続々と高値更新の自動車株、明暗分かれた電機株、そして、ずるずると安値更新のアノ業界【今月の高値更新】

佐々木達也
2023年6月6日 12時00分

Silvia Orlando / Adobe Stock

《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。その記録を新たに更新することは、“伸びしろ”の表れかもしれません。直近で高値更新を果たした銘柄から、いまの相場の流れを読み解きます》

5月の日経平均株価は、海外投資家からの本格的な資金流入などもあり、29日に31560円の高値をつけ、その後もバブル期以来の水準で推移しています。欧米やアジアなど海外の先進国株の中でも日本株の強さが際立っており、国内外からの関心の高さがうかがえます。

こうした中で、高値を更新して相場の牽引役となっているのは、どのような銘柄でしょうか?

・「高値更新」とは?

相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たについた高値を「新高値」と呼びます。

【株価の高値更新】
  • 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
  • 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
  • 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象

新高値と、あわせて新安値の銘柄も取り上げながら、それぞれの共通点に着目し、強気相場の特徴をひもといてみたいと思います。

自動車部品株が軒並み新高値

自動車メーカー各社は、昨年までコロナ禍や自動車に必要な半導体の部品不足で、生産が落ち込んでいました。しかし、コロナ禍が一服し、半導体のサプライチェーンも改善して、自動車メーカーや部品メーカーに業績改善の期待が広がっています。

トヨタ自動車<7203>が5月30日に発表した4月の世界生産台数は、前年同月比で14%増の78万7800台。4月としては過去最高を更新しました。

なかでも、自動車部品メーカーなどは昨年まで株価が手遅れていた銘柄も多く、反動で買われています。一時後退していたアメリカの利上げ期待が再度高まりつつあり、円安ドル高が進行していることも、輸出額の大きい自動車部品メーカーの追い風です。

自動車部品大手のデンソー<6902>は、5月29日に年初来高値8932円を付けました。EV向け部品やカーエアコンなどの販売が伸びています。4月27日に発表した今期(2024年3月期)予想では、10%程度の車両減産リスクを織り込みながらも、営業利益は前期に続いて過去最高益となる見込みです。

このほかにも、アイシン精機系列で自動車のトルクコンバーターなどを手がけるエクセディ<7278>は5月23日に年初来高値2225円を付けました。また、日産向け自動車プレス大手のユニプレス<5949>も5月12日に年初来高値1088円を更新しています。

明暗が分かれた大手電機株

海外投資家が、日本を代表する国際優良株に資金を振り向けています。また、東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に対して改善策を発表するよう働きかけており、日本企業の資本効率が改善されるとの期待が広がっています。

こうした中で、大手電機メーカー株でも高値更新が相次いでいます。

日立製作所<6501>は5月18日に8332円の高値を付け、年初来高値を更新しました。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)ニーズが高まり、デジタルシステム部門が伸びたほか、鉄道システムやビルシステムなどの事業も成長しています。

また、NEC<6701>も5月31日に年初来高値6550円を付けています。企業向けのITシステム構築が、業績の成長ドライバーとなっています。

さらに、パナソニックホールディングス<6752>は5月19日に1508円の高値を付け、年初来高値を更新しています。アメリカでEVの需要が広がっており、投資を続けてきた車載電池部門の利益が拡大しつつあります。また、自動車向け部品や欧州での空調機器なども拡販が期待されています。

これに対して、明暗が分かれる結果となったのが、シャープ<6753>です。

5月31日に800円を付け、年初来安値を更新しました。5月11日には、前期(2023年3月期)の連結決算が2608億円の大幅赤字となったと発表し、その後、株価は下落が続いています。テレビ向け液晶パネルの市況悪化で、大阪・堺のパネル工場で減損損失を計上したためです。

BtoB(法人向け)事業の割合が高い他の電機メーカーに比べて、液晶パネルはBtoC(個人向け)の側面が強く、台湾のホンハイ傘下で構造改革を進めていますが、業績の改善には当面時間がかかりそうです。

アゲを先導した半導体株

半導体株は、日米ともに5月の相場の牽引役となりました。きっかけのひとつが、GPUと呼ばれる画像処理用半導体のメーカーである、アメリカのエヌビディア<NVDA>です。

5月24日、2023年2~4月期の決算発表時に、最近話題の「ChatGPT」などAI(人工知能)向けのGPUの需要が急増している、との経営陣のコメントなどが出されました。それが買い材料となり、株価はその後、上場来高値を更新するまで上昇しました。

GPUは、パソコンなどに搭載されているCPUと同じくデータの計算などを行う半導体ですが、画像や言語など大量のデータを並列に処理する作業を得意としています。

半導体は、スマホやパソコンの売り行きが落ち込んでいることからメモリーなどの価格下落が続いていました。しかし今回エヌビディアの決算で、AIに対する先端半導体の需要が市場関係者の予想を大きく上回っていることがわかり、半導体株に資金が向かったのです。

東京市場でも東京エレクトロン<8035>、SCREENホールディングス<7735>、アドバンテスト<6857>といった半導体製造(検査)装置メーカーが、そろって年初来高値を更新。これらの銘柄は日経平均株価への寄与度が高い「値がさハイテク株」であることから、日経平均の上昇を支えています。

そのほか、半導体のパッケージメーカーのイビデン<4062>は5月31日、エヌビディア<6967>は5月29日にそれぞれ年初来高値を、半導体の材料であるシリコンウエハーの世界トップシェアである信越化学工業<4063>は5月29日に上場来高値を更新。半導体株全体に買いの手が向かっています。

日経平均33年ぶり高値でも安値更新の銘柄たち

日経平均株価が33年ぶりの高値圏にある中でも、買われているのはハイテク株などを中心とした大型株です。グロース市場、スタンダード市場や物色圏外の中小型株には資金が向かっておらず、市場全体が「総強気」というムードでは、まだなさそうです。

ただ、こうした銘柄が下げ止まり、そして反転に転じる場面は、相場全体の転換点となりやすいので、注目しておくことをおすすめします。

例えば、家庭用品大手の花王<4452>は5月31日に4877円を付け、年初来安値を更新しました。

原材料高の影響やインフレの進行する欧米市場の苦戦などもあり、5月10日に発表した2023年1~3月期決算は前年同期比で大幅減益となりました。同業ではライオン<4912>も同様に売られており、5月31日に年初来安値を更新しています。

円安による輸入コスト増やインフレによる節約志向で、小売りなど内需系企業にも逆風が続いています。

自転車小売りチェーン大手のあさひ<3333>も5月31日に年初来安値を更新しました。コロナ禍で一時、密を避けるメリットが注目されて自転車通勤などが人気になりましたが、円安と外出機会の増加などで、株価は上値の重い展開が続いています。

この他、ゆうちょ銀行<7182>や多くの地銀株も、5月31日に新安値を更新しています。

4月に日銀の植田新総裁が就任し、初めて金融政策決定会合が開かれました。市場の一部では政策転換も期待されていましたが、蓋をあけてみると、短期的には現状の大規模緩和政策を維持すると発表したこともあり、金利の先高感が遠のき、収益回復が遅れそうな金融株が弱含む展開となっています。

[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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