ユニクロ850万円、アップルは2万円… 個人投資家がなかなか増えないのは「単元株制度」のせい

山下耕太郎
2022年8月22日 12時30分

Bogey Yamamoto/Adobe Stock

《日本の個人金融資産が2000兆円を超えたものの、そのほとんどは現金・預金。なぜ、いつまでも株式投資が浸透しないのか? その理由のひとつと考えられる「単元株制度」の仕組みと問題点を解説》

個人金融資産2000兆円時代

日本銀行が2022年3月に発表した2021年10〜12月期の「資金循環統計(速報)」によると、2021年12月末時点の家計金融資産(個人金融資産)は2015兆円となり、初めて2000兆円の大台を突破しました。そして、6月に発表された2022年3月末でも2005兆円となっています。

金融資産が初めて1000兆円に達したのは1990年。そこから30年あまりで倍増したことになります。賃金がほぼ横ばいのなか、将来への不安から消費を抑え、貯蓄に回す傾向が強くなったことが原因です。また、高齢化の進展によって、50代以上の預金を持つ人が増えているのです。

ただ、家計資産の半分以上を占めているのは「現金・預金」です。3月末時点の残高で、現金・預金は1088兆円。全体の54%を占めています。しかもこれは、過去30年間の上限値(48~55%)に近くなっています。

それに対して、「投資信託」「株式等」をあわせても約15%で横ばい。国民資産全体から見ると、貯蓄から投資への流れはほとんど進んでいないことがわかります。

アメリカの個人金融資産は114兆ドル(約1京2900兆円)で、その半分以上を株式と投資信託が占め、株価上昇が国民の資産と消費を押し上げています。日本の個人金融資産は約30年で2倍になりましたが、アメリカは6.7倍に膨らみました。

個人株主の比率が半減

日本では個人株主の比率が低下しています。東京証券取引所などが7月に発表した「2021年度株主分布状況調査」によると、個人が保有する株式の割合は金額ベースで16.6%と、この50年間で半減しました。

戦後、財閥や政府が保有する株式を個人が保有することを推奨する「証券民主化運動」が起こり、1970年代には個人株主の持ち株比率が40%近くに達しました。

しかしその後、企業は外資から経営権を守るため、銀行などとの株式持ち合いを加速。バブル崩壊とともに日本企業の成長期待も崩れ、2011年度以降、個人株主比率は徐々に低下し、最近は20%を割り込んでいるのです。

若年層中心に投資への関心が高まる

ただ、若年層を中心に投資への関心は高まっています。楽天証券は2022年に証券総合口座数が800万口座を突破しましたが、新規口座の開設では、30代以下が6割強を占めています。

「給与が上がらない」など将来への不安が高まり、積立でコツコツ投資する需要が伸びているのです。

そうは言っても、株式投資に対するハードルはまだ高いようです。日本証券業協会の「証券投資に関する全国調査(2021年度)」によると、株式を購入しない理由として「株式投資するほどの資金がなかった」が24.6%で2番目になっています。

投資への壁は「単元株制度」にあり

日本で個人投資家が増えない理由のひとつは、「単元株制度」にあると考えられます。単元株制度とは、株式を売買する際の最低取引株式数(1単元)を企業が自由に決められる制度で、2001年10月に施行された改正商法で導入されました。

単元株制度では、企業は定款で一定の株数を1単元とすることを定めることができます。ただし、1単元の株式数が1,000株を超えることはできません。さらに2018年10月1日より、全国の取引所において株式の売買単位が100株に統一されたため、現在では、すべての株式が100株単位で取引されています。

一方、アメリカでは1株単位で株式を購入できます。

たとえば、ユニクロを展開するファーストリテイリング<9983>の株価は85,550円(8月19日終値)なので、株式を手に入れるには850万円を超える資金が必要になります(手数料等を考慮せず)。でも、米アップル<AAPL>は174.15ドル(8月18日終値)なので、2万円ちょっとで購入できます。

アメリカ株の多くが数万~数十万円で購入できるのに対し、日本の有名企業では数百万円の資金が必要になることも珍しくありません。

非課税制度であるNISAは、個人の資産を貯蓄から投資へ回してもらうための施策のひとつですが、そもそも年間の非課税枠が120万円しかなく、それでは購入できない銘柄も多いのです。日本が手本にしたイギリスのISAの320万円とも開きがあります。

「貯蓄から投資」への流れをつくるためには、株式を購入しやすいようにNISA制度を見直すことと、アメリカのように1株で購入できるようにする必要があるでしょう。

株式投資をすべての人へ

ネット証券各社では、少額投資のニーズに応えるため、1株から購入できる「単元未満株」サービスを行っています。しかし、単元未満株は取引が終値のみか1日3回に限定され、リアルタイムでの売買はできません。

また、単元未満株では完全な株主の権利も認められません。配当金は受け取れますが、株主優待は受けとれませんし、株主総会での議決権もないのです。

日本では依然として「株式投資はお金持ちがするもの」というイメージが強いのですが、それは「単元株制度」が原因のひとつだと言えます。実際、ユニクロ株がほしければ800万もの資金が必要だと聞けば、ほとんどの人が諦めてしまうでしょう。

個人金融資産が2000兆円を超えた今こそ、個人投資家の裾野を広げるために、より効果的な策が講じられることに期待します。

【問題】ファーストリテイリングの株価はこれから上がる? それとも下がる? プロトレーダーの答えは?

[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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