサールロジポート投資法人<3466>、日本プロロジス投資法人<3283>、GLP投資法人<3281>などがあります。

ただし、最近では物流施設の新規供給が増えており、先行きの賃料の下落を予想する向きもあることから、投資口価格はやや上値が重い傾向となっています。

今こそREITを検討してみる理由

タイプ別のREITと特徴について解説しました。この他にも、さまざまな投資先を組み合わせて投資する「総合型REIT」として、森トラストリート投資法人<8961>やオリックス不動産投資法人<8954>、大和ハウスリート投資法人<8984>などもあります。

また、特定の地域の色々なタイプの不動産物件に投資するタイプとして、福岡リート投資法人<8968>、東海道リート投資法人<2989>などもあります。

足元のREITの市況は、オフィス系の投資口価格が弱含んでいる一方で、住宅系やホテル系、商業施設系の業績が回復傾向となっており、東証REIT指数は下値を切り上げつつあります。日銀による金融政策の引き締め方向への転換は、REITの市況にとっては引き続き懸念事項となりますが、価格の下落が分配金利回りの上昇につながるREITの特性も、下支えとなりそうです。

東京証券取引所が開示している東証REIT市場の月間売買状況によると、5月は、投資信託や事業法人が買い越していた一方、株式相場の上昇もあり、海外投資家や個人投資家は売り越しとなりました。

為替リスクなしで利回りも魅力的な水準の銘柄も多いREIT。株式市況も好転が続いている昨今ですが、高配当株などを中心に投資を行っている方は、ちょっと目先を変えて出遅れ気味のJ-REITを投資先として検討してみるもの面白いのではないでしょうか。

[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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