海運、金融、半導体の上場来高値ラッシュと、その陰で売られた銘柄たち【5月の高値更新】

佐々木達也
2024年6月5日 16時00分

《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。それは〝伸びしろ〟の表れと言えるのかもしれません。最近ベストを更新して伸びしろを見せているのは、どんな銘柄か。直近で高値をつけた銘柄から相場の流れを読み解く【高値更新を追え!】》

5月の日経平均株価は前月末に比べて82円高と、わずかながら反発しました。アメリカや国内の金利上昇を受けて金融政策への不透明感が強まり、上値の重い展開となりました。

しかし、38000円を下回る安値圏で買い遅れた投資家による押し目買いや、3月期の決算発表シーズンが一巡したこともあり、好業績銘柄などが買われて相場を下支えしました。

また、金利上昇を受け、年初に好調だったグロース株(成長株)から景気敏感のバリュー株(割安株)に相場の牽引役が移っていった流れもありました。

こうした中で、高値を更新しているのは、どのような銘柄か。新高値・新安値をつけた銘柄を取り上げながら、それぞれの共通点に着目し、5月相場で特徴的だった銘柄をひもときます。

・高値更新とは?

相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。

【株価の高値更新】
  • 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
  • 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
  • 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象

海運市況復調で海運株が新高値ラッシュ

5月は、業種別では海運株が強い動きとなりました。2023年の秋以降、中東の紅海で武装組織による船舶の攻撃があり、海上輸送は混乱状態となっています。そのためコンテナ船の運賃が急騰していましたが、こうした動きが一服して海上運賃も下落、3月には海運株の多くが下落していました。

しかしながら、その後は運賃の高止まりが続いたほか、決算発表シーズンで海運各社が株主還元の強化を表明したことを受け、再度買い戻されています。

日本郵船<9101>は5月5日に今期の年間配当を増配見通しとし、さらに、上限1000億円の自社株買いを実施すると発表しました。株主還元の強化などが評価されて株価は上昇、28日に上場来高値の5215円を付けました。

同業中堅の飯野海運<9119>も、同じ日に上場来高値を更新しています。

金利上昇で金融株が上昇。9連騰の銘柄も

5月のマーケットでは国内の金利上昇も話題となりました。

日銀は13日に実施した国債の買い入れオペで、一部の国債の買い入れ額をこれまでより減額しました。これを受けて、6月の金融政策決定会合では買い入れ額の目安を引き下げ、金融正常化にさらに一歩踏み出すのではないか?との見方が市場で広がりました。

長期金利とされる10年もの国債の利回りは一時1.1%と、2011年以来の水準をつける場面もありました。

こうした金利上昇を受けて、利ザヤが拡大するとの見方が出た銀行株保険株などが買われる展開が続きました。三井住友フィナンシャルグループ<8316>は7日から20日にかけて9連騰と、期待の強さをみせ、31日に年初来高値10320円を付けました。

このほか、月末31日は千葉銀行<8331>が年初来高値1493.5円を付け、バブル期1989年の高値1560円まで70円弱に迫りました。ほかにも、西日本フィナンシャルグループ<7189>、百十四銀行<8386>、京葉銀行<8544>など多くの地銀が年初来高値を上回っています。

銀行よりも長期の債券が資金運用することが多い保険各社も、同様に買われました。

SOMPOホールディングス<8630>は29日に上場来高値3379円を付けました。自社株買いの強化をはじめとする株主還元策や、持ち合い株の保有を段階的にゼロにするとの方針が評価され、株価水準訂正の動きが続いています。

同じ29日には東京海上ホールディングス<8766>、MS&ADインシュアランスグループホールディングス<8725>も、ともに上場来高値です。第一生命ホールディングス<8750>は31日に上場来高値を更新しました。

エヌビディアの決算発表で半導体株が上昇

5月後半にかけて市場が注目したイベントが、22日の米半導体大手エヌビディア<NVDA>の四半期決算発表でした。生成AIの拡大で先端半導体の需要が高まる中、決算内容は市場予想を上回るものとなり、エヌビディア株は決算後に上昇しました。

この流れを受けて、半導体切断装置を手がけるディスコ<6146>が29日に上場来高値64990円と強い値動きとなりました。

AIデータセンターで電力不足→電力株が高値

AIによるデータ増加で、各国ではデータセンターの建設が進んでいます。日本でも、グーグル(アルファベット<GOOGL>)が千葉県にデータセンターを開設。そして、こうしたAIデータセンターでは従来よりも電力消費量が大きい、として買われる流れが生まれているのが、電力株です。

電力株は、原発再稼働による採算の改善やエネルギー価格の上昇一服も追い風となっています。関西電力<9503>、東北電力<9506>、九州電力<9508>、北海道電力<9509>は29日に、中部電力<9502>は31日に、それぞれ年初来高値を更新しました。

また、データセンターで使われる光ファイバーケーブルや電線を手がける古河電気工業<5801>が28日に年初来高値、住友電気工業<5802>とフジクラ<5803>がともに29日に、いずれも上場来高値を上抜けて強い動きが続いています。

資源価格上昇で非鉄金属が買われる

資源価格上昇を受けて、5月は非鉄金属株でも高値更新が相次ぎました。

前述のAIデータセンターなどに使われる電線やEV向け需要、さらには中国の景気回復期待で、銅価格は20日に1トン11,000ドル台となり、2年ぶりに最高値を更新しました。金先物の国際指標となるニューヨーク先物(中心限月)なども最高値圏で推移しています。

こうした流れで、国内では三菱マテリアル<5711>と住友金属鉱山<5713>が21日にそれぞれ年初来高値を付けています。

個別物色で買われたのは百貨店と物流

個別銘柄で上昇率が高かったのは、三越伊勢丹ホールディングス<3099>です。月間で約5割も上昇しました。円安でインバウンド消費が引き続き好調なほか、国内でも宝飾品など高額消費が伸びています。株価は31日に年初来高値3270円を付けました。

同業で阪急阪神東宝グループのエイチ・ツー・オー リテイリング<8242>も同日に年初来高値です。

そのほか、物流のC&Fロジホールディングス<9099>も5月に株価が約5割上昇し、24日に上場来高値5670円を付けました。同業のAZ-COM丸和ホールディングス<9090>と佐川急便のSGホールディングス<9143>による買収提案報道で、買収価格が引き上がるとの期待が背景です。

なお、物流会社は2024年4月からのドライバーの時間外労働の規制強化で、抜本的な生産性改善が急務とされています。

5月に売られた株は?

5月は金融や資源など景気敏感株が上昇した一方で、内需・ディフェンシブ株の一角が売られました。

なかでも、決算発表を受けて売られた業種のひとつが、ゲーム株です。「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」などを手がけるスクウェア・エニックス・ホールディングス<9684>は、30日に年初来安値4415円を付けました。

同日には「信長の野望」「三國志」などのコーエーテクモホールディングス<3635>も年初来安値を更新。家庭用ゲームは、大型タイトルの不在や開発費用の高騰、スマートフォンなどによる余暇時間の減少で、新作ゲームが以前ほど売れなくなってきている点が業績を圧迫しています。

月末にかけては鉄道株にも売りが広がりました。京成電鉄<9009>、相鉄ホールディングス<9003>は30日、東武鉄道<9001>、小田急電鉄<9007>は31日に、それぞれ年初来安値となっています。

コロナ禍からの業績回復が一服したほか、人件費などのコスト上昇もあり、今期の業績は減益計画とする鉄道会社も多く、決算発表シーズン一巡でいったん売りが出たものと思われます。

これから夏に向けては、どんな銘柄が活躍するのか? 引き続き、高値更新・安値更新の銘柄を中心にウォッチしながら、相場の潮目を探っていきたいと思います。

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[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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