理想の投資家に必要なのは「変わらない味を守る」こと

朋川雅紀
2024年5月27日 17時00分

《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》

理想の投資家に近づくには

理想の投資家に近づくためには、どうすればいいのでしょうか。

いろいろな考え方があると思いますが、私がポイントと思うのは、「感情のコントロール」「インフォメーションとノイズの区別」「情報分析」「変わらない味を守る」の4点です。

感情のコントロール

ふつふつと湧き上がる感情を無理やり抑え込むのは難しいかもしれません。しかし、感情任せの行動は避けなければないません。怒りに任せてコップを投げ付けても、一瞬の爽快感を味わうことはできても、後始末のことなどを考えれば、決して理にかなった行動とは言えないことはおわかりでしょう。

投資判断においても、感情に基づくのではなく、あらかじめ決められた戦略に基づいて意思決定を行わなければなりません。

インフォメーションとノイズの区別

ファンドマネージャーになってからしばらくの間、私は、情報こそが運用成績を決めるものだと強く信じていました。

そして、「運用成果を出しているファンドマネージャーは私の知らない情報をたくさん持っているはずだ」と思い込み、時間をかけて情報を取りに行くことだけに注力していた時期がありました。いま考えると、なんと無駄な時間の使い方をしたのだろうと恥ずかしくなります。

確かに、株式投資において情報が重要であることは間違いないですが、それはほんの一部に過ぎません。投資スキル(実力)もないのに、情報ばかりを集めても結果が出るわけがありません。

料理の世界に当てはめて考えれば、よくわかります。いい食材を集めただけでは美味しい料理にはなりません。シェフが料理をうまく作るスキルを身につけてこそ、いい材料が活きるのです。つまり、株式投資においては、投資スキルと情報が合わさって初めて結果が付いてくるものです。

投資スキルが備わると、売買に影響を与えるかもしれない重要な情報(インフォメーション)と、売買には直接役に立ちそうもない雑音(ノイズ)を区別することができるようになります。

すると、この情報はもっとじっくり精査しようとか、この情報は要らないからスルーしようとか、時間の使い方が格段と効率的になります。

情報分析

優れた投資家は、企業のビジネスモデルを理解し、その企業がこれからどちらへ向かうかを把握しようとします。投資は、単なる思いつきでするものではありません。考えに考え抜かなければできないものです。

投資対象企業について、5年後、10年後の将来、どんな姿になっているのだろうかと想像します。何事も額面通りに受け取らず、あらゆる場面を想定して対応しようとします。何が大事で何が大事でないかを見極めようと努力するのです。

そして、直近のデータだけに惑わされることなく、その先を見ようとします。それには、まず過去のイベントを整理し、これから起こりそうなことの一覧を作ってリスクとリターンを勘案する材料にします。数手先まで読めるかどうかが明暗を分けることになります。

こうして自分なりのシナリオを作り、データを総合的に評価し、相場のストーリーを構築します。さらに、市場の変化や市場参加者の関心の方向に応じて、それを調整します。株価変動や需給関係など、自分の理屈を裏付けたり否定したりする材料を常に探そうと、努力を続けます。

投資対象の企業の株価がどのように動いているかを把握し、どんな材料がどの程度影響しているかを理解しようとし、資金の流れなどを判断します。

これらが、優れた投資家がやっていることです。

それに対して、一般の多くの投資家は、「この企業は将来どんな姿になっているのだろうか?」などとは考えません。何事も額面通りに受け取り、何かが起きてからそれに対応しようとします。

また、何が重要で何が重要でないかは見極めようとはしません。物事をじっくりと調べて本物か否かを見極めるような面倒なことはしません。

変わらない味を守る

誰にでも、思い出の味や懐かしい味というものがあるでしょう。

久しぶりに昔懐かしい味に出会ったとこ、「あれ? こんなもんだっけ?」とか「味変わった?」とか、期待を裏切られたような気分になることもあれば、「これこれ、この味! いつ食べても美味いなあ」と、ひと口食べて懐かしさがこみ上げてくることもまた多いはずです。

けれども実は、「昔のままの味が変わっていない」という場合は前者に該当することが多く、反対に後者に該当する場合は、驚くことに「実は少しずつ味を変えている」というケースが多いのです。

「変わらない味を提供するために、味を変える」とは、一体どういうことでしょうか。ひと言で説明すると、「日々の努力(進化)なくして、変わらない味は守れない」ということです。つまり、時代の移り変わりや人々の嗜好の変化に合わせて、少しずつ味を変化させ続けるのです。

言い換えれば、何十年も昔の味をそのまま出しても、食べた人にとっては昔から美味いと感じて食べてきた料理にはならない、ということです。同じ料理でも少しずつ作り方を変えて、変わらない味に磨きをかけている、とも言えるでしょう。

株式投資にも共通して言えることは、一流の投資家というのは、日々の研鑽に励み、少しずつ味(投資スタイル)を改良しているということです。時代や金融市場の変化に対応して、自分のスタイルを微修正しているのです。現状に満足してあぐらをかいていては、投資成果の改善は期待できません。

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[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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